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冒頭5

「………はぁ」


溜め息。


何度目になるかな。溜め息しか出ない。


あの後、スーパーに寄って夕飯の材料を購入し、夕方を通り過ぎて藍色になった空を眺めながら歩いていた。


「溜め息、何回つくの? せっかく恋人が出来たと言うのに」


「誰が恋人だ?……………そして誰のせいだ、誰の………てか、なんでついてくるんだ!?」


買い物袋を男である俺が持って、それを女性が連れ添って歩く姿は、学生服でなければ………嫌だ、冗談でもこんなこと思いたくない。


「まるで夫婦のようね、私達」


「言うんじゃねぇよ! 俺の心読めんのか!?」


「あら、流石に心は読めないわ。ただ思った事を口にしただけよ」

不味い、さっきからこんな調子でこいつのペースだ。主導権を取りたいわけじゃないが、良いようにされるのは嫌だ。


「本当にどこまでついてくるつもりだ?」


再度尋ねてみる。


香里は口を開いて、『なんてこと言ってるの?』と言いたげな態とらしく驚愕の表情をしている。


「家まではついて来るなよ。今日は………都合が悪い、なんだったら送るから、もう暗いし」


「嬉しい発言ではあるけれど、それは却下ね。貴方のお父さんにも会いたいし、今日は御両親の命日なんでしょ?」


「なぜ知ってる………と言うのは聞かない方が良さそうだな」


「ええ、貴方の事は大体調べがついてるわ」

平然と返答しやがった。





今更ながら思い出した事がある。言い訳をさせてほしい、本当に頭がパンクするほどだったんだ。この香里美々の告白は、だから、だから………チャリを学校に忘れてきたなんて間抜けをしでかすんだ。


家の前で気付くのもまた間抜けな話だ。


「………ドジね」


やれやれといった感じで、両手の掌を上に向け態とらしく首を振る香里美々。


「一々動作がムカつく。てか、本当に家までついて来やがったな」


「それは、貴方の反応が可愛いからつい、ね」


頬を赤らめて、嬉しそうにそんな事を言う姿はシチュエーションが違えばもっと喜ばしい筈なのだが、こいつの意図を知ってるとそんな風には思えるわけもなかった。


「藤谷! 帰ったか! 今日は鍋だぞーーっ!」


ドアを開ける前に勢いよくドアが開け放たれ、髪の毛ボサボサで髭もフサフサの山から帰ってきたような野人が現れた。


「今日はボタン鍋だ! さっさと食うぞ、もう出来上がる」


うん断言する、この男、藤宮宗二(父親)は山から帰ってきた。

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