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初仕事は大仕事 ②

「グガアアアアアァアッ!!」


 炎が降る。

 怒れる竜は不遜なる人間を罰するために、草原を一瞬にして焼け野原にしてみせた。


「う……、!! あっつ──」

「『水は』」

 

 ルルの一言の詠唱。水はそれだけで地面から湧き上がり吹き上がり、空に落ちる滝のように激流が立ち上る。

 ルルの魔法により、馬車付近はそこだけ円状に緑の残る地面となった。

 そそり立つ水壁は瞬時に蒸発。濃い霧は姿を眩ませる幸運を生み出し、知性なき竜の攻撃は続くことは無かった。


「あ、あんなのまともに食らってたら、今頃僕は……うう」


 かつて木だったものが風に流れる様を、そこにあったはずのモノが消えていった様子を目撃したシャーロット。

 それは火炎の被害者。灰すら残らぬ高火力に、丸焦げなんてものでは済まないのが現実だと、視界の端に捉えた光景にシャーロットは思い知った。

 腰を抜かし足を震わす。それを見てマキナは静かに笑う。


「……へえ、意外だね。破滅の魔女ともあろう人が、この程度で狼狽えるなんて」

「ひ、い……いや、その」

「──けど、違うかな。そもそも君、その中身は本当にニアなのかな?」

「っ!!」


 そう言ってずい、と。マキナは鼻と鼻とがくっつくほどに、へたり込むシャーロットへと顔を近づけた。

 カーテンのようにマキナの髪が、シャーロットを包み込む。影の落ちた二人の世界の中で、吸い込まれるほど暗い瞳がシャーロットを捉えて離さない。

 石のように動かなくなった手足はただの錯覚で、見つめ合った時間はほんの数秒もない一瞬。けれど果ての無い闇を体現したかのようなその隻眼。恐怖すら覚えたその瞬間は、一生にさえ思えるほどに長く感じられた。

 

「ちょ、ちょっとマキナ!! いきなり何してんのよ、怖がってるじゃないっ!!」

「はは、すまない。怖がらせるつもりはなかったんだけどね。

 ただ少し、()の正体について興味を持ってね」

「な、何で知ってんのよ……。

 ああいえ、その話は後よ。さては今の状況分かってないのマキナ!?」

「さーてどうかな? 俺達二人でやっぱり余計なことしていたねって、マキナと話していたところだよ」

「ジーク! ち、違うわよっ!! あれは私のせいじゃないっての!!」

「やれやれ、相も変わらずお茶目を晒す。けど、私の前で竜をお披露目してくれるサプライズなんて、気が利くじゃないか」

「……く、二人揃って……。分かったわよ。あれくらい私だけででも倒してみせるわよ!!」


 やけくそ気味にそう言って竜に向きなおるルル。しかし一人で戦おうと意気込んだルルに、ジークは黙っていなかった。


「な、待て待てルル。意地悪に言ったけど、何も自分で後始末をしろとかって意味じゃない。

 あれくらい俺とマキナで処理す──」

「ダメ、それは私のプライドが許さない。自分でやったことは自分で責任を取るわ」


 強い意志でジークの申し出を断るルル。

 竜に向き合い、今まさに向かわんとする──が。

 かと思えばくるりと振り返り、あらぬ方向を見ながらルルは話しだした。


「あー、……で、でも……。どうしてもね、どうしても二人が手伝いたいっていうのなら、それを拒否するほど頑固ではないわよ!!」

「ああそうか。なら私はパスしておこう」

「なんでよっ!!」

「竜退治も悪くはないけれど、私はそれより、この子に興味があるからね」

「ひょ……!」


 シャーロットは頭に手を置かれただけとは思えぬ声を上げ、かちりと固まった。


「うぐ、またそうやって勝手に……。後でちゃんと話すって言ってるのにぃ……!!」

「……はあ。じゃあ、話はそろそろいいか? 

 ならほら行くぞ、置いてくぞー。心配ならさっさと終わらせて帰ろう、ルル」

「あーもうっ! ジークもジークで!! 分かったわよ今行くわよ!!」


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