五話3
とある進学高校に通う黒崎さんからの提案『甘い台詞を囁いて、メロメロにしちゃえ』
某進学高校に通う篠山さんからの発案『あまあまであま~い事言って、とろとろに溶かしちゃえ』
普通の進学高校に通う倉科さんからのアドバイス『彼女はあなたに弱いんだし、優しいこと言えばきっと考えを改めてくれるよ』
以上、時間の無駄でした。
藤谷が聞くの一人でよかったじゃんと激しく後悔していると、黒崎さんが近付いてきて一枚の紙片を差し出してくる。
「カンペ」
カンニングペーパー?
ふと思う、カンペって実際なんの略なんだ、カンニングペーパーだと思ってるんだけど…………ってなんだこりゃ!?
変な方向に考えをシフトしながら、カンペとやらに目を通す、想像を絶した。
T『やぁ、ハニー』
M『なに?』
T『そんなしょげた顔をしないで、俺と夏をエンジョイしようぜ』ここでを歯を光らせる、ここポイント。
T『ダーリン………うん、私が間違ってた』
T&M『『あっはははは~』』海を楽しそうに走り回る二人。
……………なぜ態々頭文字で名前を隠し、おかしな呼称でよびあってるのか。とか、都合良すぎだよ、こんな人が生徒会長やってる学校に通うのやだよ。とか、言ってったらキリがないくらい突っ込みがある。
「先輩、俺の歯は都合よく光りません」
一番言いたい事を言ってやった。
「唇尖らせたって無理な物は無理です」
「フジちゃ~ん!」
この無駄にテンション高くて、すげー馬鹿っぽい事言うし、やってるけど、実はテストの点は香里の次っていう、人生が虚しくなる声の持ち主は。
「はい、カンペスリー」
「一の次は二だよ」
「一個飛ばすくらい凄いの!」
ちょっと危ない会話をしながら、差し出されたカンペを藤谷は、
「まとも?」
「ううん、全く!」
受け取らなかった。
自信満々に、意気揚々と、前歯を出されて笑われては無視するしかない。
「藤宮君」
更に違う方向から、唯一まともな思考と、思いやりを持っている倉科さんが、いや、倉科様がやってきた。
てか、さっきまで皆側にいたのに、なんでやって来るんだ?どこでこのカンペ書いてたんだ?
「海の家じゃない」
ビニールシートに体育座りしながら海を眺め、進学高校に通う香里さんからの呟き。
ちょっと離れてる筈で、こっちの声は聞こえないだろうと思ってたのに、向こうの呟きはばっちり聞こえた。
たしか、疑問はあるが進学高校に通う藤宮藤谷君の嘆き。
「俺、喋ってない」
名前に木ばっかりで、名前を忘れ去られた、たしか木だらけの発言。
「俺………ここにいるよ。そして俺の名前はか…………」
波の音にかき消えた。