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プロローグ
「あなたは健康で、穏やかに生きていてくれたらそれで良い」
そんな両親の言葉は、呪いだったのかもしれない。
僕は二人の望み通り、これまで怪我という怪我も、大きな病気にかかったことも無い。
友だちもそれなり、幸いなことにいじめやトラブルなんかとも無縁で。
この十七年、おかげさまで平穏な人生だ。
晴れていれば気分が良くて、雨が降っていれば少し悲しい。
ゴールまで一度も行き止まらず、間違った道も進まなかった迷路のようなモノ。
それが僕の人生とも言える。
理想も夢も憧れもない。
書き起こしてみればなんて空虚な人生。
それでも僕は、充分に幸せを感じている。
この幸せはいずれ終わってしまうのだろう。
大学受験という厳しい壁。その先のつかの間の平穏も、社会という荒波が近づく音に、満足に浸ることができなさそうだ。
終わってしまう。
終わらなければ、ずっと終わらない夢の中に居られれば、どれだけ良いだろうか。
今日も一日が過ぎていく。
何事もなく、空は無事に夕焼け色へと染まっていく。