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十一話3

目を覚ますと藤谷は自室のベッドの上にいた。


蝉の鳴き声がうるさく、夜だった筈なのに太陽光が苛々するぐらい降り注いでいる。


辺りを見回す、やっぱり変わりなく自室のベッドの上、今気付いたが、美々が目の前で正座している。


でもおかしい、目の前なのに美々の顔がよく見えない。なんか霞んでるというかぼやけてるというか、それでいてその霞は赤い。


「俺、結構寝ちゃってた?」


「えぇ、お陰ですんなり終わりましたよ」


うふふ、と口に手を当てて笑う美々、顔はまだよく見えないが体を見間違えるわけがない。特に自己主張の激しいアレとかさ。


「うん? 一体なにが終わったって?………ってあれ?」


体を起こしてベッドから出ようと考えた。考えたというか行動しようとした、たしかにした。だが、金属音と共に体の動きが制された。


なんで今まで気付かなかったのか、藤谷の手足は鎖で縛られている。手錠とかじゃなくて鎖がグルグルと巻き付いている。手足を動かそうにも金属音を無駄にたてるだけで、体は動かない。


「なんだよ!? なんだよこれは!」


「え? それは鎖ですよ。貴方を縛って私だけをミレルヨウニ、ネ」


口元を半月にしながら寄ってくる美々、そこでようやく顔が見えた。


真っ赤だった、塗りたくったように赤い、鮮烈な赤、服も赤い絵の具をぶちまけたようになってる。


「ああ、アイは始末したよ。だって、居ると藤谷が私だけを見てくれないんだもんクヒヒ」


そう言って不気味に笑った美々はベッドの縁に腰掛ける。藤谷の頬に手を当て妖艶に微笑む。


「好き、大好き、超好き、貴方が全て好き、他の女の子………ううん、他の生き物に貴方を見せたくない、もちろん触れさせるなんてさせたくもないし、考えたくもない。私のモノワタシダケノ藤谷…………ずっと一緒だよ」


最後の宣告と共に唇を寄せてくる美々、藤谷は体も心も言うことが聞かず、ただただ震えることしかできない。


喋ろうにも空気が漏れ出すような音しか出ない。









「はいヤンデレ!」


「きゃあ!」


「あれ? ここは? アイはアイは大丈夫か!? 鎖は!?」


「落ち着いて、まず落ち着いて!」


肩を押さえ付けられて、やっと冷静になる藤谷、なんとか頭を動かして状況を整理することにする。


自室のベッドの上、目の前には美々、鎖は………ないな。


「いや、すまん。凄く嫌な夢見てさ」


「夢じゃ……ないかもよ?」


そう呟いて美々はいやらしく笑った。藤谷は平衡感覚を失ったらしくグラリと世界が傾く。


「なんてね、アイならあそこにいるじゃない」


パッと表情を変えた美々は舌を出して笑う。藤谷は素直に凄く可愛いと感じた、惚れた弱みというやつだろう。


気を取り直して美々の視線を追って視線の先を見る。真っ白い少女が膝を抱いて小さくなって座っている。しかも隅で、隅の隅、端の端、お化けにしか見えん。


「とうや? とうやなの? 大丈夫? ぐちゃってなってどろってなってぐにむぺってなったけど大丈夫?」


アイは泣きそうに、つか既に泣きながら聞いてくる。少しずつこちらに近寄り、俺の体を上から下まで目で確認している。


なんか生きた人体では有り得なさそうな擬音が聞こえまくったんだが、本当に俺生きてるのか。


「いや、大丈夫だと………おもうよ。執行! の後から記憶ないけど、そういやパジャマも着せてくれたんだな」


「ええ、それは私がね。ここまで運ぶのは二人で、やっぱり男なのね、結構重かったわ」


「それはお手数かけました」


そろそろ平常に動き始めた頭で考える。どうやら美々の機嫌はそこまで悪いわけではないらしい。


あれ?なんか忘れてる気がする。風呂場で何かを思い出したよな。


「あぁぁぁっ! み、美々さん」

「なによ?」


あれ?さっきまで怒ってなかったよね、なんで怒ってんの、雰囲気変わったよ。


「あの、その………」


「宿題を手伝うなら条件があるわ」


何も言ってないのに通じたよ。流石は恋人、まぁ、その前から何か心の中ってなかったんだけどね。


「可能な範囲ならなんでも」


「泊まりを週五回に増やして」


「うっ…………」


ほぼ毎日家にいる美々だが、泊まりは現在週四日、いくら双方の父親にオッケーを貰ったからと言っても俺達は未成年、その辺の分別はつけなくては、そう考えている藤谷だが、今回はどうも形成が悪すぎる。


「いいじゃない、いずれは夫婦になるんだし、アイだって一緒に住んでるんだから」


「アイは家族だよ~、むぅ~」


悩みに悩む藤谷だが、今回は白旗を上げるしかなさそうだ。来年美々を先輩とは呼びたくない。



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