七話5
「あのね、知らない人に声をかけちゃ駄目だろ。君はまだ子供なんだから、それに………」
「ああもう! うっさいうっさい、あたしは子供じゃないっつーの! 君の二つ下なんだよ」
「二つしただからって…………え? 俺の事知ってるの?」
俺の年齢が分かるって事は知り合いだよな。
だが、生憎藤谷のデータバンクにはこの少女のデータは無かった。この少女に対していくつかの仮説が浮かんでは消えていく。
「黒崎椎子、君が今日一緒にここに来た失恋女の妹よ」
「黒崎って事は、会長の妹か………失恋?」
「だからそう言ってんでしょ。オウム返しすんな。失恋したって言っても未練たらたらよ。直ぐに会いに行くんだもん」
へ~、と相槌を打ち、先輩を振る奴ってどんな奴なんだろうと考えていた。
先輩と言えば、人望はあるし、世話焼きでよく気が付く人だ。外見だって今は変わったが、可愛い人の部類に入る。既に付き合ってる人でもいたんだろうか、奴とやらは。
見たことない謎の奴に思い馳ている所にとげとげした声が聞こえてくる。
「ボーッとしないでよ。君、迷子で暇でしょ? 少しあたしに付き合いなよ」
そう言って椎子は踵を返し、スタスタと人の流れに乗っかって歩いて行ってしまう。ついて行こうにも、この人の流れに乗るのが難しくて、ハンジージャンプを降りるに降りれず、タイミングを計ってる人みたいになる。
「早くおいでよ」
催促の声と同時に上手く乗れて、椎子の後を追走する。
「それでさ、お兄さん名前なんていうの?」
「藤宮藤谷、聞いてたんじゃないのか?」
「聞いてたよ。でもさ、名乗ってもない人間に急に名前呼ばれたら嫌じゃん? そっから良好な人間関係築くの難しいし。名前聞いたのは君を呼ぶ権利を手に入れたかったみたいな」
言葉使いは良くないし、年上を君呼ばわりするやつだから、悪い評価をしていたが、少し見直す必要があるかもしれない。流石に先輩の血筋ということか、人の話をあまり聞かないで自分のやりたいことを通そうとする所とか。
「一応年上だし藤谷さんとか呼んだ方がいい?」
「好きに呼びなよ。別に年上年下あまり気にしないし」
「んじゃ藤谷君、あたしの事はしぃって呼んでいいよ」
「なんか嫌だから椎子と呼ぶ」
「まぁ良いけど」
「それで何か椎子は見たいものあるのか?」
「まぁ色々と。藤谷君とかね」