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ルサルカ~夢幻の城~  作者: 黒崎蓮&柊夕徒
Route Jade
25/36

水底に沈めた記憶

「ふぁ……」


 今日は少し寝不足だった。昨日の事を思い返しているとなかなか寝付けず、気がついたら丑三つ時を過ぎていた。

 目をこすりながら玄関の扉をあけると、すでにそこには絵裡がいた。


「志郎おっそーい。今日は文化祭だよ? 気合が足りないんじゃない?」

「別に僕はお前みたいに屋台制覇しようとか目的を掲げてるわけじゃないからな」


 去年に続き、きっと今年も制覇を目指しているのだろう。

 他人事のように言っているが、もちろんその行脚には僕も振り回された。


「なんか眠そうだねぇ。文化祭が楽しみすぎて眠れなかったとか?」

「まぁ、そんな所だ」

「わかるよぉその気持ち。一年に一回のお祭りだもんね。楽しまなきゃ損ってもんだよ」


 適当に打ってしまった相槌に、昨日の事も全く意に介していないかのように、満面の笑みで絵裡が言う。

 祭りの日に、僕みたいに辛気臭い顔でいるほうがおかしいか。

 そう、今日は文化祭だ。せっかくだし楽しまないと。


「ようし、いっちょ気合いいれますか!」

「お、急にやる気になったねぇ!いくぞー!」


 足取りもまぶたも軽くなった僕らは、学校へ走って向かった。


「はーいお待たせしましたーたこ焼き二人前でーす」

「あれ、さっき三人前ってオーダー入んなかったっけ?」

「いや、それであってるよー。一人前は私の朝ごはん」

「なにい。食べてこなかったの?」

「食べてきたよ?」

「???」

「あ、志郎ほら、お客さんを待たせちゃいけないよ!いらっしゃいませー!」

「い、いらっしゃいませー!」


 文化祭当日の朝、翠谷は顔を出さなかった。

 僕はというと、クラスの出店であるたこ焼きの屋台のシフトだったので、同じ時間帯の絵裡と一緒にやってくる客の相手に追われていた。

 特にアクシデントも起きず、適度に忙しい。ほどほどに文化祭の空気を楽しみながら熱気がたちのぼる鉄板と向き合う。案外、悪くない。

 翠谷は大丈夫だろうか…そんな事を考えていると、注文を待つ客から会話が聞こえてくる。


「ねぇ聞いた? お化け屋敷の展示に本物のお化けがいるんじゃないかっていう…」

「聞いた聞いた。女の人の泣いてる声がするっていうあれだよね。ファフリースもっていったほうがいいかな?」


 どこか余程気合の入ったクラスでもあるのか。

 お化けといえば、翠谷のクラスがもともとお化け屋敷だったか。

 少し気になるな。本物のお化けがでると聞いて血が騒がなければ、探検部の名折れだ。


「絵裡ー。シフト終わったらお化け屋敷いこうと思うんだけど、いく?」

「おおーいいねぇ。本物のお化けってやつを写真におさめて、志郎のコレクションに加えちゃおうよ」

「僕のアルバムには遠慮したいかな……」

「ええー普段心霊スポットとかでも平気でカメラ構えてるじゃん。写り込んでる写真とかあるんじゃないの?」

「あれは記録用だから。それにアルバムは大事な写真しか入れたくないんだよ」


 そうこうしているうちにシフトの時間は過ぎていった。鉄板で火照った顔を涼しい風で冷やしながら、他のクラスメイトと交代する。 


「よーし、後はのびのび遊べるな。早速いく?」

「よーし、お腹いっぱい!ごーごー!」

「先に口の周り拭いてからだな。そんだけ青のりやソースつけてたらお化けのほうがびっくりして逃げ出すと思うぞ」


*****

 

「それじゃ、二名様ごあんなーい! 足元気をつけてくださいねー」

「し、志郎、手を離さないでね?」

「そ、そっちこそ」


 教室中に流れるのは、真っ暗な部屋の怖さをさらに増長させるような音楽。甘く見ていたわけではないけど、なかなか雰囲気が出ている。

 頼れるのは足元にぽつりぽつりと置いてある小さなろうそく型の明かり、天井からはぶら下げられた人形、破れた障子からは——。


「ひぃっ」


 飛び出す手。こういうのは来るとわかっていても驚いてしまう。


「ひぃっだってさーうぷぷ」

「じゃあ絵裡が先に行けよー」

「えーこうして志郎の反応見てる方が面白いんだもん」

「あ、え、絵裡……うしろ」


 ほぼ暗闇の中で、絵裡の無邪気な声が響く。 

 ちょっと震えているのは自分だって怖いからだろう。


「あ、え、絵裡……うしろ」

「え、なに?!」

「え、なに?! だってさー」

「い、今のはノーカン、ノーカンだよ」


 ––うぅ、ひっく……。


「絵裡、何も泣くことはないだろ。そんなにびっくりしたか?」

「い、いや私じゃないよ」


 絵裡が言いながら体の向きを変える。


「志郎、私用事思いついたから出るね! それじゃまた!」


 僕が二の句を告げないうちに、絵裡は支離滅裂なことを言いながら出口の方に一直線に走っていく。


「あ、おい絵裡! マジかよ参ったな……」


 引き留める間もなく絵裡の背中は見えなくなっていた。こんなところで絵裡の足の速さを再確認することになるなんて。

 あまりのスピード感に状況整理が追いつかないけど、絵裡が自由なのは今に始まったことじゃない。 


 ––うえぇ……ぐすっ……。


 相変わらず泣き声は止まない。ルートから少し外れた、奥の墓石から聞こえてくるような。

 絵裡の様子からして気の所為では無さそうだ。音に少しづつ近づいていく。 

 墓石の正面に立つと、声はさらにその後ろから聞こえてくる。

 僕は興味に導かれるまま、その裏を覗き込んだ。


「う、うぅ、ううう……」

「翠谷!?」


 その声の主は死人ではなく、生きていた。

 

「……生霊か? おーい翠谷?」

「うわあ……ん?……で、でたああって先輩!?」


 うずくまっている件の幽霊の肩を叩くと、相当驚いたのか、振り返りながら飛び跳ねた。

 普通逆だろうに。


「……ご挨拶だな。何やってるんだこんな所で」

「せ、先輩こそ、なんでこんな所に」

「僕はこのクラスの展示で、本物のお化けが出たっていう噂を聞いて見に来たんだけど。まさかその噂のお化けが翠谷だったとはな」


 本物の幽霊の噂の顛末に内心少しがっかりしながら、でもほっとしていた。

 翠谷が昨日の事を気に病んだりして顔を見せなくなったらと、心配していたのは確かだった。


「そんな事に……なんだか失礼な話ですね?」

「で、何やってるんだこんな所で」

「……昨日のことで先輩に合わせる顔がないなって。藍沢先輩にも。だからここで落ち着いたら二人に謝りに行こうと思って……」


 ……お互い、やはり気にしていた訳だ。

 僕も昨日あまり寝つけなかったし、翠谷も似たような状況、あるいはそれ以上になっていたのかもしれない。

 何にせよ、翠谷のフォローのほうが先だ。


「……僕は昨日の事はあまり気にしてないけどな。それで、落ち着いた?」

「……少しは」

「ならせっかくだし一緒に回るか? せっかくの文化祭だ。楽しい日にしようよ」

「わかりました」


 努めて平静を装うと、翠谷は素直についてきた。

 その様子に、少しだけ安心する。


「……あれ、まだ泣いている声聞こえないか?」


 また別の所から、すすり泣くような声が聞こえてくる。

 さっきまで泣いていたのは翠谷で、てっきりそれが噂の全貌だと思っていた。しかし、こうしてまだ、泣いている声が聞こえてくる。今までとは、違う声のような。


「あ……ちょっと、怖いです、先輩」


 翠谷が身体を寄せてくる。表情はよく見えないが、震えている。


「手、掴んでろ。離すなよ」


 左手で翠谷の手をしっかり握る。かすかにうなずくのを見て、奥に進む。


「ここで迷っちゃってる子供とかかな、声的に」

「なら、スタッフさんに任せたほうが良くないですか?」

「いや、気がついていないのかも知れないし、僕がつれていくよ」


 それに、もし本当に子供が泣いているだけだったら、放ってはおけない。


「わ、わかりました」

「翠谷は先に出ててもいいんだぞ?」

「いえ、一緒に行きます。っていうか、今一人になるほうが怖いですし」


 翠谷がぎゅっと、手に少し力を込めながら言う。

 それを感じながら、声の方へ進んでいく。


「ここか?」


 声のする区画には、少し季節に置いていかれたビニールプールが置いてあった。

 その中に、足元が浸かる程度の水と、膝を抱えて泣いている子供が一人、いた。


「お化けの役、とかではなさそうだな。ねえ君、どうしてそこにいるの? お父さんやお母さんは?」


 その子は答えない。ただ、泣き続けている。


「そ、そんな所にいたら風邪ひいちゃいますよ?」


 その子は何も、答えない。


「ちょっとごめんな翠谷」


 手を離し、子供に近づく。


「ほら、一緒に探しに行こう、な? 拭くものは……まあ保健室に行けばいいか」


 しゃがんで手を差しのべる。その子が意外にもすんなりと、僕の手を取る。

 そして座ったまま、呟いた。


「ねえ、志郎、なんか凄いもの拾ったんだよ」

「おー。何だ? 何か拾ったのか?」


 名前で呼んでくる子どもに相槌を打つ。知り合いだったか?


「なんかね、キラキラしてるちょっと大きいナイフみたいな」

「へえ、ちょっと危ないかもしれないから振り回しちゃだめだぞ」

「それで? 謝りにきたの? お肉如きで買収しようと思わないでよ?」

「お肉?」

「それとも……まだ怒ってるの? ねえ、志郎」


 ぐっと、その子の握る手に、力が入る。


「助けて、くれないの?」


 気がつくと、水の中にいた。

 青一面。遥か上のほうに煌めいている光がある。

 しかし、不思議と苦しさはないし、頭も回る。

 ここは何処だろうか。


「私の夢の中だよ」


 声が聞こえる。鮮明に。

 私、とは誰だろうか。

 夢、夢。寝ている間に整理している記憶の、その断片。

 自分が今まで生きてきて、溺れた記憶はない。

 じゃあ、誰の?


「私の、大切な記憶」

「あなたの、大切な記憶」

 

 水面が、近づく。



*****



「ねぇ、まだ絵裡ちゃんに謝ってないの?」

「謝るっていうか……別に僕だけが悪いわけじゃないし……」


 結局あれから絵裡とはあまり言葉を交わすこともなく、バーベキュー当日を迎えた。

 絵裡の口からもあれ以来キャンプの言葉はでず、結果いつも通り川辺でバーベキューという事になった。

 いつもより多く残っている肉をつつきながらどもってしまう。 


「何か思ってる事があるなら、ちゃんと口に出さないとわからないわよ? あの泣いてた日に何かあったんじゃないの?」

「そりゃこっちのセリフでもあるんだけどな……」


 母親の説教に頷くこともできず、首をひねる。

 絵裡が何故あの日、泣いていたかについてなんて無論聞けてない。その話題の続きをするのは……なんだか怖かった。

 普段の喧嘩だったら少ししたら勝手に解決していた。でも、今回はそう上手くはいかなかった。


「絵裡ちゃんも川に来てからずっと泳いでるし、ろくにお肉も食べてないんじゃない? 持って行ってあげたら?」


 毎年バーベキューをやるたびに用意された食材達を絵裡が美味しそうに完食するので、必然的にその量は増えていった。その積まれた食材達は、今年は寂しそうに身を寄せ合っている。


「……わかったよ」


 絵裡の姿は割とすぐ見つけることが出来た。ひたすら近辺を泳いでいたようだった。

 持ってきた肉が冷めてしまう前に見つけることが出来てひと安心し、絵裡に声をかける。


「え、絵裡ー! 肉持ってきたぞ肉ー! 絵裡ーー!」


 何故か名前を呼ぶのが少し恥ずかしくなりながら、絵裡を呼ぶ。泳いでいる彼女にまで届いただろうか。

 一応聞こえたのか、少しこちら側をキョロキョロし、自分を見つけたようでゴーグル越しの彼女と目が合う。

 しかし、彼女はまたざぶんと潜ってしまう。深い川ではないが、絵裡がいる真ん中のあたりは僕ら中学生には少し足がつかない程度には深い。まあ、絵裡ほど泳ぎが達者であれば、溺れる心配をする必要はないだろうけど。

 ……まだ、怒っているのだろうか。


「肉、冷めちまうぞー! いいのかー!」


 とっさに手元の肉を使ってアピールする。なんだっていい、きっかけがあればきっとまたいつも通りの二人に戻れる。そうなったら、また色々話をしよう。

 案外、あの時は機嫌が悪かっただけかもしれない。夕飯時だったし。

 そう、いつも通りの絵裡が少し変だっただけだ。きっと。

 また、いつもみたいに笑って話して、何事もなかったような顔をして。

 違う。

 また、いつかあの話の続きをしよう。話をする準備ができた時に。

 そう、いつもとは違う何かがあって、そういう雰囲気になって。

 案外、そう遠くはないかもしれないうちに。

 僕の声が聞こえたのか、絵裡が水面に浮かぶ。……よく見えないが、手にキラキラ光る何かを持っている。


「志郎ー! ねえ見て見て! なんか……」

 

 音もなく絵裡の身体が川に沈む。

 ……。

 どうやら何かを見つけたらしい、それを僕に向けてアピールしていた。

 また何かを見つけて潜った? いや、あの立ち泳ぎのような姿勢から急に潜水は出来ないだろう、自力では。

 僕には見えていた。絵裡が明らかに何かに引っ張られるように水面下に沈んだ。

 でも、それ以外の可能性ばかりが頭をよぎる。声も出ない。足は勿論動かない。だって、非現実的すぎる。

 きっとまた何か見つけたんだろう。さっきは収穫物を片手に持っていたのが、今度は両手に増えるだけだ。きっとそうだ。それでまた僕のほうに泳いできて、自慢気にそいつらを見せてくるんだ。あの、いつもの笑顔で。

 そう、三回くらい自分に言い聞かせていると、絵裡が浮かんできた。

 そのまま、笹の葉で出来た舟のように、無抵抗に流されていく。


「絵裡!……絵裡!!!」


 言いながら全速力で駆け寄り、泳ぐ。


 絵裡は気を失っていた。特に外傷などは見当たらなかったが、検査も必要との事で救急車で搬送されていった。僕も現場にいた人間として、同行を許された。

 搬送先は新南水鳴病院らしい。いくつか救急隊員の人に質問されたようだったが、生返事ばかりしてしまった気がする。僕も、何が起きているかわからなかった。

 診断の結果、見解としては足がつって水中へ、その際なんらかのショックで意識が飛んだ……という事になったらしいが、僕は家族と一緒に黙ってそれを聞いていた。自分が見た、自分ですら信じられない光景を、一体誰が信じてくれるのだろう。

 あの、川が絵裡を喰った瞬間を。

 思い出すだけで震えが止まらなくなる。何であんな事が? どうして? 何故? 何故……絵裡が?

 思考が空転する。何もわからない恐怖で埋め尽くされていく。誰にも言えない、言ったって仕方がない。何故こんな事が自分の身に降りかかる? 何故…自分なんだ? 他の誰かじゃいけなかったのか?

 自分には、背負いきれない。無理だ。

 バチン、と、頭の中で音が鳴った。そしてドクン、ドクンと激しく脈動する音。じわぁっと何かが染み出していくような感覚。視界が一瞬ぼやけて、意識が少しぼうっとする。あれ、今、


 ——今、なんでここにいるんだっけ?


 隣で会話している両親の口から、絵裡という名前が数回出る。そう、そうだ、絵裡が大変だから、今病院にいるんだった。

 原因は…なんだろう、また後で聞けばいいや。

 ちょうど思い出した所で、目の前の部屋のドアが開く。医師の診断が終わり、絵裡と会える、と言葉を聞き終えないうちに走り込む。

 彼女は何かの機械に繋がれていることもなく、ベッドに寝かされていた。


「絵裡! 絵裡!!……大丈夫か?」 


 思わず抱きしめそうになる自分を抑え、努めて冷静に安否を尋ねる。


「う、うん。大丈夫だよ志郎。あはは……」


 本調子ではないのか、少し気を張ったような笑顔で、返事をしてくる。


「そうか……そっかぁ……よかった……よかったよぅ……」


 膝から力が抜け、顔中の筋肉が緊張を失う。勝手に涙と鼻水が流れてくるけど、何故か笑みが溢れる。あまり見られたくなくて、手で顔を覆う。

 ……何でこんなに安心しているんだろう。なんでこんなにも涙が出てくるんだろう。

 わからないけど、絵裡が無事で、本当によかった。



*****



 映画の上映が終わったように、世界が暗転する。


 記憶。忘れていた記憶。無かったことにしていた記憶。背負いきれなかった記憶。

 今になって僕は思い出す。今更になって、やっと。

 僕はあの日、絵裡を助けることができなかった。何も、できなかった。

 あの川に、絵裡がただ奪われるのを見ていただけだった。

 そんな僕に、誰かと一緒にいる事なんて、誰かの居場所になる権利なんて、無い。

 

「……ぱい、先輩!!」


 真っ暗な世界で、翠谷に後ろから抱きしめられ、引っ張られる。

 辺りが幾分か明るくなり、視界が元に戻る。


「先輩まで一緒に水遊びでもしたくなったんですか? もう夏は終わってますって!」

 

 そう言われて完全に意識が覚醒する。あと一歩で、プールに足を突っ込む所だった。

 泣いていたはずの子どもも泣き止み、不思議そうな顔でこちらを見ている。


「ち、違うんだ翠谷。これは」

「何が違うんですか! さっきまでのかっこいい先輩を返してくださいよ!」

「どこにも行ってないって! ここにいるのがそうだよ!」

「さっきはあんなかっこよく、震えるボクの手を握りながら、いの一番に泣いてる子供のもとに駆けつけてたのに!」

「悪かったな、数分の間に見違えるようなダサさを披露して!」

「そんなにプール入りたいなら何でボクの誘いを蹴ったんですか! 夏に誘ったじゃないですか!」


 混乱、錯乱に近かった僕の精神状態は、翠谷とのいつもの掛け合いでだんだんと落ち着いていく。


「お前の誘いはいちいち怖いんだよ! なんでプール行くだけなのに予定が三泊四日だったんだよ!」

「うるさい口ですねぇ、塞いでやりましょうか」

「子どもの前だぞ」

「あのう……」


 ヒートアップする僕らを冷ますように、申し訳無さそうな声が後ろから聞こえる。

 見ると、僕らの親より少し若いくらいの男女が立っていた。新しいタイプのお化けか、僕らが騒ぎすぎて教師が飛び込んできたのかとも思ったが、見覚えは無い。


「……もしかして、ご両親?」

「はいー、大変ご迷惑をおかけしました」


 どうやら僕らは迷子の道しるべになったようだ。

 出口まで連れていくつもりでいたけど、親探しは案外あっさり終わった。

 

「お憑かれ様でしたー!」


 それからは特に他のお化けに会うこともなく、ゴールまでたどり着いた。

 出口の暗幕を係の生徒があげて、一瞬視界が真っ白になる。

 入り口のほうを見ると、噂のせいかそこそこの順番待ちの列が出来上がっている。もういなくなったし、噂のおばけには会えないのだろうけど。


「……先輩、少し時間もらえますか?」

「ん? どこか他に行きたい所でもあるのか? 別にいいけど」

「まあ、そんな所です。じゃあ、こっち」


 掴んだままの手を握り直し、どこかへと連れて行かれる。

 どんどん人気がなくなっていき、唯一展示が行われていない、いつも通りの場所へたどりつく。


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