九話4
そこからは急展開、
「うっしゃあ! 嫁さん取り返しに行くか!」
その一言、むしろ掛け声のような威勢のよさで雄叫びを上げると、親父は俺とアイを小脇に持って外へ出る。
いつも親父が使っててほとんど家にはいない軽自動車に俺達を放り込むと、アクセル全開、とか危険な事を叫びながら車を急発進させた。
「いや待て! 別に今から行かんでもいいし、どこに行くんだよ!? それと、なんでアイまでーーっ! 話を聞け!」
「お嬢ちゃんから聞いた話だと今日を過ぎるとなんか色々とどうしようないそうだ。だから今日が最後なんだとよ。後、アイ連れてかなきゃお嬢ちゃんがどこにいるかわからんだろ」
いや、前半は理解したが後半は理解しがたい、なんでアイを連れてく必要がある。
「アイ! お嬢ちゃんは今なにやってる?」
「うーん、綺麗なおようふく着て、ごはん食べてるよ」
ぼやく藤谷を無視して二人は会話を続ける。藤谷はアイの発言が今日起きた何よりも理解できないかもしれなかった。
「言い忘れてたな。アイは超能力使えんだぞ! どうだ凄いだろ」
最後に高笑いを混ぜて、車は更に速度を上げた。
「はい!? 意味分かんねぇーーー!!」
洗濯機の中のようにアイと二人で車の後部座席を転がり回った。
さっき、血とか関係なく自分と宗二が似てる、なんて思った事を三百回くらい反省した藤谷だった。
「あっはっは! 藤宮一家ばくはぁーつ!」
「ばくはーつ!」
謎のテンションになってる藤宮一家(一名除く)、除かれた一名事、藤宮藤谷は二度と香里には会えないんじゃないかと悟りを拓いたのだった。
「おら行くぞ! 突撃だ!」
「離せ! 離れろ、止まれ!」
宗二はまた脇に二人を抱え、今日藤谷が来ていたホテル入口へと宣言通り突撃するのだった。
ちなみに車はちゃんと駐車場に停めてきている。
「とうや急いで! みみと誰かがお部屋に入ってった!」
「なんだと!? こうしちゃいらんないぜ!」
せめてそういうセリフくらいとっておいてくれ………………
やる気満々の親父が入口で止められたのは言うまでもない。