表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/40

第5話 叫んだ私は悪くない

 お義母様が涙ぐんで仰いました。


「ルシアちゃん。本当にごめんね……ごめんね。あのバカには私からきつく言っておくから」


「お義父様、そしてお義母様。私は本当に大丈夫ですから。お会いしたいのはやまやまですが、父の見舞いや弟の世話などに時間をとることができるので、助かっているのです。私たちはこれからとても長い時間を夫婦として過ごすのですからゆっくりで良いと思っています」


「ああ! ルシアちゃん! 君はなんという優しい子だ! あいつには勿体ない淑女だよ! なあノバリス」


 お義父様の言葉にお義母様が涙ぐみながら何度も頷かれます。


「本当に。本当に優しい子だわ。こんなに美人な上に心も美しいなんて。素晴らしいパートナーを得たというのにあのバカ息子は……ごめんなさいねルシアちゃん。でもあなたの言う通り、あの子も頑張っているのだと思うの。王宮に出仕してまだ5年なのに、文官の中でも3番目に高い地位にまで昇っているのだもの。もう少し我慢してくれる?」


「はい! もちろんです。心からルイス様のことを応援しております!」


 私は満面の笑みで力強く応えました。

 でもたった5年でナンバースリーになれるって、どれだけ王宮ってちょろいのかと思いませんか? それとも何かカラクリがあるのでしょうか?

 まあ、結論から言いますととんでもないカラクリがあったのですが、その時の私は知る由もございません。


 お義父様とお義母様は、一週間ほど滞在されて領地に戻られました。

 どうも王都でお仕事があったようです。

 どんなお仕事かは、アレンに聞いて勉強しておきなさいと仰いました。


「いずれあなたたちに引き継ぐのだから、知っておくのは大事なことよ? ふふふ」


 お母様は私の頬を指先でぷにぷにと優しくつついて仰いました。

 お母様、もう少し爪を切った方が良いかもしれません。

 それにしても、お掃除以外にできることが増えました!

 根っからの貧乏性で、ニア守銭奴と自覚しております私としては喜ばしいことです。


 お義父様とお義母様は王城に日参され、ルイス様と面会しようとなさいましたが、会議だとか出張だとか、いろいろな理由をつけられ秘書の方に会うのがやっとだったそうです。

 ご両親でさえそうなら、顔も知らない婚約者などが行っても、ユスリタカリの類と思われるのが関の山でしょう。

 まあ行く気もございませんが。


 そんな感じで私は、午前中はお掃除、ランチの後でエルランド家の歴史と領地経営のお勉強をして、みんなで楽しい夕食という規則正しい毎日を過ごしておりました。

 返事がないことにも慣れましたが、字のお勉強だと思って週に一度はルイス様に近況報告のお手紙をお送りすることは続けております。


 この屋敷で半メイド的な暮らしをして、もう3ヵ月が過ぎました。

 父の容態に変化はなく、相変わらずの低値安定というところでしょうか。

 弟のジュリアは王宮の文官試験に合格したと言っていましたので、細々とではございますが実家も継続できるでしょう。


 これもすべてエルランド家のお陰です。

 私は一生をかけてこの御恩に報いると決意を新たにいたしました。

 それなのになぜ? というほどの大金が義両親から送られてきました。

 もしや手切れ金か? と思ってしまいましたが違いました。

 私たちの結婚式の衣装代だったのです。

 そうです、結婚式です。

 あと3か月しかありません。

 すっかり忘れておりましたわ、私としたことが。

 おほほほほほ。


 早速ルイス様にお手紙を出しました。

 今まで出したお手紙のテーマは「儚くも美しい気弱な女性」だったので、今回もその路線を貫きます。


『ルイス様


 今朝も小鳥たちの囀りで目覚めました。お屋敷の庭の花たちも徐々に蕾を膨らませ、季節の移ろいを感じます。うんぬんかんぬん


 本日お手紙をしたためましたのは、あなた様と私の結婚式についてです。エルランド伯爵ご夫妻より衣装の準備金をお預かりいたしました。ルイス様はどのようなデザインがお好みでしょうか? お色は何になさいますか? うんぬんかんぬん


 私はルイス様のお好みに合わせたいと思っておりますので、ご要望だけでもお聞かせ願えないでしょうか。仕立てには最短でもひと月はかかるそうですので。うんぬんかんぬん


 結婚指輪はどうされますか? こちらで適当にということでしたら、指のサイズだけでもお知らせください。

 季節の変わり目でございます。どうぞご自愛なさって下さいませね。毎日あなた様のご健康とご活躍をお祈りしております。    ルシア』


 毎回アレンさんに添削してもらいますが、絶妙な会いたい感を演出するのは難しいものです。

 それにしてもアレンさんは凄いです。


「これで返事が来ないなら、坊ちゃんは人を辞めたのかもしれません」


 毎回そう仰いますが、毎回返事はありません。

 私の旦那様は人ではないみたいです。コワイ……。


 しかし! 今回は返事が来たのです!

 自筆ではなく代筆でしたが。

 便箋ではなく王宮の業務連絡用紙でしたが。

 プレゼントも花も栞も何もありませんでしたが。

 しかもその内容が、なんとも寒々しいものでしたが!


『好みは無い。色も任せる。指輪は不要。以上』


「なんじゃこりゃ~~~~~!!!!!」


 私ったら仁王立ちをして絶叫してしまいましたわ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ