表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/88

七話2

「藤宮藤谷」


フルネームで呼ばれた直後に頬を引っ張り上げられた。人間の体を頬だけで引っ張り上げるのは大変よくない。


上がったのは上半身と言っても、頬にかかる負荷は半端じゃない、伊達じゃない、冗談じゃない。


「痛い! 凄く痛い!」


引っ張り上げられている時は、奇声に近い叫び声をあげて、解放された今はその相手を睨みつけた。


「ぐっもーにん藤谷」


そこには冷たい殺気を放ちながら、笑顔を張り付けた香里さんがいらっしゃった。


「その横で藤谷の奇声にも動じずに寝てる子はどちら様?」


笑顔は張り付いたまま、しかし、声からも放たれる殺気からも怒ってるのは明白な事実、下手な事を言えば何されるか。


「いや、その、アイがね、その、ね、ね」


「うん、それで?」


「一緒にお風呂入るって聞かなくてしょうがなかったんだ」


「………今日、泊まるから、添い寝は断らせない」


「いや、俺が緊張して寝れなく………」


「答えは聞いてない」


「………はい」


もそもそと背後で布団が動く。


「おはよ、みみもおはよう」


朝から上機嫌な藤宮アイさんである。寝起きというものは基本この少女には存在せず、常にトップギア、ハイテンションだ。


「おはよう、今日はアイの服を買いに行くわよ。いつまでも私の服と自前の一着じゃ持たないわ」


「ああ、それに関しては俺も考えてた。香里に付き合って欲しいと頼もうとしてたんだよ俺も」


「あら………」


何を考えたか香里は口に手を当て、なぜだか頬を赤くしている。


「ついに私の苦労も報われたのね」


「えぇい、下手な泣き真似すんな。買い物に付き合ってくれと言ったんだ」


「知ってるわよ、それくらい」


………こいつめ!


ギリギリと奥歯を噛んでどうにか怒りを抑える。


「でも、その気になったら直ぐに言ってね」


そう言って柔らかな笑顔を浮かべた香里は、久々に態とらしくはなく自然に見えた。


「ねぇねぇとうや、昨日は暖かったね。とうや寝惚けてギュってしてきたし」


「藤宮藤谷君、言い残す事は? 後三秒お祈りの時間をあげるわ」


「えっ!? それってなにもできな………」


「執行」


まさか完全に覚醒していたのに、そのまま悪い意味の睡眠へと逆戻するとは全く思わなかった。そう思いながら闇の中へと落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ