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十六話

「ふふっ、ボクと一緒じゃ不満かな?」


人差し指を立てて微笑む女性が自分と向かい合って座っている。

私、藤宮藤谷は恐怖ばかり感じつつ、引き攣った愛想笑いをしていた。


「うーん、やっぱり美々が気になるかな?」


なぜ藤谷が黒崎舞さんと喫茶店で向かい合って、珈琲なんかを飲んでるのかと言えば。










「ちょっと藤谷君! お姉ちゃんとのりぞーとすぱの約束はどうなったの!?」


この乱暴な一言から始まった訳だ。


藤谷が感じたのは、結局誰が言ってもりぞーとすぱは平仮名なんだと言うことと、この子が一瞬誰だったか出て来なかった事だ。確か夏前?うん?美々と付き合いだす前だから、なんか大分昔の事のように思える。


黒崎椎子、眼鏡の長髪麗人から、コンタクトのボーイッシュ短髪麗人にクラスチェンジした我が学校の生徒会長黒崎舞さんの妹だ。

確かアイの日用品を買うために訪れたショッピングモールが初見だったか。姉の会長とは違って威圧的な感じが印象的な子、姉譲りなのは容姿が可愛い方の部類に入るということだ。


「いや、そういやすっかり忘れてたが、もう秋だし、俺の腕ほら」


俺がようやく返答したところで場所の説明をしよう。場所は校門、時は放課後、恐らくはこの椎子さんは藤谷を待伏せていたのだろう。

そして藤谷は、折れている腕を強調するように言ってみる。


「そういやどうしたの? 階段から落ちた?」


言い様は酷いが藤谷の身を案じる気持ちが見えている。きつい言い方もするし、目付きも釣り上がっててきつい印象を受けるが、なんだかんだで優しい良い子だ。彼女の姉さんの自慢通り。


「まぁそんなとこ、にしても確かに約束を破るのはよくないな。よし、なんか飯でも奢るか」


「そうそうそれよ。良いじゃない藤谷君」


うんうんと頷くと椎子のトレードマークのツインテールも一緒に揺れる。少し可愛い、なんか愛玩動物を見ている気分、少し癒されている自分がいる。目付きと口調が悪くても可愛い部類に入る子だからかな。

「そうだな、会長も今日暇だといいんだがなぁ…………」


「はぁ!?」


すっごい攻撃的な対応された。あまり敬意は払わなくて良いとは言ったが、年上にそれはないんじゃないだろうか、いや駄目だろ。この子のこれからの為にもここはガツンと叱らなくては、


「あのな椎子よ―――――」


「ああ! うっさいうっさい! アンタさ、本当に本気でアホ? いや、アホだわ。もう救いようがないアホ」


マズイ、これ以上言われたら心が駄目になる。


普段美々の攻撃、いや口撃に耐えている藤谷だが、これはきつい。年下にここまで言われたら流石に泣きそうだ。


「だから、私が何を言いたいのかと言えば、って聞いてる? 何校門に縋り付いて泣きそうになってんのよ」


君がやったんだろ。


藤谷はそう言い返したかったが、声が震えて情けない事になりそうだから止めておく。


「話戻すよ。だから、お姉ちゃんを休日使ってデートに誘えって言ってんの!!」


「…………は? 俺が会長を?」

「そうよ、他に誰がいんのよアホ」


また言ったな、二度どころか三度四度と言いやがった!親父にも言われたことないのに!


あの親父に「アホ」とか言われたら「テメェがアホだろ!このアホ親父がぁぁ!」って拳をいれるな、うん間違いないよ。


「いや、飯奢るならいつでも良いじゃん。なんか今日は俺の彼女さんとか『女達の会合』と称してどっか行っちゃって夜ご飯どうするか考えてたんだよ。あっ、椎子も来るか?」


そう藤谷が言うと、椎子は額に手を当ててなんかピクピクと震えてる。


なんだ、食事奢りがそんな嬉しいか、所詮は中学生よな、かっかっか。


と謎の優越感に藤谷が浸りまくってキャラまで崩していると、椎子の震えが最高潮に達した。


「アホーーーーーっっっ!!!」


鼓膜とか色々が破れんじゃないかってくらい叫んで、椎子は走り去って行った。


残されたのは中学生に散々罵倒されて、なんか立ち尽くしている俺藤宮藤谷、周りを見ると下校していく生徒視線を集めまくっていた。罵倒され過ぎて流石に凹んだ藤谷はトボトボと独りの帰路につくのだった。








女達の会合の為、アイもおらず、完璧に独りの藤谷は家の居間の机に手紙があるのを発見して、中身を開けてみる。


『藤谷へ


夜ご飯はカレーを鍋に用意しておきました。温めて食べてください。


マイスイートダーリン、今日は寂しくても我慢してね。美々より』


「流石は美々だな。きっと良い嫁さんになるよ。俺のだけどな」


こんな傲慢な台詞を言えば大抵の女の子は引くかもしんないが、そこんところうちの美々さんは違うんです。きっと多分絶対に褒め言葉と解釈して照れるんですよあの娘は。自慢の彼女であり、大切な奥さんだから、自慢したって良いだろう。


「…………………俺が良い気分で色々浸ってんのに貴様は何をやってる?」


「おう! 本当に嬢ちゃん料理上手いな! 腹一杯だ!」


台所で冷蔵庫に背中を預けて爪楊枝で口の中弄っているこの男が父親だとは誰が認めたいだろうか、藤谷は全く認めたくなかった。


そして藤谷は気付く、気付いてしまった。藤谷の側にいれないから藤谷の腕の事まで気にしてスプーンで食えるように配慮してくれた美々のカレーが、カレーの鍋が、


「空じゃねぇか………………」


「おう、すまんな美味くて」


「執行!」


この日藤谷は知った。

片手でも人って簡単に倒せるんだって、そう知って父を倒した。






重要なのはその後、流石に腹が減ったのでコンビニに向かった時の事だ。


本当に偶然というのは恐い、この恐くて作為の感じる偶然こそ運命というものなのだろう。


「おや、こんなところで会えるとは運命だね」


短髪、秋といっても寒くなってきたので肌の露出のない完全防備の私服、概要だけ聞くと少年のような女性、放課後のツインテール罵倒中学生の姉舞さんとコンビニで鉢合わせた。


「あれ? 美々達と出掛けなかったんですか? 美々の事だから誘いがかかったでしょう?」


「ああ、女達の会合だね。ボクももう受験生だからね、あの会合の議題にはのれないんだよ」


そう言って苦笑いした会長、藤谷が引っ掛かってるのはまだ黒崎舞は生徒会長なのか、と会合って本当になに話してるんだって事、絶対飯食いながらだべるだけだと思ってた。


「そうなんですか、いや今日椎子に会長をデートに誘えって言われまして、食事にでも誘おうかと思ったんですけど、忙しそうで止めといて良かったですよ」


愛想笑いをする藤谷、間を持たせる為の愛想笑いも会長が考え込んだ為に何とも言えない居づらさが生まれる。


「ねぇ藤谷君」


「はい!?」


この空気の中急に名前を呼ばれて藤谷は声を裏返しながら返す。


「私とデートして頂けませんか?」


「……………はい?」


「たしかりぞーとすぱの約束残ってたよね。美々と二人で行ったんだ私とも行ったっていいよね?」


なに言ってるんだ?


彼女は藤谷には結婚前提の恋人がいて、そしてその子の友達であり、超がつくほど嫉妬深いと知ってる筈だ。なんでそんな頼み事をコンビニでしてきて、なんかいつもと雰囲気ちがうんだ?


初めて、会長が手の届くところの女性と感じた。


「もちろん美々には了解をとるよ。だって、分かってるから、でもデートしよう」


「い、いや、恋人のいる身でデートと銘打ったお出かけは…………ちょっと」


「なら遊びに行こう、二人きりになっちゃうけど仕方ないよね」


なんで二人きりになって、どうして仕方ないか全く解らない。


藤谷はそのまま美々に任せるという事で飯も買わずに脱兎の如く逃げ出すしかなかった。







一体なんだったのだろう。黒崎舞先輩の様子は明らかにおかしかった。確かに元からよく解らないし、掴み所のない雲のような霧のような人で、でも強い責任感からか人望は大したもので……………………藤谷は一体黒崎舞の事をなんだと思ってたんだ。


藤宮藤谷は考える。電気もつけてない自室の天井を眺めて寝転がりながら。


生徒会長、先輩、だが、さっきの彼女はどれにも当て嵌まらないだろう。手が届かない、掴めるわけない霧が、あの時は触れると確かに感じたのだから。


「くそ、なんだってんだ……………」


とりあえず溜まっていた言葉を吐いてみた。問いでもなく、誰かに聞いたわけでもない言葉、答えも出なけりゃ返答だってありはしない。


今ほど美々に会いたいと思った事が最近あったろうか……………あったな、父親に飯を食われた件で。


頭の中で茶番としか言えない今日の出来事を思い出し小さく藤谷は吹き出した。笑った事によってか少し張り詰めたモノが萎んだ気がする。落ち着いた所で舞の行動は説明出来はしないが。


美々も帰って来ないし、腹は減ったが飯を用意する気にもなれない、こんなときは寝てしまうに限る。寝てしまうしか選択肢がないなんて事はない。ある筈ない。










私は最低で、卑怯で、なんて惨めか。


「ボク」なんて言って漫画のキャラのように自分を演出してるのがどれだけ惨めか。


言い訳をすれば、私は好きだったんだ。藤宮藤谷君の事を私が知り、私が思う以上に、彼を愛していた。

愛してしまっていた。悔しいし、情けないし、それでいて誇らしい。


この気持ちを一体どうすればいいんだろう?さっきは彼の約束を破れない信念を利用して気付けば無理矢理に迫っていた。今振り返れば目も当てられないほどに何をやってるか信じられない。


だけど、この愛という衝動は人をここまで堕とすのか、落ちて堕ちて、私はボクらしくないことをした。でも、いくら反省したって、彼に恋人がいたって私は彼に抱きしめられたい、彼の側に居たい、もうこんな感情捨てた筈なのに、抑えられない、私を抑えられない。


捨てた、これも嘘、彼を見続けた私は彼への想いをただひたすらに育んだ。美々の事も頭にいれつつ育んだんだ。


頭の中でいくら言葉を紡いでも、吐いても答えが出ない。


私は彼を愛していて、ボクは彼女を羨ましく思っている。


ボクはこんなこと止めろと言うが、私は止まれはしない。


「藤宮藤谷君」


愛しい人の名を口に出す、もう私は満足出来はしない。

ボクはどこまでも黒崎舞を最低だと思った。









「それにしてもいい天気だね? 素敵な秋晴れだ」


「え、ええ」


「やっぱりつまらないかな?」


そう言って会ってから一度も笑顔を崩さない先輩は人差し指を立てた。


出掛ける事は決まった。なんか美々が「行ってらっしゃい」とだけ言って着替えを渡してきた。それが今日の朝、日曜の朝の出来事。


先輩は一体どんな魔法を使って美々を説得したのだろうか。

というわけで、駅前で待ち合わせて喫茶店でこれからを決めるに至った。日曜の昼間に喫茶店に入って休憩なんてほとんどした事ない藤谷は客層が気になってあっち見たりこっち見たり忙しい。

「さて、どこに行こっか?」


藤谷は泳がせていた視線を先輩に固定する。


「いや、全くなんにも考えてませんでした」


「ふふっ、美々が了承すると思わなかったからだね。ボクもやるもんでしょ? ちょっと卑怯な手法を取っちゃったけどね」


そう言って先輩は舌を出して人差し指を立てて微笑んだ。


上手く言えないんだが何か違う。黒崎舞に違和感ばかり覚える。何がズレてるか解らないズレ、ズレている事しか解らない。


「ん? ボクの顔なんかおかしい? 少しだけど化粧してみたんだけど」


「えっ? いつもはしないんですか?」


「うん? その発言はどう捉えたらいいのかな? 喜ぶべきか、悲しむべきか、将又怒るべきか」


最後の部分の漢字難しいな、まぁでも、ここは喜んでもらうところかな。化粧なしであの肌とか、目元とか可愛くバランス取れてるんだからやっぱり凄いよなこの姉妹。


「化粧してなくても努力はしてないわけじゃないよ?」


あるぇ~、また俺は口に出してないんだけどなぁ…………


「それはほら、やっぱり藤谷君はわかりやすいから」


………………もう無心になる。無の境地、悟りを開いてやる。


「それはきっと藤谷君には無理かな」










「うん、デートだね。デートっぽいね!」


本当に本気で元気ですね。なんかこの後に言われたりやられたりすること考えると藤谷は目の前ではしゃいでる先輩についていけそうになかった。


もちろん藤谷が頭を抱えて考えているのは美々だ。美々が恐い、こんな簡単に二人で出掛けるのを許した美々も、これから帰ってなにかをしてくる筈の美々も、もう全ての美々が恐い、もう帰りたくないくらい、でも帰らないともっと恐い。


じゃあなんで俺はこんな場所に来てんだろう?わざわざ電車で揺られて水族館なんかに来てるんだよ。美々とだって来たことはないのに。


もちろん美々以外を恋人として好きになることはまず、ない。じゃあ、じゃあどうして先輩と二人で出掛けているんだ?無理矢理嫌だと言えばなんとでもなった筈なのに、どうしてだ?


「藤谷君? 今はさ、私の事を見てくらないかな? 私を、私だけを」


いつの間にか目の前に立っていた先輩の瞳に藤谷はくぎづけになった。動けなかった、目を離せなかった。口も、あまり上手く動かない。


なんだろうか、この間のコンビニから先輩が希薄になったような気がする。最近どこかでも同じように誰かの存在が希薄で吹いたら消えてしまうように感じた事があった筈だ。それが誰だったか思い出せないが、今目の前で深く深い瞳で藤谷を射抜いてる彼女ではない。


やっとの思いで藤谷は口を開いた。


「俺は、俺が心の底から愛して見てるのは美々だけです。あなたを俺は見続けられない、大事な友人としてなら、あなたを見れる」


その時、藤谷の両肩を舞は掴んだ。ぎりぎりと握力で締め上げる。藤谷は顔を歪める事もなく、ただ顔を崩さず真摯な思いで、真摯な瞳で目の前の女性を見ることしか出来ない。


暗い水族館の中だ、周りから見てもカップルがじゃれあってるようにしか見えないだろう。こんな、悲痛な表情をしている女性と見方によっては無関心な顔をしている男の顔を確認する人はいないだろう。唯一の救いだろうか。


「なんでよ……………なんで? なんでなんでなんでなんで!? 私のどこが不満!? 私は、私は美々に劣ってる点なんて全然ない! 確かにあんなに記憶力よくないし、髪だってあんなに綺麗じゃない、体つきだって………………あれ? そんな……………あはは、私、駄目じゃん…………なにが勝ってるのよ……………なにが……………あはははあは、うう」

藤谷は言葉を返せなかった。何を言えばいいのか藤谷には分からない、沈黙しか彼女には返せない。


「ボクの方が美々より先に君を見てたのに。一杯、一杯一杯、何度も何度も! ずっとずっとずっとずっとずっと! どうして? どうして? どうして、ボクを、私を見てくれないの!? 見てよ、見なさいよ……………もう嫌だよ…………寂しいよ」


終には舞は藤谷の胸の中に倒れ込んで、嗚咽でも何も言えなくなるぐらい泣き出した。


藤谷は避けるわけにもいかず、ただ胸を貸してる事しか出来ない。こんな所を美々に見られたらなって、思うくらいやっぱり自分は美々が好きだった。分かってるけど、別に綺麗事を言うわけじゃないけど、自分のせいでこんなに女の子を泣かしてるのは気分が悪かった。周囲の目が彼女に叫びによって集まっても、黙って藤谷はそのままの体勢を続けた。


届くわけないと思ってた。見上げるしかないと思っていた。近づこうと努力しかできないと思ってた。でも、今はこんなに近くにいる。


きっと、藤宮藤谷は黒崎舞に惹かれていた。いつか恋愛感情になるかもしれない意志で憧れていた。やっぱり、舞さんもまた一人の女の子で、一つしか年齢の変わらない、大人に成り切れてない大人って事か。だから言わなくちゃいけない、藤宮藤谷の意志を、藤宮藤谷の今を、言わなくては。


「その、舞さん、今は舞さんって呼ばせて下さい。俺は美々が好きです。どこまでいっても愛してるのは美々なんです。だから、舞さんの思いは受け取れません」


「……………ばか…………なら、撫でないよ」


「ごめんなさい、でもずっと俺は舞さんが凄いと思ってました。いや、今も思ってます。でも、やっぱり女の子は女の子ですね、結構小さいや」


「ふん…………胸は流石に美々に負けるけどないわけじゃないもん…………」


「ちょっと待った! 胸の話はしてませんってば、肩幅とか、ほら、小さいなって」


ひどい、俺最低だろ、こんな時に胸の話なんかしたら、流石にそんな人間じゃないって、いや人間性が疑われるって。


「うん、私、やっぱり君が好き、しょうがない今は引くけど、これから美々が君を離すような事があればさらっちゃうからね」


半歩引いて藤谷から距離を取った舞は人差し指を立てて笑顔でそう言った。その笑顔は間違いなく藤宮藤谷が憧れた笑顔で、やっぱり可憐な女性の黒崎舞をより確かに感じた。









それから『お詫びに食事に行こう。お姉さんの奢りだぞ』舞先輩の提案で食事だけ一緒して、藤谷達は帰路についた。


そして現在、藤谷はとぼとぼと寂しく一人で孤独に駅からの帰り道を歩いていた。もちろん日は暮れかかっていたので送ると進言したが、昔からよく聞いた『ボク意外と強いから大丈夫』の一言で一蹴され、藤谷は帰っていた。気付けば空は藍色、日も少しずつ短くなっていくのを過ごしやすくなっていく肌で感じていた。


「あら、偶然ね。どうだったかしらデートは?」


藤谷は微笑ましくて、なんだか胸が暖かくて、彼女の姿を視界にいれただけで笑ってしまった。


藤谷がよく使う帰り道、この先に分岐もなく、一本道で我が家というところで彼女は立っていた。いや、待っていた。


「友達思いなんだな。マイハニー」


「あら、惚れ直した? マイダーリン」


「いや、余計惚れた」

多分、端から見たら相当バカっぽい会話、いや、バカなんだろう。バカでいられる事がすごく暖かい、彼女といられる事がすごく心地良い。


彼女がそっと俺に近付いて俺の手を取る。俺はそれに手を握り返す事で応える。


「ねぇ藤谷? 私は、貴方を愛してる。貴方も私を愛してくれている。でもね、怖いんだ」


「怖い?」


「貴方はね、貴方が思う以上に素敵な人よ。私なんかじゃ霞んで釣り合わないくらい、だから」


「だから、黒崎舞先輩に俺を渡してもいいかななんて思ったのか?」


藤谷は立ち止まった。手を繋いでる彼女も当然に止まる。


「なぁ、それ、凄い下らないぞ。俺の愛する人は君だ。だから、そんな事するな……………俺、愛想尽かされたかと思ったんだから」


そう言って藤谷は美々の額を指で弾いた。


「そうね、後悔した。貴方が舞と楽しそうにデートしてる姿を思い浮かべて泣きもした。まだ自分に自信がもてないのね私」


「そっか、俺は最近自信過剰なぐらいなんだがな。こんな美人でなんでも出来る嫁さん貰ったからな。生んでくれた両親に自慢しに行こうかと画策するぐらいにな」


「藤谷…………私も貴方に関しては自慢よ。愛想尽かされたらどうしようかビクビクするぐらいにね」


「そんな事出来るわけないな。美々がいなけりゃ俺は二日以内に遺体になる」


そう藤谷は一笑いして歩き出した。美々の手をしっかりと握って。

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