七話8
「あー疲れた。あら、誰かと思えば迷子の藤谷ちゃんじゃない、寂しくなかった?」
ちなみに香里のこの嫌味、合流してから三度目である。全く同じ発音と声色とテンションで発してる。リピート攻撃、むしろ口撃、痛くて仕方ない。
「とうやー、服一杯だよ。帰ったら着て見せるね」
そして香里とは反対の隣を歩く白い女の子に密かに安らぎを感じている。もちろん買った荷物は藤谷が全て持っている。多量にあるが、一体父親は香里に幾等渡したのだろう。
アイの服やら何やらの日用品を集めるための費用は、もちろん父親から出ている。それを受け取ったのは何故か香里だ。たしかに服なんかの計算は俺には出来ないから、適所ではあるが。
「お昼は何がいいかなー。折角だから豪勢に行きたいかなぁ」
こちらは先輩、パンフを片手に辺りを見回しながら先頭を歩いていた。
凸みたいな形の陣形を取りながら移動していると、先輩の携帯に電話が入ったようで、誰かと話を始めた。
「ねぇ藤谷、私もお昼は豪勢に行きたいかな。そうよね、アイ」
「うん、いきたい」
つまり、つまりだ。察したくはないが察するしかない。
「そ、そうだな。お手柔らかに豪勢に行きたいな」
声が震え、裏返り、情けないまで汗が吹き出る。このショッピングモールは基本的に高級思想だ。豪勢の中の豪勢に行かれたら一人分さえ払えるかどうか。
「大丈夫よ。藤谷の財布の中くらい予想はつくわ」
そっか、そろそろ慣れてきた声のない一方通行会話、不公平読心会話でもいいが、つまりはギリギリまで財布の中身は殺されるのだろう。グッバイ、俺の柔らかな女の子達。
「そういう本やDVDが欲しいなら実物を楽しめばいいじゃない。これはパンがなければ、のやつより現実的よ私がいるわけだし」
悔しい、悔しいが香里の体、身体、ボディは………………やめよう。これ以上語ると俺の評価が著しく下がる。
「アイ、日本の美味しい物が食べれるわ。柔らかな女神達の代わりにね」
「ん? でも、おいしいもの嬉しい」
「ちょっとストップ」
いつの間にか電話を終えたらしい先輩が反転して、俺達を制した。
藤谷は涙目で、札の偉大なる人々に別れを告げていたので、滲んでよく先輩が見えなかったりした。
「妹が来てるらしいんだけど、何だか藤谷に君に用事があるみたい」
なんでだろ、と先輩は頭に疑問府を浮かべ、人指し指を頬に当てるレアな仕草をしていた。
藤谷はその時、ガシッと、肩を掴まれた。振り返ると二本の尻尾を揺らしながら肩で息をする椎子がいた。椎子がいた、と言っても揺れる尻尾を付けた頭しか見えないが。
「ちょっと………はぁ………ふぅ、ストラップ、その十字架のやつなんだけどストラップ知らない!?」
至近距離で必死で、切実な表情をされて、その勢いで一歩引いてしまう。
「あ、ああ、これだよな。君が走って行った時に落ちてたよ」
ポケットから銀のストラップ取り出す。言った通り、さっき拾ってた物だ。よく手入れがされていて大事な物だと思って拾っていた、姉である先輩に話を聞いて、椎子の物でなければショッピングモール内の落し物センターに届ける気でいた。
椎子はそれを引ったくるように藤谷の手から奪い取り、抱き締めた。張り詰めていた力が抜けたらしく、膝を折ってしゃがみこんでしまった。
「ちょっとしぃ、折角拾ってくれてたんだからお礼くらいは言うべきじゃないかな」
珍しく責める口調でしゃがみこむ椎子に対して先輩は言った。
「…………その、えと………ありがと藤谷君」
「どういたしまして、俺の無駄な視野も役に立っただろ?」
少し晴れやかな気分になり、藤谷は椎子に笑いかけてみる。
立ち上がった椎子は笑い返した。
「まだ終わらないわ。ご飯がまだだもの」
このままフェードアウトして逃げ出す予定だったが、肩をしっかりと捕縛され、身動きが取れない。
「何でもこい、どうせ使いきるなら何でもこい、うぉーん」
「さぁ行きましょう」
「ほら、君も来いよ。可哀想な俺の奢りだから」
「えっ?」
そう言い残し、藤谷は断頭台へと連れていかれた。
「しぃ、優しい人でしょ?」
「ま、まぁまぁね」
姉妹仲良く並んで、断頭台へとついて行った。