冒頭9
「貴方、私を助けた事あるの、覚えてる?」
香里美々の初恋話とやらが始まったのだが、こうして並んで座って話してるわけなんだが、話す時は見つめあうような形になるわけだ、意外に恥ずかしいな。
やっぱり香里は美人の部類に入るという、認めたくない事実を再確認してしまうし、長い綺麗な髪が街灯に反射して綺麗だなと。二回綺麗だと言ったが、髪だからな、香里は綺麗だが………………そう、外見はよくても内面がよくない、よって俺は香里に別になんも思わない、うん、そうだ。
「藤谷、聞いてるの?」
「えっ? あ、ああ、助けた記憶がない。あと、別に俺は趣味人助けとかじゃないぞ」
「そう言って、困ってる人がいたら助けちゃう。貴方のそんな所に憧れてます。それと、高校入学して一ヶ月、五月十六日の放課後、体調不良で階段から落ちそうになった私を受け止めて、十五段下まで私をかばって抱き合う形で落ちていったの覚えてない?」
長いっ!
つか、記憶力が良いのは本当らしいな、細かすぎる。
「まぁ、言われてみればそんなこともあったな。それってお前だったっけ?」
「えぇ、間違いなく、本当に私は当たり前で助けられたのね。お礼言ったら走って消えちゃうし。まぁ、それが理由の一つ、それで貴方に深く興味が出て色々調べたの、それで男性に免疫の薄い私はメロメロになっちゃったのね、きっと」
きっとかよっ!
さっきから、話が遠回りしそうだから突っ込みを心の中に閉まってるのだが、そろそろ溢れそうだ。
「そりゃまた。難儀な事で」
「責任取って欲しいわ。これだけ私の心にスペースを取ったのだから、私の貴方への欲求を貴方は発散しなくてはならない!」
急に立ち上がったかと思ったら、人指し指で名の通りに、尚且逆転の弁護士みたいに俺を指さした。
「お前の欲求とやらが何によって発散されるか分からんが、友達にならなってるんだから良いだろ? 普通はあんな支離滅裂に告白されたらダッシュで逃げるぞ」
「………色々言いたい事はあるけど今はそれでよしとするわ。それがきっかけで私の初恋は始まり、今日のあの職員室でのきっかけで貴方に接触するのを我慢出来なくなったと覚えておいて」
「分かったよ。あくまで友達だからな、忘れるな。そら、帰るぞ」
「だから、今はそれでよしなの。今はね」
そう言って香里が不敵に笑うのを俺は見なかった事にした。