五話5
一定のリズムで聞こえる機械音、一定のリズムの揺れ、日本人の移動手段の中核とも言える電車。
夕陽が差し込む車内は真っ赤に染まり、なんだか穏やかで、気持が安らかに…………ならん。
絶対態とだ、態とやってる。
先ほどから、藤谷は頭の中でそんな嫌味を吐き続けているが、隣に座る女性には届かないだろう。
今の状況を説明したい。
大きく三つに分けて今の状況が形成されている。
いきなりで申し訳ないが、只今香里美々と二人きりである。
他のメンバーは藤谷がシャワーを浴びている間に帰ったそうだ。(悪意しか感じられん)
その二、なぜかその香里さんは眠っている。疲れたらしい、家事も藤谷と分担とはいえ、そのほとんどをやっている。
誤解しないで頂きたいのは、俺もやってないわけではない、まるで言い訳のようなので、これ以上は黙ることにする。
話を戻すが、その睡眠の取り方が問題だ。
時間帯のせいか、客があまり少ない車内なので二人は座れているが、なんと、香里は態とらしく藤谷の肩に頭を乗せて寝ているのだ。漫画やゲームみたいな事しやがって、と、藤谷も思っているが、家事とか疲労の原因が自分のため何もできないでいる。
「香里、おい」
「………んにゅ」
他のお客さんやマナーを考慮して小声で尋ねるが、可愛い反応しか返ってこない。『んにゅ』がちょっと可愛いと思ってしまったのは誰にも秘密だ。
仕方ないから、そのまま電車に揺られていることにする。
忘れたくても忘れられない状況説明最後の一つ。
ロックバンドのドラムのように藤谷の心臓が高鳴っている事だ。
さっきから藤谷に触れている香里の肌の感触、髪の感触、匂いが、受け取れる全ての情報が藤谷の体を攻撃している。女性の感触に攻撃力の計算が適応されるのを藤谷は初めて知った。
「………み……み」
別にま行の二番目を二回言ったわけじゃない。人名だ、予てより考えていた事なのだが、いい加減名前で呼んでやってもいいかなと思っている。
やってもなんて偉そうな事を言ってるが、香里が名前で呼べと言ってるんだ、それを俺は恥ずかしいから拒否してる。
だが今はその本人も寝ている、これは練習だ、その内気が向いたら呼んでやろうと思うから。
誰かに言い訳しながら、もう止める事にする。相手が寝ていても恥ずかしい。
「………なぁに?」
やっぱり起きてやがった。凄い嫌な笑いかたをしてるに違いない。
「…………遠慮せずに一杯呼んでいいんだよ」
「うるさい、今は肩貸してやるから寝てろ」
「……はーい」
素直な返事と共に香里はまた規則正しい呼吸に戻った。