十話3
何故だ………どうしたらこんな状況になる。
「にゃーん」
「いや、キャラ壊れてるよ香里」
ガブッ!擬音でも分かってくれるだろう美々の行動、まぁ詳しくは後で説明する。
「痛い、痛い痛い痛い!!」
…………とりあえず状況を順を追って説明しよう。
あの後の透の発言、
「出ていくのは僕だろう。その……恋人とゆっくり話がしたくてね、僕も。ついでに父達に話もしたいしね」
照れくさそうに笑う透、その笑顔はやっぱり爽やかさばかりが目立つが、一番自然で一番カッコいい笑顔だった。
そう言ってさっさと出て行ってしまった透、それの入れ違いになるように俺の携帯が鳴る。
「親父だ………」
嫌な汗が止まらない。まさか、と悪い考えが……………大群で頭を通っていく。今これを出たら有力なのは警察だろう、なんたってきっと犯罪者になってしまったろうからな。
「も、もしもし……」
無視するわけにもいかず、観念して電話に出る。
『おう! 藤谷か? 首尾はどうだガハハハ』
電話の向こうはとてもうるさい。親父も元からテンション高い男だが妙におかしい、酒でも入ってるような………向こうの騒ぎも酔っ払い達が騒いでるみたいな………ってあれ?透の声が後ろから聞こえてくる。
『つまりなぁ、お嬢ちゃんの親父とその結婚相手の親父は俺の昔からのダチでな。お前生んだ父親の方とも親友だ、だから今回は全部オッケーだ、オッケーオッケー!』
うるせぇ、非常にうるさい、煩い、五月のなんとやらだ。
『あっ、そうだ、初夜にはアイはじゃまだろう? 3405の部屋に寄越せ、こっちで美味いもの食わしてやる』
「しょ、初夜だにぉ!? いや、噛んだ。初夜とはなんだコノヤロウ……」
自分でもなんか意味分からなくなりながら必死に会話を続けようとするが、黒い俊敏な動きをする影に携帯をかすめ取られた。
「はい、お義父様。はい、アイを………はい、連れていきます。今日だけはよろしくお願いします」
頭の方になんか不穏な読み方があった気がするが、申し込んだのは藤谷だ。そんな事を言える立場ではない。
「とうや? アイ、今日は頑張ったよ。褒めて」
大分良くなったのだろう、いつの間にかぴょこんぴょこん跳び跳ねてるうさぎさんがいる。言葉に従って頭を撫でてやる。
「にゅふぅ………」
さっきと同じ様に目を細めて、鳴き出している。うん、なんか小動物で例え安いなこの少女は、そんな事を藤谷が思っているとまたもや殺気を感じる。
「藤谷! 何をやってるのかしら?」
「えっ? いや、アイには随分世話になったからな。言うことは聞いてやらないと」
「うん、アイいっぱい頑張ったよ」
「う~、アイ、今日だけは私に藤谷独り占めさせて、明日からもと言いたいけど」
「ダメ、とうやと私は家族なの。だから、いっぱい甘えていいの!」
たしかに今日は随分俺が甘えたしな。アイがいなかったら100%ここには、今の状況には辿り着かなかったろうしな。
「私も家族になるの! 一番男女として近い家族に!」
「む~! みみずるい、アイもなる。近い家族とうやと」
なんか睨みあっていがみあってるし…………
「藤谷もいつまでアイの事撫でてるの!」
「あっ、はいすみません!」
怒鳴られて反射的に手を引っ込める。そのまま手を後ろに休めの姿勢、既に教育は始まってんだな。
「あぁ、とうや、なでなで!」
目をウルウルさせて懇願してくるアイ、藤谷の身体力ならぬ心耐力では耐えきれるわけもなく。
「えへへ~」
「笑っていられるのも今の内よアイ、今日ばっかりは本気で行かせてもらうわ」
すると、ドタドタと大きな足音がやってくる。ズンズン、ガンガン、ゴンゴン、足音としてどうかという音を響かせながら現れた大きな影、
「親父………だ」
「わりぃいごはいねがー!」
「きゃあ! とうや! とうやー……………」
扉が閉まる音ともに静寂、ああ、なんか昔のゲームの様にアイが拐われたんだ、と理解するまでしっかり一分掛った。
「あはは! 勝った! 私の勝ちぃぇぇっ?」
「どうした香里?」
ガブ!
「すみません美々」
「にゃーん」
なんというか、やっと二人きりになれたわけで、美々が二人に積極的になりたがってたのは分かるが、もちろん二人になって嬉しいのは藤谷だって同じだ。
まぁ、擬音の部分の説明をすると、抱き締める、名前を呼ぶ、胸辺りに歯を立てられる以上、ワカリヤスイネ。
「その、なんだ、愛してる………美々」
「まさか、藤谷からそんなに気の利いた言葉が聞けるなんて。生きててよかったかも………ううん、よかったな」
二人で笑いあって、そっと唇を重ねた。