冒頭6
藤宮宗二について少し説明する。
俺の父親であり、保護者、そしてこれはとても言いたくないのだが、職業は冒険家…………冗談じゃなく冒険家だ。
詳細は知った事ではないが、家にはほとんど居らず、世界中を飛び回っている。でも、金は毎月振り込まれるし、俺の事は考えてくれている。両親の命日はどんな状況でも必ず帰ってきて、一緒に食事を取る。
両親は俺の子供の頃に交通事故で二人とも亡くなったらしい、あまりその辺は覚えてないのだが、二人の親友だった今の父親は施設に預けられる筈だった俺を引き取ってくれた。
世界中を飛び回って家にいないと言っても、それは最近の事で、中学卒業まで夜には帰ってくる仕事をして俺を育ててくれた。感謝している分、今は自分の好きな事をたくさんやってほしいと俺は思っていたりする。恥ずかしいから面と向かっては絶対に言えないが。
「そうかそうか、藤谷に彼女が出来たか、それにこんな可愛い子とは、流石は俺の息子じゃないか」
そう言って高笑いする父親、
「あら、嬉しいです、可愛いだなんて」
そう言って態とらしく上品に笑うこんちくしょう。
「……………」
一人鍋をつつく俺。
こんな構図が藤宮家の居間では展開されていた。
うん、わかってた。父親が取り込まれるのはわかっていたことさ。
「藤谷さん」
「なんですかこんちくしょう」
「はい、あーん」
まぁ、この台詞を見て貰えば今がどんな状況か言わずもがなだろう。
「……………」
無論俺はそれを無視して食事を続ける訳だが。
「藤谷、折角彼女がそんな嬉しいシチュエーションを作ってくれてる無視とは………父さん悲しいぞ」
「えぇい、泣き真似をするな、いい年こいたおっさんが」
「いや、いいんですお父様、これは藤谷さんのプレイですから無問題です」
そう言って箸に肉を挟んだまま微笑む変態さん。
「マジで疲れた。俺もう寝るよ」
そう言って二階にある自分の部屋に向かうことにする。そして背中に声をかけられた。
「藤谷、もうあまり気にする事じゃないぞ。自分達のせいで息子が沈んでたら浮かばれない。お前は優しい、それは俺もお前の両親もわかってる。それだけはお前もわかっておけ」
「ああ」
振り返る事なく部屋に向かった。
本当に口下手だな、父さんは。