七話3
「ぐ……無茶苦茶しやがって」
頭を押さえながら机の前に腰を下ろす。
四角い形の机に朝食を並べ、四角の全ての辺に皆座って頂きま…………?
なぜ三人しかいないはずなのに、全て埋まる?
「やぁやぁ、おはよう藤谷君。久々でボクの事忘れてないよね」
「先輩いつの間に……………」
黒崎舞、いつものように人指し指を立てて朗らかに微笑むその人は、ちゃっかり茶碗にご飯をよそって、鯵のひらきまでおかずにキープしている。
「それでそれでこの子は誰かな?」
誰、と言われるとどう説明すりゃいいんだ。考えてる間に香里が代わりに返答した。
「私と藤谷の娘よ。ちょっとした事情でこんな大きくなったの」
「あらまぁ、凄いねぇ。やるね藤谷君」
アイはアイで空気を読んでか読まずか、パパー、とか言ってるし、先輩は珍しく親指立てて笑ってるし、スーパーレア位だぞカードゲームの。
「スーパーレアがレアリティ最高位のカードゲームもあるから気を付けて」
「俺の心ってそんなに分かりやすい? つか、実は俺喋ってる? 言葉にしてる?」
「理由は簡単、あ・な・たとわ・た・しが心で通じあってるから」
一々間を空けて強調すんな、そういう返答を期待してるんじゃない。
「さてさて、話は逸れてしまいましたが、改めて、頂きます」
先輩の音頭で皆声を揃えてから、朝食に箸をつける。先輩は態と聞いたようで、アイの事は事前に香里に聞いていたらしい。
「そういえばさ藤谷君は、アイちゃんはアイなのに、美々は香里って呼ぶのかな?」
「はい舞、座布団だよ。本当に良いところに突っ込みを入れてくれた」
「アイは同じ姓なんだから、アイと呼ぶしかないじゃないですか。香里の方はちゃんと最近はこおりんって可愛く呼んでますし」
後者は遊び心で冗談を言ってみたが、香里の反応はというと、箸を握りしめてワナワナと震え、余波で机も震えている。
「…………藤谷! ギリギリアウト! 名前関連だったら藤谷の宿題はもう終わってる」
アウトか、別に残念でもな…………くないな。宿題が終わるのか、いくつか真面目に解けない問題もあるしな。
「藤谷君、仮にも生徒の中でも無駄に一番責任が重い役職の人がいるんだからズルを考えちゃあいけないよ」
お決まりのポーズを取って、目に鋭い光をともしながら偉い人は笑った。
先程から静かなアイは、箸で器用に鯵の小骨を取り除いていた。