夢幻の城
普段より静かな登校道、昨日の手紙のことをぼーっと考えながら登校する。
いつも一緒に登校している絵裡は、めずらしく寝坊したらしく、今日はいない。
あの手紙は何なのだろうか。僕と緋村に似たようなものが届いている訳だが、何か共通点でもあっただろうか。あの手紙の地図の所にいくと、何かあるのだろうか。いずれにせよ、悪戯にしては随分手が込んでいるようだが……。
そんなことを考えながら自分の靴を取り出そうと下駄箱をあけると、また一通、手紙が足元に落ちてきた。
普段ならラブレターの類かと期待するものだが、つい最近見たばかりのフォルムにむしろ奇妙さすら覚える。
宛名を見ると、今度も筆記体で読みづらい。そして見るからに自分ではなさそうな名前に、余計苦戦する。
「でぃあ……?」
「ミサト、ミドリヤですか。先輩、今どきラブレターだなんて、古風な手口ですねぇ。そういうの、嫌いじゃないですよ」
「……急に出てくるなよ。幽霊かと思ったぞ」
急に後ろから声がして、にらめっこしていた手紙を落としそうになる。昨日のこともあって少し敏感になっているのは秘密だ。
声のほうを振り返るとそこには、一年下の探検部員、翠谷美郷が立っていた。
満面の笑みで。
「さあ、さあ先輩。その手紙に書ききれなかった思いの丈と共に、ボクに愛の言葉を叫んで下さい!」
「テンション上がってるところ悪いけど、僕からのラブレターとかじゃないぞ翠谷」
翠谷は、僕と同じ中学校から来た、比較的付き合いの長い後輩だ。
高校に入ってからは部活も同じこともあり、つるむことも増えたものの、ずっとこんな調子だ。最初は扱いに困る後輩だったが、まあ懐いてくれてるのは確からしい。
「ええ知ってます。そこに入れたのはボクですからね。逆チョコならぬ逆ラブレターとでも言いましょうか」
「この場合、むしろ怪盗が出す予告状みたいなもんだろ」
「今夜、あなたの心を盗みます。みたいな感じですかね。かっこよくないです?」
ショートカットヘアーに映える赤いふちのメガネが朝日をキラリと跳ね返し、薄手のカーディガンをはためかせて決めポーズをとる翠谷。
「うーん、かっこいいな。じゃなくてだ。なんで誰かから届いた手紙をわざわざ僕の下駄箱に突っ込んだんだって話だ」
「それがですね……ちょっと気味が悪いものだったので、どうしようかなって」
「どうしようかなで先輩の下駄箱に入れるんじゃない。ゴミ箱じゃなくて下駄箱なんだぞ」
「だってなんか内容がですね」
「……夢を見せようって?」
僕宛に届いたものに書かれていた文句を口にすると、翠谷がいくらか驚いた顔をする。
「おや、何で知ってるんです?まさか先輩ボクのストーカーに……?」
「むしろストーカー呼ばわりされるべきはそっちだろ。……似たようなやつを最近見かけてな。流行ってる悪戯なのかな」
「へえ、そうだったんですか」
「まあ正直気味悪いし、相手にしたりするなよ?」
「言われなくても、先輩しか相手にしませんよ」
「そうだ翠谷。文化祭で発表するのに使えそうなネタ何かあったか?」
「相変わらずつれないですねぇ……発表するって言ってたの本気だったんですね。結局先月のも迷いの森どころか迷わずの森じゃないかっていうオチで落胆して終わってたのに」
「まだ調べてないものだってたくさんあるさ。そう、例えば昨日図書室で見つけた」
「妖精が住まう湖に浮かぶ城、ですよね。どうしてまたそんなメルヘンな話を選んできたんですか?先輩の頭って意外とお花畑なんですね」
「毎回どこで聞いてるんだよお前は。あとお花畑いうな僕が馬鹿みたいだろ」
「え、お花畑って、馬鹿って意味なの?」
家から走ってきたのか、寝坊した割に早く到着した絵裡が、朝食であろうパンを落としそうになりながらこちらを見つめていた。
「お、絵裡。よかったな間に合って」
「おはようございます先輩」
「おはよう二人ともー。で、お花畑って」
「いいや、幸せそうな人の事を指す言葉ですよ。先輩みたいな」
「じゃあ私、やっぱり褒められてる?」
少し裸の王様みたいな、当たり障りの無いフォローにも気づかず、言葉を額面通りに受け取った絵裡が嬉しそうに言う。
まあ、嘘は言ってはいない。
「……絵裡にはぴったりな言葉なのかもしれないな」
「ボクもそう思いますよ」
「うへへ。ようしじゃあいこう志郎! 授業に遅れちゃうよー」
「おっとと引っ張るなって。上履きまだ履けてないんだから」
右手に上履きを持ったまま、左手は絵裡に掴まれずるずると二年の教室へと引きずられていく。
離れていく翠谷に、そのまま上履きを軽く振りながら別れを告げる。
「じゃあ、翠谷。またな」
「またねー」
「……ええ、よい一日を」
*****
文化祭一週間前になると、うちの高校は五時限目に学級活動の時間を設けるようになる。この時期はもっぱら文化祭の準備にあてられ、どのクラスもラストスパートをかける。展示物の代わりに屋台を出すうちのようなクラスは装飾や看板づくりに追われることになる。と言ってもクラス全員に作業があるわけではない。あらかじめ決めておいたメンバーでやれば終わる作業も多いのだ。
「待ってましたこの時を」
「試食係ですね。食べますよ食べちゃいますよ。絵裡ちゃんお腹空いちゃって」ググゥー
「おかしいな。昼ご飯食べたのさっきだよな?」
「絵裡ちゃん、過去は振り返らないのです!」
「身体測定の記録くらいは振り返ったほうがいいですよ」
「へ? どういう意味?」
「……いいですよね。食べても胸にしか肉がつかない人は」
「翠ちゃん、胸は揉めば大きくなるらしいよぐへへ」
「女子としての一線は越えないでくれ頼むから」
そんなバカな会話を続けるうちに、役割分担ごとに人が集まってそれぞれ作業を始めていく。
僕たちは買い出し係で、ついさっき頼まれていたものを買って来てしまったので今のところ仕事の無い暇人で、それこそタコ焼きの試食くらいしかやることがない。
「翠谷、このクラスにナチュラルに混ざってたけど、自分のクラスの手伝いは本当に良いのか?」
「昨日も言ったじゃないですか先輩。ボクも暇人なんですよ。暇人同士、暇を持て余したり潰したりしましょうよ」
一年年下の翠谷がこの2-Aクラスに居ることは本来ないのだけど、お祭りを前にした興奮気味の空気だと、そういう細かいルールもあやふやになってしまっているようだ。
「たこ焼きは美味いが、マジでやることがないな……」
「もぐもぐ……むむっ、こういう時こそ冒険の旅に出かけるチャンスだと思わない? 絵裡ちゃんの第七感がそう言っている!」
「七感ってどこだよ……というか、良いのかな。学校の外に出ても良いのなら僕も探検に行くのは賛成だけど」
「ボクたち、ついさっきまで買い出しに出てたじゃないですか。今さら気にすることないですよ。行先はどうします、部長?」
「結局その問題なんだよなぁ。昨日みんなが集めてくれた中で面白そうな場所はいくつかあるんだが……」
「……あのさ。僕の家に昨日、こんなのが届いてたんだけど」
僕は少し迷ってから、ポケットに入れていた手紙を出す。
「お、なんだよこれラブレターか?」
「ひゅー! ひゅーひゅー!」
「いや、なんかよく分からない手紙でさ」
絵裡のやかましい煽りを聞かなかったことにして、封筒から手紙を出して広げる。相変わらず意味深な一文と地図が描かれていた。
「ここが’Mizunari school’ってことは、この緑色に広がっているのが’迷いの森’ってことか? そんでもってこの赤点……’castle of illusion’、えーと」
「夢幻の城、とでも訳すべきなんでしょうかね」
「迷いの森の中。夢、城。言葉だけ並べると、昨日絵裡が見つけた本を思い出してしまうというか……」
僕は言って、三人の顔を見る。
もしこれが誰かの——例えば翔の手の込んだイタズラなら、僕はたぶん表情で分かる。
翔の口角は上がっている。でもこれはおそらく、面白いものを見つけた時の表情で、イタズラを隠している時のようなニヤけ顔ではない。
翠谷は今朝、手紙の事をネタに話しかけてきたくらいだ。犯人には該当しない気がする。
絵裡は——。
「なんと、私の机の中にも入っちゃってたんだよねぇ……何だろうね、これ?」
ほんの少しだけ疑いの色を帯びた僕の視線を躱すように、絵裡は机の引き出しの中から全く同じ封筒を取り出す。
「え? 逆に貰ってないの俺だけ? 絵裡、お前いつから入ってたんだよ、それ」
翔の言う通り探検部で唯一、翔だけに招待状が送られていない形になっていた。
自然に考えれば、次の行き先をスムーズに決めるためのドラマチックな演出を、部長である翔がしたという感じだけれど。
当の本人は本当に身に覚えのないような顔をしていた。
「今日の朝。机漁ってたら奥の方から出てきてさ。学校からの大事な手紙を持って帰り忘れたんじゃないかと思って焦っちゃったよねぇ」
のんきに答える絵裡も、こんな手の込んだことはしない。やりたいことがあれば直接この場で言ってくれるやつだ。
「なんにせよ、じきじきに招待されたってわけか? なんだよこんなパターン初めてじゃん!」
「決して覚めない夢、ですか。これ行ったら絶対戻ってこれないやつじゃないですか。何冊も読みましたよこういうパターンのお話」
「それでも行くのが?」
「水鳴高校探検部なのだよ、翠谷少女!」
「えぇ……。まぁ、ボクは先輩が行くというのなら付いていきますけどね」
翠谷の言葉に、三人の視線が一気に僕に集まる。
忘れかけていたけど、行先を決める時はいつもこうやって怒涛の速さで決まってしまうのだ。
誰かが「良いね」と言ったら、基本みんな反対はしない。
今さらになって、手紙の話題を出したことを少し後悔している僕がいた。
「うーん、やっぱり普通に怪しくないか。例えば妖精なんかよりもよっぽど危ない集団のアジトとか……」
「そしたら逆にお手柄じゃね? 『水鳴高校の生徒、犯罪者集団のアジトを見つけ逮捕に貢献!』みたいなニュースで人気者だぜ?」
「そしたらテレビデビューも夢じゃない……? やだどうしよ今からメディア用の可愛いお洋服買っておこうかな」
「それこそ夢の中でやってくださいねー。じゃあ、別の案で行きます?」
「ぐぬぬ……」
そう言われるとなんだか後ろ髪を引かれるというか。
常識的に考えれば危ないとは思う。
じゃあ、僕をこの城に引き留めるものはなんだろう。
夢。決して覚めない夢。
森の奥にあるという城に行ったからといって、その答えが見つかるとも思えないし、実際全く無関係だろう。
でも、何かがあるんじゃないか。そんな期待も捨てきれずにいた。
「……行ってみようか。そうだよな。いざとなったら逃げれば良いんだから」
「嫌なフラグ止めてくださいよ」
「よーし、そうと決まればさっそくチャリを走らせて出発だ! 水鳴高校探検部、いざ出陣!!」
「いえーい!! と、その前にたこ焼きもう一個!」
騒がしく僕らは出発の準備を始める。
最後にぐるりと教室を見渡す。
いろいろな学年の生徒たちが準備を着々とこなす中に、緋村の姿を確認することはできなかった。
*****
「本当にあったな」
「このリアル感は、夢でも幻でもなさそうだね」
「おかしいですね……先月と同じ道を通ってたどり着いた場所で、こんな城なんてなかったはずなのに」
学校から舗装された山道で自転車を走らせて三十分。
’迷いの森’と呼ばれるうっそうと茂る森の中。先月の探検結果は確かに’奥に湖以外に何もない普通の森’だった。
だけど今、目の前には先月には無かった城が堂々と立っている。
臙脂色の三角屋根に、象牙色の城壁や門は、歴史の教科書に載っているヨーロッパのお城を思い出す。
城は湖に浮かぶように立っていて、そこに行くための唯一の手段が、足元にあるボロい木橋だけ。
どっしりとした低い城壁に囲まれていたけれど、門は僕らを待っていたかのように口を開けていた。
「どこの誰だか分からねぇけど、探検部メンバーをお呼びってことなら部長の俺も行かなきゃな。ってことで、城を探索する準備は良いか?」
「見た目的に廃屋といっても良さそうなので、入るのは問題ないと思いますが……危ないと思ったらすぐ逃げますからね」
「それはもちろん。よし行ってみよう」
「……」
「あれ、絵裡?」
僕は今さらながら、後ろにいる絵裡がやけにおとなしいことに気付く。
この状況ならいつにも増して賑やかになるはずなのに。
振り返ってみると、絵裡はただ下の方に視線を向けてぼーっとしていた。
何かを見ているというわけでもなく、その顔からは、表情豊かな絵裡には珍しく、何も読み取ることはできなかった。
「……へ? あー、おぉすごーい! 何このお城ー!」
「反応がかなり遅いけど大丈夫か? 湖に珍しい魚でも泳いでたとか?」
「いやそういうわけじゃないんだけどさ。なんていうか、ちょっと怖いというか……そのぉ、ね?」
「絵裡が怖いなんて珍しいな。大丈夫、逃げる時は俺が殿を務めてやるからよ」
「う、うん。その時はなりふり構わず翔を犠牲にして逃げるね」
「容赦ねぇなおい」
そんなことを言い合いながら、すでに僕らは城への橋を渡り始めていた。
途中、絵裡の様子を何度か伺ったのだけど、やっぱりどこかソワソワしていて落ち着きが無かった。
絵裡の視線の先は目の前にある城ではなく、足元に広がる湖。
水面は鏡のように透き通っていて、中に魚や珍しい生き物がいる気配はない。
あいつはいったい、何を怖がっているんだろう?
水面に映ってはいけないものが映りこんでしまったとか?
僕はもう一度橋から湖をのぞき込むけれど、そこには冴えない自分の顔が映し出されているだけだった。
「お、おおおおおおぉぉぉぉぉお!!」
「絵裡先輩、うるさいです」
「でも叫びたくなる気持ちは分かる……これはなかなか立派な城だよな」
絵裡が叫んで、翔が言った通り、外装通りの豪華な内装だった。
門をくぐった先には広い踊り場。不思議な模様が施された赤い絨毯が敷き詰められていて、それを真上にある複雑な形をした巨大なシャンデリアの明かりが照らしている。
奥には二手に分かれた大きな階段が二階へと繋がっていて、先には木の扉がいくつか見える。
「さっそく探索開始だ! まずは一階から、なるべく離れないように行くぞ」
「これだけの広さなら迷子になっても不思議じゃないからなぁ」
「うおおテンション上がってきちゃったよ! これなら発表会のネタとしても充分だし!」
「急に元気になりましたね……」
「そりゃね! こんなシンデレラみたいなお城、憧れない女の子がいますかって話ですよ!」
「まぁ、憧れはしますけど」
僕たちは城の中を順番に回ることにした。
一階には東西に伸びる長い廊下と、その先には大きな机とたくさんの椅子が並ぶ広い部屋があった。
二階には同じような大きさの扉がいくつもあって、それぞれ客室だったり厨房のような場所だったり、城というよりどこかホテルのような印象を受けた。
「んー、この部屋にも特に面白そうなものは無いか」
二階に上がって、客室のような部屋を各自で見ているけれど、今のところこれといって面白い発見報告は上がってこない。
客室はただの客室で。
妖精はおろか、幽霊の一人もいない。
「ん?」
一番近くのドアを開けた瞬間、すぐ隣からドアを閉める音が聞こえた。
反射的に視線を移した右側に見えたのは、閉まるドアに吸い込まれる黒い髪。
それは茶髪の絵裡や、ショートカットの美郷のものでは決して無い。
「……」
僕は静かにドアを閉め、隣のドアノブに手をかける。
中からはガサゴソと、何かを動かすような物音が聞こえる。
少なくとも幽霊ではないのだろう。僕は思い切ってドアを開けた。
「……天野君、なんで」
「緋村こそ、どうしてこんなところに?」
怯えるような目で振り返ったのは、緋村だった。
扉に吸い込まれる黒い髪を見て、連鎖的に手紙のことを思い出した僕は、そんな緋村とは対照的に落ち着いていた。
ここに入っていったのが緋村だということに、自分でも分からないけれど予想がついていたのだ。
「たまたまよ。たまたま、帰り道に散歩してたらたどり着いたの。ちょっとした探検みたいなものよ」
「たまたまであの山道を登ってくるかなぁ」
誤魔化すのはけっこう下手なやつなのかもしれない。
僕の言葉には答えず、緋村はすたすたと背後の扉まで向かってしまう。
「探検だったらさ、今度僕たちと一緒に行こうよ。一人で行くよりは、きっと大勢で行った方が楽しいよ」
「……」
ドアノブに手をかけて出て行こうとする緋村を引き留めるように、僕は言葉を投げかける。
事情は分からないけれど、少なくとも女の子一人でこんなところに来るのは危なすぎる。
「……ありがとう」
緋村は笑って、そのまま扉の向こうへと消えていってしまう。
僕としてはけっこう勇気を出して投げた言葉だったのだけど、こうもあっさり拒絶されてしまっては打つ手も無い。
それもそうか。ほとんど話したことの無い奴にそんなことを言われて、「よし、行こう」となるのはコミュニケーション能力の塊である絵裡だけで十分だ。それもそれで危ないからやめて欲しいけど。
余計なことを考えつつ、残された僕は一人になった部屋を見渡す。
さっきまで見ていた部屋と特に変わりは無いように見えたから、僕は適当に箪笥やら本棚やらを開けて中を覗いていく。
「ん? なんだこれ」
ガラクタしかないだろうと高を括っていた僕の目に飛び込んだのは、革製のカバーを被った一振りのナイフ。
——。
理由は分からなかったが、身体中に電流が走った。
何の変哲もないナイフのはずなのに、なぜか目が離せない。
心臓の鼓動が大きくなる中、僕はそれに手を近づける。
——夢を見せよう。
声が聞こえた。
それはとても甘美で、抗うことすら無意味に思えてしまうような音。
ナイフの持ち手を握って、刀身をカバーから抜き放つ。
——決して覚めぬ夢を。
綺麗だった。
刀身に映るのは間抜けな僕の顔だったけど、まるで別の世界がそこには広がっているようだった。
行こう。
戻ろう。
得よう。
誰の声だろうか。
正体の分からない声を耳に入れつつも、ナイフの切っ先を心臓に突き立てようとする自分自身をただただ俯瞰していた。
痛みは無かった。
気付けばナイフの刃は深々と左胸に突き刺さっていて。
意識は眠りに就くように遠ざかっていって、あるのはしばらく感じたことのなかったような幸福感だけ。
僕はただ、静かに満たされていった。