五話
「うーみー! 海だぁー!!」
そうこんな無様で滑稽で、恥ずかしくって、愚かな叫びをあげている男、何を隠そうこの俺、藤宮太陽藤谷じゃなくて、藤宮藤谷である。
何が藤谷をそうさせるか、夏か?否、後ろの人の呟きが全て語ってくれるだろう。
「相当嬉しかったみたいね、赤い点を取らなかったの」
ははっ、何とでも言うがいい、もう藤宮藤谷を止めるものは何もない。
「でも………二人きりって約束………」
「ごめんね、みーみん、フジちゃんが誘うから、てっきりみーみんも皆で行きたいんだと思ってた」
と言いつつ、犬歯を見せながら笑っている篠山蓮はこれでも一応悪いと本当に思ってるらしい。
「まぁ、今日は我慢してよ、ね」
そう言って、香里の肩に手を乗せ、親指を立てているのは上林森次、俗称木だらけ。
「セクハラすんな」
その声と共に上林の腕を捻あげ、上林に情けない声をあげさせているのは倉科遥子、実は武道の方の人らしい。
「いやはや、ボクまで来てよかったのかな? 年上がいたら気を使ってしまうのではないか?」
特徴のある一人称の女の子、黒崎舞ちゃん、意外にちゃん付けで呼ぶと結構喜ぶらしい(香里談)
「いえ! 黒崎先輩が来てくれて僕嬉しいッス!」
「ん? 上林君、君はいい子だね~」
「えっ? 俺いい子? 俺素晴らしい? 俺エターナル? フジフジ~」
そんな検討違いで、犬のように喜ぶこの男はその勢いとノリで藤谷に跳びかかってくる。先輩に跳び付かなかったのは、常識的に犯罪者になりたくなかったからだろう。
だが、友情の為に加減などしてやらない、男として正しい道を歩ませるために加減などしてやるもんか。ここで藤谷自身自分のテンションがおかしいことに気付いていない。
左足を前に突きだし、砂浜を確りと捉える、腰を一本の棒にし、捻る。捻った腰を戻しながら、その運動から放たれる藤谷の右拳は一直線に上林、分類木だらけの頬を打ち抜く。種族木だらけは真逆へと打ち返えされるのだった。
「舞、今名前で呼ばれたから嬉しかっただけでしょ」
「うん、ボクあまり名前で呼ばれないからね。だから、今日は皆年上とか気にしないで、気軽に舞ちゃんって呼んでね」
何だかノリが教育番組のお姉さんのようだが、似合って仕方がない。
「藤宮君、磨けば光るかも」
倉科は藤谷の右腕をさすりながらそんなことを呟いていた。