四話7
香里は静かに寝息を立てていた。藤谷はそれを見つめながら壁に寄りかかって、物思いに耽っていた。
そして一番見なきゃいけない問題を直視する。
逃げていたのかもしれない、『あいつが勝手に押し掛けてきて迷惑だったんだ』なんて今の俺が言っても誰も信じはしない言い訳をしていた。自分に無理矢理信じさせて。
額に手を当て、頭を抱える。
いつも自分に自信がなかった。あれが出来ると思ったって口に出すことはなく指されるのを待つ、自分から進んで失敗する恥が怖いから…………
「………とうや?」
「どうした? 腹が減ったか?」
「ねぇ、藤谷はさ、私の事どう思ってる?」
暗いから見えないが、視線を感じる、きっと真剣な眼差しでこちらを見ているだろう。だから、はぐらかすことは出来そうもない、する気もない。
「………氷の女王なんて仰仰しい名前で呼ばれて、冷たい奴だと思ってたけど、少しずつ、打ち解けていくと普通の女の子だなって………ちょっと純情チックで驚いたけど、って最後の部分は舞先生が言えって」
「その氷を溶かしたのは貴方だよ」
「なんだか詩人みたいだな」
二人で小さく笑いあった。きっと俺の氷だって、無理矢理お前に溶かされた。恥ずかしいから言ってはやらないが。
「ずっと独りで良いって思ってた。ううん、独りじゃなきゃいけないって思ってたんだ。でも、あの日、貴方に出会ってから私は………暖かい場所に行きたくなっちゃったんだ」
「俺の側は暖かいのか?」
「ううん」
否定、そこは肯定じゃないんだ、と肩透かしを食らってしまった。
「貴方は………その……藤宮藤谷は……私の、太陽だから………」
藤宮・S・藤谷、ソーラーでもサンでもオーケー、恥ずかしいから冗談思い浮かべてみるが、全く面白くない。
「な、何か言って………結構恥ずかしいんだから」
尚も黙ってあげることにする。目を瞑って、明日の朝御飯と香里の朝御飯、ついでに舞先輩が来た時に何か食事を用意しようと考えていた。
「あら、やってくれるじゃない」
ちょっと懐かしく思う口調になった香里、こういう時は大体藤谷をからかうことを考えていたと記憶している。
布団が捲れる音と、何かがこちらへ這い擦ってくる音、最後に胸の辺りに重みがやってくる。
「あったかい………」
「暑くないか?」
流石に夏、片方は熱を出してる位だ、暑くて仕方ない。
「少し汗かいた方がいいかなって………でも、そしたらお風呂入りたいなぁ……」
その辺は女の子故だろう。香里はなんだかんだで風呂が好きだからな、家の風呂場もいくらか香里カスタムがされてたし。
「とりあえずゆっくり休め、テストが終ったら………その、日頃の感謝を込めてどこか連れてってやるから……」
なんだか手が空いたから、香里の頭を撫でていたが、予想を遥かに越えるくらいに髪がサラサラで、長いのに引っ掛からない!とか変な感動していた。
「うん、覚えたよ。二人きりだからね」