03.やっぱり頑張って死ねばよかった。
「坊ちゃま!」
私が車に乗り込むと、上品な運転手が慌てた様子で西園寺璃央に声をかけた。
それはそうだろう、自殺しようとした人間を拾うなど正気の沙汰じゃない。
それに西園寺璃央はどう見ても良いとこのお坊ちゃん。底辺庶民の私と関わりを持つだけでも身内は嫌がるだろう。
「まぁ、いいじゃない。どうせ父さんは滅多に帰って来ないんだから、それに家の名を汚す様なことはしないから気にしないで」
「……かしこまりました」
運転手は不安気な表情をしながらも、車を走らせた。
私は窓の外を見ていた。
あーあ、死に損なったなぁ。
命あげたけど、この先どうなるんだろう。
性奴隷? それは嫌だなぁ。まぁ、気持ちいいならいいけど。
てか、家の名を汚すとか言ってたなぁ、この人ほんとに金持ちなんだなぁ。どこの坊ちゃんだろう。
あーあ、金持ちに生まれて羨ましい。
あ、てか外見外国人だけど、日本語喋ってるな。ハーフか? 日本語堪能なのか?
「わ!」
ツンとボブヘアーの後頭部を引っ張られ、思わずびっくりして声を上げた。
「ねぇ、窓の外面白い?」
振り返り西園寺璃央を見ると、ふっと綺麗な顔で微笑み聞いてきた。
「……別に……考えごとしてただけ……」
無表情でそう答えると、
「ふふ、君、面白いね。僕に何か聞くことないの?」
西園寺璃央は綺麗な顔をどんどん近づけながら少し不気味な笑みを浮かべる。
「……別に……」
後退りしながら少し眉間に皺を寄せて答えると、
「これから私どうなるの? 私に何をするの? どこへ行くの? 家に帰してもらえる? とか聞くことあるんじゃない?」
綺麗な唇はよく動いた。
「……別に家に帰りたくないし、私の命はあなたにあげたから、好きにして」
「…………」
怪訝に私が返すと、
「あっははは! そっか、僕にくれたんだもんね。わかった、僕の好きに使わせてもらうよ」
近づけていた顔を離して、少し大きな声で笑うと、西園寺璃央はそう言ってにっこりと笑った。
何か西園寺璃央って変な人だな……少し狂気を感じる。あー、私、性奴隷かなぁ。やだなぁ、なんかめんどくさくなってきた。
やっぱりあの時頑張って死ねばよかった。