六話4
「とうや!」
「うわっ!」
白の少女は駆け出して、加減のない勢いで藤谷の胸に飛込んできた。
雨にずいぶん打たれたのだろう、夏なのに体は冷えていて…………柔らかい。
「藤谷」
背筋に液体窒素を流し込まれたような錯覚に陥る声が聞こえてきた。油の切れた機械のように首を向けると眉間に皺が出来た香里さんがいた。
「いや、これは………君だよね? 父さんが言ってたのは」
必死に話を変えようと奮起する藤宮藤谷。
「とうさん?」
人指し指を頬に当て、可愛く首を傾げた。
「そうじが、ここに来たら、とうやがいて、甘えて良いって、この、写真」
日本語も少し違和感がある程度でとても上手い。その違和感は外見のせいな気もするくらい。
その子がポケットから取り出した写真を受取る。
「俺と父さんだな、裏には住所か……」
それは藤谷が高校入学の時に撮った写真で、裏には英語と思われる字で住所が書いてある。数字から察するに藤谷の家で間違いないだろう。
「それで、藤宮藤谷さんはいつまでその女の子と引っ付いてるおつもりですか?」
「…………とうやぁ」
猫のように胸に頭を擦りつけてくる拾われた白い少女、凍ってしまいそうなくらい冷たい視線を放つ黒い少女、交錯に位置する辛い少年。謎の三角成立である。
雨の中立ち話も生産的じゃないので、家に移動した。道中白い子は傘を差さず、藤谷の腕に捕まったまま家まで移動した。
香里さんの視線が痛かったのは言うまでもない。
「………?」
二人の視線を集めている少女は首を傾げた。
雨に酷く濡れていたので、香里に頼んで風呂にいれてもらい、服も香里のを借りて今は行儀よく座っている。
「まず………君の名前は?」
「アイ、藤宮アイだよ」
藤宮の姓は大方父さんが名乗れと言ったのだろう。
「次に、えぇとどこで父さん、宗二に会ったの?」
「お家が燃えてなくなっちゃって、泣いてたらそうじが来たの」
あの男は漫画のヒーローか!
「お父さんやお母さんは?」
「いない、アイは一人で暮らしてた。それでお家なくなった」
孤児、まぁ、間違いはないようだ。
流石に追い出すわけにもいかんし、住まわせるには…………
「部屋は私と一緒でいいんじゃない?」
口に出さなくても会話出来るのは楽だね。
「そうね」
泣きそうだよ。
「そういえば、なんであの公園にいたのかしら」
「あそこにいればとうやに会える気がしたの」
「気がした?」
と香里、
「うん、とうやが走ってきて、それで温かいお風呂に入れるのが見えたの」
俺と香里は顔を見合わせて首を傾げた。