四話6
あれから香里に常備してあった風邪薬を飲ませ、氷枕を用意して、舞先輩にメールを飛ばした。
明日に来てくれるらしい。着替とかもあるし、女性の手が必要だったからそう判断した。テスト前だが快く返答してくれて、とても助かる。会ったら、もう一度お礼を言おう。
香里は食欲がないらしく、何も食べたくないと言って、薬を飲んだら寝てしまった。
「美味いじゃん………………」
藤谷も一段落して、ようやく夕食にありつく。もう用意は終わっていて、ご飯をよそうだけ。味だっていつも通り、無理して作った筈なのに…………
「俺本当になにやってんだ……………」
口に出してもちっとも胸は軽くならない。重くて重くて苦しい、やがて箸は止まって、そこで今日の食事は終わった。
食器を片付け、何も考えずに粥の用意を開始する。やっぱり何か食べなきゃよくないから、これくらいならきっと食べてくれるかな。
「とう……や? ご飯終ったんでしょ? お皿洗うよ?」
バッと後ろを振り返ると、香里が扉の縁に手をかけて、あきらかに無理して立っていた。
「なんでそこまで無理するんだ!?」
コンロの火を止めて、香里に歩み寄って行く。少し声を張り上げたからか、藤谷の表情が怒っているからだろうか、香里は寄れば寄るほど脅えていった。
「約束した………藤谷のお父さんとも、藤谷とも………ご飯作って……お世話して………」
絞り出すように香里は喋る。もう見ていられなかった。藤谷は香里を抱き寄せ、抱き締めた。
「えっ? えぇっ?」
香里が腕の中で小刻に暴れる。やがておとなしくなって、胸に頭を預けてきた。
「ごめん………本当にごめん………俺最低だ。これじゃただお前の気持ち利用して、楽してただけじゃん………」
香里は小さかった。さっきだって抱き上げて思ったが、香里は軽かった。こんな女の子に負担ばっかりかけて、一体俺は何をやっていたのか、頭がパンクしそうだった。
「…………いいんだよ……私が勝手に好きになって、勝手にやってるんだから…………」
「だから、俺もはっきりさせないとな」
「いや! 言わないで」
胸を思い切り押され、香里と離れた。香里は息を荒くして、泣きそうな顔をしている。
「言わないで、今は凄く幸せなの、藤谷とこうやって一緒に居れて、これがなくなったら私は………私は………」
そう言ってついに香里の涙は溢れた。同時に膝をついて、壁に寄りかかる。
どうやら、更に無理したから体が悲鳴をあげたらしい、すぐに抱き上げて、部屋に運ぶ事にする。
「悪いな………まだよく整理が出来ないんだ。だから、答え出すの……もうちょっと待ってくれ」
「うん、今はこのお姫様だっこが嬉しいからよしとする」
寂しげに笑った香里の顔を俺は当分忘れる事が出来ないだろう。同時にそんな顔も綺麗だと思った事も忘れられそうにない。