十八話
「藤谷、朝ですよ」
「ああ、雛子か。さんきゅ、すぐに起きるよって…………なにこれ?」
「はい? 首輪ですよ。それと鎖、そんなこともわからないんですか。やれやれですね」
態とらしく嘆息してる所悪いが、確かに最近鎖で繋がれたりしたが、何故自分の首に首輪が巻いてあって鎖で繋がれてるんだという事実を聞いている。
「首、だけですか?」
雛子の口が半月を作る。そこから雛子の顔が影絵のように口と目が光るだけにしか見えなくなった。もう人の顔ではない。小さい頃に教育テレビで見た影絵の魔女となんら遜色ない。
そう、純然たる恐怖だ。そしてようやく雛子の言っている意味が理解出来る。
「あぁ…………………」
「もう我慢出来ません。美味しそうで美味しそうで……………頂きます」
手足を鎖で固定された藤谷は、文字通り手も足もでなくて、されるがままに…………………
「もういいでしょこれっ!!」
藤宮藤谷、なんとも爽やかな目覚めである。冷たい朝の空気が心から爽やかな、気持ちのいい朝を迎えさせてくれる。
「ありゃ、寝起きは悪いと思ったのに。朝ご飯もう出来るから、早くおりてらっしゃい。って言っても私が作ったわけじゃないけどね」
そう言って舌を出すお茶目な女性。
藤谷の思考は静止している。
さっきまでの夢の事も、この朝の空気の冷たさも昔の事にしか思えない。藤谷の意識はこの町内を越え、もうそろそろ成層圏を越える所まで飛んでいる。
「あっ、そっか。新倉早苗、これからは藤宮早苗ってなるから。貴方のお母さんになります! よろしく!」
一瞬にして自分の体まで意識を叩き戻された藤谷は、
「は、はいぃぃぃぃっっ!?」
これがあの、アイ誘拐事件から一週間後の出来事である。
「と、いうわけだ。俺の奥さんだ。そしてお前らのお母さんだぞ」
「なぁにが! というわけだ、だよ! 一体いつの間に!? つうか急過ぎるだろ」
「わーいおかあさ~ん」
「母親……………」
「よろしくお願いしますねお義母様」
………………なんてたくましいのでしょうか、うちの女性陣は。
「藤谷君は、やっぱり嫌かな? 急じゃなかったら良い?」
あまりに真摯な目で、藤谷もこれ以上は言えなくなった。
新倉早苗さん、この間病院で知り合ったばかりの謎の女性。雛子曰く帰りの船にも乗ってたらしく、全く何者か分からない。
「いや、そのまずは貴方の自己紹介をしっかりして欲しいです」
「うん、新倉早苗、名字は藤宮予定の三十九歳、お仕事はお国の為にえんやっこら。の、可愛い貴方のママだよ」
頭が痛くなってきた。
ここは我が自慢にして、可愛くて美人のブレインにご登場頂くしかない。
「そこまで言われちゃ協力しないわけにはいかないわね」
まだなんも言ってないんすけどね。
「分かりやすいのよ旦那様」
んで、どう思う?あの人の事。
「不思議な人だけどお義父様が好きなのは本当ね。断言するわ」
なんか凄く説得力あるな。後、皆様お気づきでしょうが、私、藤宮藤谷は全く声を出しておりません。凄くて、便利で、理解不能だよこの会話、むしろ会話の定義を守れてんのかな。
「って三十九歳!? 嘘だろ!? 嘘だっ!」
今更驚く藤谷。あまりに普通に言われたので突っ込みが遅れたが、早苗さんの容姿、明らかに二十代、しかも絶対に前半だ。だからこそ、うちのオッサンなにしてくれたんだよ、と思ってたのに年齢的には問題ないじゃん。
「愛しい奥様との会話は終わったかしら? 藤谷君分かりやすいからなに言ってたかなんとなくわかるんだけどね」
………………あれ?なんかおかしいな。
アイを見ても、雛子を見ても、親父を見ても、早苗さんを見ても、美々を見ても、自分がおかしい事が分かる。
「あの、ごめんなさい。気が動転してました。その、別に反対とかはしてなくて、むしろ賛成なんですが。だから……………ごめんなさい」
藤谷は堪らず部屋から逃げ出した。それで後悔した。驚いていただけだ、だけなんだ。
身を削って、人生を削ってまで俺を育ててくれた親父が結婚する。なに反対してるみたいな事言ってんだよ。真っ先に祝福するのが俺の役目だろ…………ああ、恥ずかしいな。
部屋で布団被ってうんうん唸っていた。偶の休日にこんな情けない高校生いるだろうか、いやいない、いる筈ない。
「別に藤谷は悪くないよ。急に結婚、なんて言われたらそりゃ誰でも抵抗を感じるって」
まずい、こんな時に優しくされると我慢出来ずに抱きしめてしまいそう。
「自重しましょうね」
うげっ、なんか体の上に乗ってる。おそらくは雛子だ。雛子の奴、なんでか知らんが俺と美々がいちゃつくと邪魔してくるんだよな。
「アイも~!」
にぎゃっ、言わずもがな。
「あら、奥さんの目の前で女の子に乗られてるなんて良い度胸ね?」
あれ?おかしいな、明らかに一部始終見てるのに悪いの俺なんだ。
布団から顔を出す藤谷。予想通り、体の上で飛び跳ねてる二人の白い少女達と、半眼の愛しい人、ニコニコの早苗さん。
「藤谷君、少し二人で話そうよ。外に車あるから、待ってるね」
返事も聞かずに早苗さんはそそくさと出ていってしまう。
藤谷は流れていく景色を眺めていた。自分のよく知る町並みを抜けて、記憶にない景色になってきた。それでも口を開けない。謝らなきゃいけない、祝福しなきゃいけない、『でも』。
『でも?』何がでもなんだ?俺は何が不満なんだ。
いや、不満なんかない、『でも』。
また『でも』か?
ワカンナイ。
「………………藤谷君、私ね。貴方のお父さんとお母さんの友達だったんだ」
早苗さんが口を開いた。お父さんとお母さん、ということは藤谷を産んだ二人の方だ。
「そう、なんですか……………」
違う、こんなことを言いたいんじゃない、俺は謝りたいんだ。
思う言葉が口を出ず、苦苦しい気持ちになる。自分がとても小さな人間のようだ。
「それでね、その、ずっと好きだったんだ宗ちゃんのこと…………」
「宗ちゃん?」
明らかに空気の読めてない返答をした藤谷。
「えっ、あ、あのお父さんよ貴方の、育ての」
慌てて弁明する早苗さん、別にそんな焦らなくてもいいのに、とそんな事を考えながら藤谷ゆっくりと視線を右に移して早苗さんの顔を車が走り出してから初めて確認する。
藤谷のもやもやは全て吹き飛んだ瞬間だった。
「あの、さっきはごめんなさい! 俺、すぐには貴方を母さんなんて呼べないかもしんないけど、アイもヒナも、それに美々だって凄い良い子達です。俺の自慢です。だから、俺達と……………家族に!!」
藤谷も自分が何を言ってるかよくわからなかった。とりあえず早苗さんに言いたい事、言わなきゃいけない事を思い付く限り言った。こっちを見た早苗さんはすぐさま車を路肩に停車させた。
「藤谷君!」
「は、はい!?」
声裏返った。恥ずかし。
「私、立派なママになる!」
「は、はい………………」
燃えていた。
藤谷の手を取って、本当に華奢な女性かと思えないくらいの力で握られた手に痛みを感じながら、藤谷は燃える早苗さんの瞳を見続けていた。
早苗さんの事はよく知らないけど、あんまし張り切って欲しくないなぁ、と一週間後の藤谷は思うことになる。
そして、その一週間後。
「朝だよ! ウェイクアップ!」
震度七。
藤谷の現在の状況を表すのにこれ以上適した言葉ないだろう。
一週間毎日定時にこの地震に襲われていた。アイだってこんなには揺らさないぞ。
「……………起きた、起きました。大丈夫です…………」
「うん、朝ご飯出来てるからね」
そう言い残して早苗さんは部屋を出て行った。藤谷は半身を起こして頭を掻いた。
これはまだ序の口。
「はい! ハンカチ! テイッシュ! お弁当! 行ってらっしゃいのチュー」
「お義母様! 最後のは絶対に認められません!」
「あはは、ごめんごめん」
「じゃあアイとちゅー」
「あらぁ、アイちゃんもヒナちゃんもいい子ね~」
こんな寸劇が毎日行われる出掛け。
「ぐす…………汚された………私、汚されました…………」
ヒナ、ドンマイ。
心の中で合掌しつつ、藤谷は鞄を持って家を出る。
「にゃははっ、いい感じで死んでるねフジちゃん」
嗚呼、なんか最近忙しくてまともに話すがかなり久しぶりな人に話し掛けられてるけど、体がいうことを聞かない。
「あっ、あーちゃん、なっちゃん、私もやる~」
さて、「あーちゃん」「なっちゃん」が誰を指してるか解るでしょうか?
流石は篠山、久々だけど濃いキャラだ。
正解を言うと。
「だぁぁぁぁぁぁぁっ! やめんか! アイとヒナ逃げんな、こっちへ来い」
「嫌です」
「いやでーす」
「行ったらつむじサイクロントルネードハリケーンドラゴンをくらいます」
よくわかってるじゃねぇか。
「アイ」だから「あーちゃん」「雛子」だから真ん中の字を取って「なっちゃん」本当に流石のネーミング。
「ったく、ヒナ、お前はお姉さんなんだからしっかりと妹を見てなきゃ駄目だろう?」
机に突っ伏して寝ていたのに、朝のように揺らされて無理矢理起こされた藤谷の機嫌は悪い。肉体的には疲れなんて全然ないんだが、精神的にはかなりきている。
「そうです。だから弟分である藤谷の遊びを相手を仕方なくやってあげてるのですよ」
「お前が姉かよっ!?」
そんな時、藤谷の肩にポンと手を置く人物がいた。
「フジフジ、お前黄金率でも手に入れたのか? 最近女にまみれてるじゃないか」
………………
振り返ってその人物を視認した藤谷は素直で、今感じている言葉をそのまま出した。
「…………どなた?」
「………………………………」
沈黙。
静寂。
「マジで言ってないよね?」
半泣きになりながら彼は聞いてきた。
申し訳ないが、やっぱり思い出せない。いや、思い出せないという言葉は間違いなんじゃないか、記憶に存在しない可能性もあるわけだし。
藤谷は小さな脳をフル回転させて記憶の海を漁る。
「人違いでは……………」
彼は全泣きしてなにか名前を叫びながら走り去って行った。うん、なんだか面白い人だな。
力の抜けた藤谷は再度椅子に戻って寝る事にする。その日は誰も藤谷にちょっかいを出すことはなかった。
なんだろうこの足取りの重さは………………家が遠い、帰りたいと思えんないや。
その日藤谷は珍しくゲームセンターに寄った。
何をしようかと店内を見回す。ビデオゲームでもやるか―――――
「ここはシールを作ってぬいぐるみキャッチャーね」
「…………………………よし、何をしようか美々さん」
最初に言っておきます。藤宮藤谷君はゲームセンターに入るまで一人の寂しい帰宅をしておりました。「あら、ちょっと私は今日のツンデレのツンだから一人で帰って」と意味の分からない言葉と共に突き放された筈なんだが。
「そしてこれからがデレよ」
やべぇ、なんかどっと疲れた。でも美々すげぇ可愛いな。
あっ、まだなんも言ってないのに頬を押さえて照れてる。この仕種も可愛いぜ。
「それでバカップル、いつまでそんな茶番劇を繰り広げやがる気ですか?」
「ちゃ、い、う、う……………気ですか~!?」
アイさんよそんなに長い台詞でもないぞ。そしてヒナさん、なんか最近その睨み顔ばかりだな。
「んへ? はんへひひはんはおへをふへっへるほはな?」
言う必要もないかもしんないけど、敢えて、敢えて、言わして下さい。理由は分からないけど美々さんは何故か怒って頬を膨らませながら、藤谷の頬を抓ってる。
頬を膨らませてる顔が恐ろしくなるぐらい美麗で可憐なので見惚れて頬の痛みを感じなかったりする。
というわけで、出来ればもちろん美々と二人きりが良かったが、かといって家族を蔑ろにも出来ない。とりあえずの記念ということでプリントシールを作りに行くことにする。
それでその前に着いたところで不意に肩に手を置かれた。
振り返る。
もう一度逆を向く。
振り返る。
藤谷の人間としての機能の大半がストップする。
わずかに残った脳の働き藤谷は考える。慣れている筈だった。さっきから美々も白双子も藤谷の不意をついて現れた、なのにこの事態には対処できない。
「あらあら、まさか可愛い女の子を侍らせて、ゲームセンターに寄る不良さんがまさか藤谷君だなんて」
早苗さんがいた。隣には親父っぽい人もいた。
早苗は婦警さんの格好をしている。このコスプレを見ながら美々がこの格好したらどうなるかなぁ、とか考えていた藤谷はやっぱり脳がしっかり働いてないのだろう。そして隣の親父っぽい人が問題だ。
「それで早苗さん、その隣の方は?」
「ん? 宗ちゃんだよ?」
「やだなぁ、いくら俺でもそんな嘘は引っ掛かりたくありませんって」
「引っ掛かりたく、なんですね…………」
ボソッとヒナの突っ込みが聞こえるがスルー。だってあんなナイスミドルな親父を認めたら負けだろう。息子として、男として。
「えへへ、ちょっと私好みに改造してみました」
改造…………………………
これでもか、ってくらい伸びた髪を切り。そこまでか、ってくらいウザい髭を剃っただけで人間ここまで変わるのか。
「……………ちょっと素敵かも………………」
マズイ!いや、洒落にならない、美々が親父を見て少しときめいている!?な、なななななんとかせぬぇぶぁ!
「「ぱぱ~」」
「おっ、なんか娘達に囲まれるのも良いもんだな」
父に歩み寄ろうとしている美々を泣きながら押さえる藤谷、双子に抱き着かれて喜ぶ父、それを慈しむように見ている早苗さん。
藤谷としてはカオスな状況がゲームセンターで広がっていた。
閑話休題、紆余曲折、なぜか警察官のコスプレをしてる大人二人を交えて写真を撮って、その帰り道。
早苗さんの運転するステーションワゴンに全員で乗って移動中である。
一体どこへ向かってるんだろうか。二人は着替えて私服に変わったし、つか、さっきの格好は一体何だったんだ?出オチか?
そして、この口も開けない重苦しい空気はなんだろう。騒がしい双子すら藤谷の後ろで、静かに座ってる。美々は落ち着いた表情で座って、いや、訂正、美々も少しこの空気にやられて緊張している。
車を出してから三十分程が経過した辺りで、藤谷は目的地が解った。車は少しずつ山道に入り、ビル代わりに山が、電柱の代わりに竹が、それでも道路は舗装されている静かな場所へと入っていく。山門から入って十分程度車を走らせて目的地に到着した。
「藤谷、ここは?」
雛子が重苦しい空気の中でようやく口を開いた。
「墓地、俺の父さんと母さんが眠ってる。最近、来てなかったな……………」
なんでだろうか。お盆に行っただけ、そう、藤谷としては墓参りは形式的なのだ。実感、それがまるでない、言い方はうまくないが、墓石がそこにあるだけ。
きっと、両親の記憶がないからだろう。少し、胸が重い。
「美々?」
「………………何かしら?」
「大丈夫か? 調子悪そうだが」
「大丈夫。心配しないで…………少し…………ね」
美々はそう言ったきり俯いて何も言わなくなってしまう。追及しても言ってくれそうにはない。
美々の事は心配だが、とりあえず親父達について行く。
墓石の前に六人で立つ。いつの間にか親父が持っていた花を添える。
「久しぶりだな。つってもお前はなんも答えちゃくんないがな。やっぱり俺を恨むかい? 俺だけ生きて、藤谷の成長を見て、家族はこんなにいるし、更に嫁さん貰おうとしてんだからよ」
親父が墓石に語りかける。簡単に見破れる苦笑いを浮かべて、昔の事でも思い出してるのだろうか、ゆっくりと言葉を紡いでいく。もちろん、親父の言葉に何も返答はない。
「奈穂さんも、羨ましいでしょう? 藤谷は良い男に育ちましたよ。嫁さんも貰って、後は孫の顔を待つだけだ。二人とも、俺は立派にやれたかな?」
親父の言葉は続く。藤谷達の事を忘れたかのように親父を墓石に語り続ける。藤谷は我慢できなかった。いや、藤谷は我慢し続けていたんだ。今までの人生でずっと我慢してきた。もうその我慢は今日、やめることにする。
「親父はよくやったよ。俺のために好きな事を止めて、俺のために時間を割いて、もう、いいんだ。後は、早苗さ……………母さんを幸せにする事を考えてくれよ」
藤谷がずっと言いたかった言葉。
言えなかった言葉。
いつか大人になって言おうと思っていたお礼。
過去の鎖にがんじがらめにされて、自分の幸せを探せない父のための言葉。
「…………っ!?」
殴られた。
唐突に、思い切り石の床を転がる藤谷、真っ青な顔した美々が駆け寄って来る。藤谷が再度親父を見た時親父は―――
「バカヤロウが……………まるで俺がお前を育てんの苦痛だったみたいな言い方しやがって! たしかに、人一人育てんのは楽じゃねぇ。わかんない事だらけだった! でもよ、俺は一度もお前を苦痛に感じた事はない。親だからな」
泣いていた。
藤谷は歯を食いしばった。
間違えた。言葉を間違えた。伝えたい事はこうじゃない、違うんだ。
そう思った藤谷の体は動いていた。
拳に力を入れたわけじゃない、拳に想いのせて、父親への愛を伝える。
「んだったら! なに遠慮してんだ!? 幸せになる権利は誰にだってある! だから、アイも雛子も俺も、親父の子供なんだよ……………」
親父は遠慮、という言葉では表しきれないが、早苗さんとの結婚に気後れのようなものをしてる。藤谷達の顔色を窺って、自分の幸せを、早苗さんの幸せを無くそうとしている。
そんなのは駄目だ。
「早苗さんを幸せにする自信がないなら…………それなら俺は反対だ。でも、俺の、俺達の親父はすっげぇ格好良いんだ! いつも笑って家族全員気付いたら親父と一緒に笑ってんだ。すっげぇんだ……………だから…………だか………」
あれ?上手く喋れない。呼吸が乱れる。前も見えない。
「…………頑張ったね」
泣いていた。俺も泣いていた。美々に抱きしめられて、俺はもう涙を止められなかった。
「美々、さっき調子悪そうだったけど大丈夫か?」
「ん? ちょっとお墓見たらお母さんの事思い出しちゃって…………」
「そうか…………寂しいか?」
「そりゃもちろん、でも、藤谷が側にいてくれれば私は寂しくなんてないわ」
藤谷の部屋、どうしてもさっきの美々の様子が気になって、眠れそうになかったので聞いた。なんか今日逆らえず、美々の添い寝イベントが実行されている。少し、感情をさらけ出したからか、あまり一人でいたくなかったから良かったと言えば良かったが。
「ええい! 母さん、親父! さっさと部屋に戻れよ! 部屋の前でなにしてんだよ!?」
戸が開いて母さんと親父が現れる。
「孫の顔が見たくて…………ちょっと藤谷君を応援しようかと」
「孫はまだか!?」
ヤバい、頭痛いや。暗いのに顔がなんとなく想像出来るし。
「藤谷、期待には応えなきゃ! でも、流石に見られてたんじゃ恥ずかしいかな?」
止めて!美々さんに本気で迫られたら、私の理性が瓦解する。
「むぅ~! アイもとうやと寝る!」
「そうですね。日本には川の字というものがありますし、家族は全員一緒に寝ても問題ない筈です」
いや、大有り!
「皆出てけ! 狭い部屋にこんなに人が入れるかよ!」
「藤谷、愛してる…………」
なんで!?美々さんはなんで今のタイミングでそういうこと言うんだ!?
後は家族全員思い思いの発言をして、藤谷の部屋に六人で寝る事になりましたとさ。