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ルサルカ~夢幻の城~  作者: 黒崎蓮&柊夕徒
Route Crimson
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スタンバイ!

「ねえ、クイズだして!」


 私の口癖だった。そうすれば、忙しそうにしてる父も母も構ってくれる魔法の言葉だった。

 と言っても一緒に居る時間は母の方が長いので、相手はだいたい母だった。

 ’クイズ大会’なんて言葉を聞いたからこんな記憶が、閉まっていた脳の棚からあふれてしまっているのだろう。


「じゃあ、夏の大三角形といえばデネブ、アルタイル、あともうひとつは?」

「ベガ!」

「正解!すごいじゃない、紫苑」

「えへへー」


 こうやって問題を出してもらって、正解をする、そうすると褒めてもらえる。

 忙しそうにしていたから、他所を見ていたから、もっと見て欲しかった。


 ——でもすごいじゃないか、緋村。僕、文化祭が楽しみになってきたよ。


 よりにもよって同級生の男の子に、母の面影を見てしまうなんて思わなかった。

 慣れないことの連続で精神的に疲れていたのかもしれない。

 あの廃病院での出来事もあって、無意識に母を求めてしまったのかもしれない。

 もういない、あの光を。

 

「ねえ、もっともっとー」

「じゃあ、次はねぇ……」


 今思えば激務の父を支える為に、母にもかなり負担がかかっていたのだと思う。

 だからこれは、母に甘えすぎた、罰なのかもしれない。


「ただいま」


 染み付いている癖なのか、誰かに応えて欲しいのか、今日も返事のない挨拶をして帰宅する。

 母が亡くなってから、この家は静かになった。

 クイズを出してくれる母も、褒めてくれる母も、いなくなってしまった。

 テレビのリモコンを探して、電源ボタンを押す。

 偶然にもバラエティ番組で、クイズをやっていた。小さい頃に見覚えのあった司会者から、今流行りだしているらしい男性アイドルグループが解答者として雛壇に上がって、クイズを出されていた。


『問題、サン=テグジュ……』

「星の王子さま」

『問題、最後の晩さ……』

「レオナルド・ダ・ヴィンチ」

『もんだ……』


 クイズの問題自体はありふれたもので、幼い頃に母に出してもらったようなものもたくさんあった。

 テレビの電源を落とす。

 早く答えると、その分沢山褒めてくれた。自慢の娘だって、笑顔で。

 でも今はその分、静寂が訪れる。

 父も、母を救えなかったという自責の念からか、変わってしまった。

 父は本当にたまにしか帰ってこない。実際、もともと家の中で会った記憶はそんなに多くはない。母がよく病院に連れて行ってくれて、会わせてくれていたから、父との思い出の背景の多くは病院だった。

 だからその日にあったことや、友達と何をしたかとか、その時に沢山話をした。そうすれば、父も優しい顔をしてくれた。その顔が見たくて、沢山、たくさん話した。

 でもそれも、母がいなくなってからは、一度も見ていない。

 亡くなってからしばらく、母の真似事をしていたことがある。


 頑張ってお弁当を作って持って行って。


 ―—大丈夫だよ、よくできてるよ。


 仕事で疲れてないかって聞いてみて。


 ―—大丈夫だよ、心配させてごめん。


 何か大変なことはないかって訊いて。


 ―—大丈夫だよ、大丈夫。


 それ以上は、何も言ってくれなかった。


 自分も役に立っていると思っていた。でも、父は、私のことを頼ろうとはしなかった。

 どうすればよかったんだろう。どうすれば。

 どうすれば、私の事を見てくれたんだろう。


 勉強すると、先生が褒めてくれた、友達が褒めてくれた。嬉しかった。でも、寂しかった。本当に褒めてほしい人は、やはり父と母なんだと、気づくのにそんなに時間が掛からなかった。

 そしてそれに気づくまでの時間は、周りから人が離れていくには十分だった。

 天国で母が笑ってくれるように。

 父がいつか褒めてくれるように。

 その報酬を求めて机に向かう。

 どうせ誰かと一緒に歩めるような平坦な道ではない。なら、最初から一人でも構わない。


「大丈夫だから」


 そう、今日も自分に言い聞かせて。


*****


 廃病院での奇妙な探索から一日空けて、僕らは平日の学校生活に戻っていた。

 正直あの体験をどう発表として、どんな風に面白く興味を持ってもらえるように構成するかについては放課後に探検部の総力を挙げて取り組まなければならない。

 何の前触れもなく鳴り響いた緊急コール。慌てた翔と絵裡の臨場感のある声。そもそも電気のつながっていない廃病院で、こんなことが起こりえるのか……。


「腹が減っては戦はできぬってことで。お昼だよ! 全員集合~!」

「おー……」


 どう構成を練ろうか、あれこれ思案しているうちにチャイムと絵裡の声が響く。そういえば腹が減っているような気がする。時計に目をやると、すでに昼飯時だった。

 まずい。だいぶ今の国語の授業内容をスルーしていた。


「元気がないねぇ。お、紫苑ちゃーん! こっち、一緒にお昼食べよう!」


 絵裡は席を近づけてから、手洗いにでも行っていたのか、教室に入ってくる緋村に手を振って声をかける。

 探検で同じチームになってから打ち解けたのか、早くも絵裡は緋村のことを名前で呼んでいた。おそらく僕が知る限り、緋村を名前で呼んでいるのはこの教室で絵裡だけだ。何気に偉業なんじゃなかろうか。


「え、えぇ。ご一緒しても良いのかしら。邪魔じゃない?」

「邪魔なわけないじゃーん。もう紫苑ちゃんも立派な探検部の仲間だよ」

「仲間……」


 緋村も同じく僕らに席を近づける。思い返せば、彼女はいつも一人でお昼ご飯を食べていた……ような気がする。と言うのも、数いるクラスメイトの一人として認識していたから、詳しいことは知らないというのが正直なところ。他に友だちはいるのか、勉強以外の時間は何をしているのか。僕は緋村のほんの一握りしか知らない。

 けれど、心なしか嬉しそうに席を寄せてお弁当を広げようとしているように見えて、僕は勝手に安心する。


「お、紫苑ちゃんもお弁当持参勢なのね」

「持参勢って……。まぁほとんど冷凍食品で見栄えは悪いけどね」


 確かに言う通り、冷凍のミニハンバーグ、グラタン、サラスパ、ブロッコリー、ミニトマト等々手作りのものは見あたらなかった。まぁ、毎日作ってくれている親からすれば、めんどくさくなるのも頷ける。

 ただそこに一つ、煌々と輝くものがあった。


「それは、卵焼き!」

「あぁ、これだけは……手作りをしているのよ」

「ほぉ~、へぇ~。いやーわたし気になっちゃうなぁ~志郎ママの作る卵焼きとどっちが美味しいんだろうなぁ~うわ気になるぅ~」

「……食べる?」

「いただきます!」


 あまりに強引な’たかり’だったが、緋村は意外にもすんなりと箸で黄色くふっくらと仕上がった卵焼きを絵裡の口に運ぼうとする。


「おい絵裡。いくら何でも甘えすぎだろ」

「なんだね志郎くん。紫苑ちゃんのあーんが羨ましいのかぁ~?」


 羨ましいと言えば嘘にならなくもなくもない。緋村も緋村で何で自然に食べさせようとしているのか。


「ごめんなさい藍沢さん、なんだか小動物みたいで」

「へへっ。うま」

「美味しそうに食べること」


 絵裡はじっくりと味わうようにして咀嚼し、飲み込む。溶けるように、絵裡の顔は幸せな表情をして崩れていった。


「これは天野家にも引けを取らないよ。こっちの方がちょっと甘い。でもってその中に醤油の鋭さが残ってる。ごめんこれは志郎ママよりもしかしたら」

「それは良かったよ。これで僕の昼飯が減らずに済む。ごめんな緋村、せっかくの手作りが」

「いや、私が勝手にやったことだから大丈夫よ」


 勝手にやったというかやらせるように圧をかけられたというか。

 困っているようにも見えたが、案外その表情は柔らかかった。僕も嬉しくなってお弁当を開ける。同じように卵焼きが入っていた。


「はいここで問題」

「急に来たな。あと急に真顔になるな」

「フランス語では’四月の魚’という意味のある、毎年四月……」

「エイプリルフール」

「さすが、正解!」


 唐突なクイズに、なぜか机を叩いて的確に答える緋村。

 あまりにスピーディな展開に少しついていけなくなる。


「な、なにが起こったんだ」

「紫苑ちゃんがクイズ大会に出るけど自信が無いみたいなこと言ってたからさ。頭良いのに本当かなぁって思って。抜き打ちで、昨日”サンなん”でやってた問題を出してみたの。まさかこんな一瞬で答えられちゃうなんて」


 なるほどそういうことか。

 ちなみに”サンなん”は”サンドマンがなんかやる”というタイトルのバラエティ番組。

 サンドマンという名前の絵裡が推してる男性アイドルグループが、クイズや企画、アトラクションなどに挑戦する番組で、最近はその話を結構持ち掛けてくるから、僕も釣られて観てしまっている。


「”サンなん”、実は昨日私も少しだけ観たのよ」

「えぇ?!」


 思わず驚愕の声がハモってしまう。まさか緋村からバラエティ番組みたいな俗っぽい単語が出てくるなんて。


「ちなみに、推しは誰?」

「推し? 昨日初めて彼らのことを知ったくらいだから特にそういうのは無いんだけど……」

「ほう、そしたら私がメンバーの魅力を一人ずつ教えてあげよう。放課後、部室に来るように」

「水を得た魚のように引きずり込むな」


 最近の絵裡はサンドマンの話をしだすと止まらなくなるのでストップをかけておく。たとえ絵裡が熱弁したとて、緋村がアイドルにハマる姿は想像できなかった。


「勢いで参加することになってしまったけど、クイズなんて小さい時以来しばらくやっていなくて。何かで勉強しようと思ってテレビを点けたらたまたまやっていたの」


 どうやら芯から勉強熱心のようだ。参考資料が果たして参考になるかどうかは置いておいて、やる気にはなってくれているようだった。


「早押しだって、自信は無いし。さっきのは早い方だったかしら」


 ぱすん、ぱすんと机を叩きながら不安げに言う緋村の動きはなんだか洗練されているようにも見えた。なんだろう、昨晩”サンなん”を観ながら繰り返し練習したのだろうか。妙なところに気合が入ってしまってるようで少し笑ってしまった。


「なによ天野君。おかしかったかしら」

「いや、緋村が思った以上に真剣になってくれて嬉しいんだよ」

「やるなら真面目に取り組むわよ。中途半端は嫌」


 文化祭のクイズ大会に向けるにはやや強い眼差しで緋村は答える。

 既視感——廃病院で最後に見た時のような——があって、再び彼女の姿が眩しく映る。


「鋭いスイッチ捌きを披露しているところ悪いが、今年のクイズ大会は一味違うようだぜ」


 そんな光を遮るように、サンドイッチを齧りながら翔がやってきた。


「何が違うんだよ」

「今年のクイズ、なんと解答者は早押しをしない……!」

「え」


 机を一定スピードで叩き続けていた緋村の手が止まる。ついでにその表情も分かりやすいくらい悲しい表情で止まってしまった。


「つまりどういうことだってばよ」

「クイズ研究会のミーティングを傍受したところによると」

「傍受はするなよ」

「今回は二人ペアを組んで、解答者とスイッチを押す人に分かれる。解答者は答えが分かったらもう一人に、三十メートル先にあるスイッチを走って押してもらう。いくら解答者が早くわかっても、スイッチまで走るのが遅くて先を越されちまえば意味がない。解答者の答える早さ、早押しする人の足の速さ両方のコンビネーションが試される新世代の早押しクイズってわけ」

「頭と身体、両方を使うのね」

「そういうこと」


 なかなか画期的な企画だとは思った。早押しクイズというだけでも見てるだけでそれなりに面白いものだけど、スイッチを押すまでの競走も白熱した戦いが生まれそうだ。


「近々参加者にはチーム分けの表が配られる。ペアは自分たちで決められるらしいから、緋村と志郎で出てみれば良いじゃねーか」

「僕が?」


 思ってもみなかった提案に掴んでいた唐揚げを箸から落としそうになる。

 声をかけるなら絵裡か、翔自身が立候補するくらいなものだと思っていたから予想外だった。


「俺はなぜか出題者側で呼ばれてるし、絵裡も障害物競走に呼ばれてるんだろ?」

「そうなんだよねー。パンケーキ奢ってくれるって言うからつい」

「僕はお前が本当に心配だよ」


 こういうところがあるから絵裡の親はかなりの心配性だし、僕もこいつから目を離せなくなる。

 それにしても翔まで別用で呼ばれているとは。もはや顔が広いと言うより器用ななんでも屋として良いように使われているだけに見える。


「と言っても、僕もクイズに強いわけでもなければ特別足が速いわけでもないし……」


 恐る恐る、緋村の方を見る。ちょうど卵焼きを食べようと、口をぽっかりと開けていたところだった。

 正直、自分が緋村と釣り合うとは思っていない。速く走れる自信がないとか以前の問題としてだ。一昨日からは余計に、緋村のことが眩しく見えている。対して僕は、特に取り柄もなければ強い目標もない。


「協力してくれるなら大歓迎よ天野君」


 軽く自己嫌悪に陥りそうになったところに、拍子抜けなくらいに快諾する緋村の声が返ってきた。


「ほ、本当か?」

「えぇ、他に協力してくれる人も友達もいないから、私」


 嬉しいのもつかの間、あまりに悲しい言葉を笑顔で言う緋村。そんなことを言われたら余計に責任感がのしかかってくる。


「……全力でサポートさせていただくよ」

「俺も当日参加はできないが協力するぜ。放課後、走り込みでもするか?」


 翔の申し出はありがたかった。短距離走のタイムは可もなく不可もなく。あと一週間程度で伸びることには期待していないが、身体を慣らす意味でも良い運動になる。


「良いね、楽しくなってきた! クイズも特訓しないとね。紫苑ちゃん、私が過去の”サンなん”から問題仕入れて出してあげるね」

「そういや”サンなん”が出してるクイズも、うちのクイズ研究会のやつも、あのクイズサプライの問題から作ってるらしいからな。意外と有効かもだぞ」

「おぉ、ここで意外な共通点」


 ”クイズサプライ”はクイズを研究・作成する某有名大学のサークル。うちのクイズ研究会の大規模版と考えて良い。と言っても、大手の番組とかにもクイズを提供したり、ネット動画投稿グループとしてもかなりの人気を博しているから比べ物にならないが。


「ありがとう、頼もしいわ本当に」


 わいわいと盛り上がってきた僕たちに、緋村は口元を少し上げて答える。

 そんな表情を見ていると、自然と背筋が伸びる。

 文化祭というイベントに特別何かを期待しようとは思っていなかった。漫画で見るような輝かしくて甘酸っぱい青春も僕には無関係どころか、ふさわしくないものだと心の底から思っていた。

 でも。

 今年の文化祭は少し期待して、気合を入れても良いのかもしれない。


*****


 「まとめてきやしたぜ、ボス」


 放課後の探検部部室、という名の貸会議室の机にどさり、という重々しい音ともに置かれたのはノート一冊強くらいの厚みはありそうな紙の束だった。

 表紙には大きく’えりちゃんお手製サンなんクイズ集’の文字。

 絵に描いたようなどや顔をして、その冊子の作者はボス——翔を含む探検部員と緋村を見回す。


「軽くまとめてくれとは頼んだものの、よくもまぁこんなに形に仕上げてきたもんだ。実は内容スカスカでした~とかいうオチじゃないだろうな」

「そんなことないよ~! マジで寝る間を惜しんで昔の録画引っぱり出したり、お父さんのパソコン借りてウィーチューブ漁ったりしてまとめたんだからね。過去問集としては完璧よ」


 きっちり人数分コピーしてあるクイズ集を配りながら、絵裡は翔の邪推に抗議する。

 目も充血気味で若干テンションも高いような気がするので本当なのだろう。笑顔が逆に怖い。

 パラパラとページをめくると確かに、問題と答え、解説までしっかり書かれているものまであって、これ単体で売り物になるかもしれないという欲深い考えも頭をよぎった。


「ここまでしてくれるなんて、どうお礼を言ったら良いか……」


 緋村もページに目を通しながら感嘆の声を漏らす。クイズ集といえど、冊子を読み込むその姿はけっこう様になっていた。


「いや~せっかく新しい仲間が晴れ舞台に立つって言うんだから、張り切っちゃうよ」

「ま、絵裡の場合は普通に録画の’サンなん’を観られて満足って理由の方が大きそうだけどな」

「はぁ~? そんなことありませんが?」

「その顔でマジギレするなって怖いよ」


 軽い気持ちで呟いた言葉に嬉々として、いや鬼気として迫る絵裡。今日は早めに休ませた方が良さそうだ。


「ここまでやってくれたのもすごいけど、クイズ集として普通に面白いわね。このあたりの問題とか、小さい頃に観た昔のクイズ番組を思い出せて、ちょっと懐かしい気分かも」

「え、昔のってことはクイズビリオネアとか観てた?」

「……あぁ、観てたわ。そんなタイトルだったわね確か」

「ラストアンサー?」

「ら、ラストアンサー……」

「いぇーい!!」


 盛り上がる絵裡は置いておいて、緋村も人並みにはそういう番組を観たことがあったようだ。そういえばワックでもクイズの本を読んでいたと言っていたし、緋村をスカウトしたのはやっぱり正解だったのかもしれない。

 今日の集まりは主に、このクイズ集を使って過去問を出し合って、できれば本番に近い形で実際にやってみるためだった。

 ちなみに今日の貸会議室レンタルの申請については、’過去問を解くために籠ります’ということしか伝えていない。いつものように部活で使用するという理由よりはるかに通りやすいし、まさか先生たちもこんなことをするために集まっているとは思わないだろう。


「ぐぬぬ、なんでボクまで参加者に。しかも解答者ですか」

「翠谷ちゃん、悪いな。人手が足りなくってよ。走る方よりはマシだろ?」

「まぁ、そうですけども。うえ、絵裡先輩、こんなのよくまとめましたね」


 翠谷もノートを眺めながら引き気味に言う。

 同じ探検部というだけで半ば強制的に参加させられている形だが、もともとそういう部活だ。僕らが適当に集まるための場所。翠谷もそれを承知で入部しているはずだし、ここは協力してもらおう。


「翠ちゃんもクイズ大会に出ちゃえば良いんだよ。そうすればクイズ研究会対探検部の熱い展開でオーディエンスのテンション爆上がり間違いなし!」

「ボクらはクイズ研ほど有名な部じゃないからそこまで盛り上がらないと思うんですが……分かりましたよ。参加はともかく、それでどうすれば良いんです?」


 どこから来るか分からない絵裡の盛り上がりに翠谷はため息交じりに返して、翔に視線を移す。

 僕らも自然と同じように、翔の方へ向いて指示を仰ぐ。待ってましたと言わんばかりに翔は教壇の方へ上がって、口を開く。


「とりあえず今日は適当に、クイズを出す側——つまり走る側のランナーと、答える側——アンサーで問題を出し合おう。まずはアンサーが問題に慣れるところからだな。それから、できればグラウンドに出て、実際の走る距離感とかも練習しておく。本番に向けた練習を、この一週間でやる感じだよ」

「けっこう本気なんだな……」

「そりゃそうだろ。お前ら全員に協力してもらうんだから、しっかり考えてきたつもりだぜ」


 思った以上に本腰を入れているようで、普通に感心してしまう。文化祭の一企画に本気で勝ちに行く様はもはや探検部というより第二のクイズ研究会みたいなものだ。

 発表会の準備は大丈夫だろうかという不安は頭の片隅にあったけど、それを押しのけるくらいには、実際に僕もワクワクしているというか。


「そんじゃまずは絵裡が徹夜で作った’サンなん’問題集でクイズの出し合いスタートだ」


 そんな胸の高鳴りを持ったまま、僕は翔の合図で問題集を開く。改めてみるといろんな種類の問題が並んでいる。緋村なら、もしかしたら満遍なく解けるのかもしれない。


「じゃあ天野君。問題を出してもらおうかしら」

「おーけー、分かった。何にしようかな」


 僕が悩んでいる中、翠谷と絵裡のペアはさっそくじゃれ合いながらクイズを出し合って、それに翔が茶々を入れていた。

 いつもと同じ、安心する探検部の活動風景。だけどやっていることはいつもと全く違う。

 たまにはこうやって新しいことをするのも楽しいのかもしれない。

 そんなことを思いつつ、僕は目に留まったクイズを選んで緋村に投げかけた。


「さて、問題です」


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