十話
「………死ぬ、いやマジで死ぬ。本気と書いてマジで死ぬ」
「とうや、急いで! 速さが足りないよ!」
現在非常階段の………………何階か分からないし、知ったら後悔しそうだから知らない事にする。
一緒に走ってきた筈のアイは平気な顔で前を行ってる。アイの微妙な発言に突っ込む気にもなれない。
「こんなゲームあったよな。正面から入るか、延々と階段を昇るかっていう…………」
「そんなことどうでもいいから急いで、みみが待ってるんだよ」
どうでもいいだと?俺の少年時代の宝を………マズイふざける余裕もない。
前のアイは以前ペースを変えずに走っているが、藤谷は肺や足と相談しながら手摺に頼るしかなかった。
やべ、本当に今は何階だ。でも知りたくない。
「後十階だよ!」
「やめてぇぇぇ、俺の心をへし折らないでぇぇぇぇ!」
「ほらとうや、こっからが頑張り時だよ。へとへとしてる場合じゃない」
「…………いや、辿り着いた喜びにもう少し浸りたい」
「だめ」
その33階の非常階段の扉の前に立っている。ここからはキャラが完璧に男前になったアイ先生曰く、人が監視カメラで見てるそうだからパパッとやらなきゃいけないらしい。
藤谷は深呼吸した。落ち着いて自分の目的を確認して、目を閉じる。
「よし! 行くぞ!」
「ばくはーつ」
よし、キャラが少し戻った。
扉を開けて小走りで駆けていく。
廊下は赤い絨毯が敷かれていて、ライト一つに至るまで凄く凝っている。自分の存在がやっぱり場違いなのを認識し、それでも、と藤谷は足を動かした。
「部屋はどれだ?」
「そっち、3312だよ」
33階の12個めの部屋か今隣にある扉には『3305』とある。その先のは『3306』よし、香里は近いぞ。
「とうや急いで、来たよ」
この場合何が来たって聞くまでもないだろう。非常階段の扉から人が出てきて小走りで駆けてるんだ。客には絶対に見えまい。
1ずつ数字が増えていく。次、次が目的の部屋だ。
「ここだよ。ああ、急いで開けて、急いで急いで」
アイがバタバタと暴れている。一体中で何が起きてんだ、なんか嫌な予感に刈られながら…………鍵閉まってるし開くわけないよな。
どうしようか考えているとアイがドンドンと扉を叩き出した。しっかも結構乱暴に。
中で人の動く気配がする。こっちに向かってるようだ。