彼に今度こそ捕まった
「で?僕から逃げて自由になった気分はどうだった?」
彼にナイフを突きつけられる。
「君が選べるのは二つに一つ。もう一度僕の元に戻るか、この場で死ぬか」
「私は…」
「僕を選んで。君だってまだ死にたくないだろう?」
そうして私は、また彼の元へ戻ることになった。
彼とはただの一般的な近所の友人として仲良くしていた。ある日偶然彼の仕事現場に鉢合わせてしまった。そこで初めて、彼が暗殺者だと知った。
彼が対象者を殺した後、隠れていた私を捕まえた。そして、なぜか殺しはせず私を家に連れ帰った。
それからは軟禁されて、でも彼はとても優しいし怖くはなかった。
「でも、やっぱり自由が恋しい」
そう思って、隙を見て逃げ出した。今まで私が大人しくしていたから、油断していたのだろう。逃げるのは簡単だった。
結局は、こうしてまた捕まったけど。
「今度は、軟禁じゃなくて監禁になっちゃったけど」
あのまま大人しく捕まっていればよかったのか。けれどそれはそれでと思うのだけど。
「どうすればいいんだろう」
ぶっちゃけ私は、家族はいないし友達も少ない。外に出られなくても誰にも心配や迷惑はかからないと思うけど。
「ずっとこのままなのもなぁ」
また、彼と普通のお友達になれたらいいのに。
ずっと彼女が好きだった。天涯孤独の身でありながら、誰にでも優しく、しかしそれ故利用されやすい彼女。本当に友達と呼べる相手は少ないだろう彼女だけど、僕のことは友達だと言ってくれた。
だから、彼女に仕事現場を見られたのは本当にショックだった。
仕事現場を見られた場合、相手を殺すのが殺し屋の掟。それでも、僕には彼女を殺すことはできなかった。
「…好きだ」
その一言を本人に言えない。ただ、軟禁した。それでも彼女は、僕に憎しみを向けてこない。
だから油断していた。
彼女はある日逃げ出した。
「まあ、簡単に見つかったけど」
逃げる先もない彼女は、結局元の家に戻っていた。そんな彼女を連れ戻して、今度はちゃんと監禁する。
「君の嫌がることや怖いことはしたくない。だから、もう逃げないで」
そう言った時、恐怖や憎しみではなく心配そうな表情で僕を見た彼女。どこまでも優しい彼女を、僕はもう手放せない。
ああ、神さま。いるのならどうか、僕から彼女を解放してあげてください。彼女には陽の光が似合う。けれど僕は彼女を解放できない。
そんな身勝手な願いは、もちろん誰にも届かない。