四話5
最近は少し暑くなってきたな、と思い快適な勉強空間を作るためクーラーをつけて、今夜もさぁ勉強開始だ。
今日は流石に会長も家で勉強するらしく来ていない。まぁ、あの天才少女大先生はいつもどーり家に来て、今はいつもどーり晩御飯の支度をしている。
今日はちょっと遅れてるようで中々呼びに来ない。それでも藤谷はペンを動かすのを止めない。
書いて、口に出すことが一番記憶が出来るらしい。それを繰り返し英語の単語を覚えていく。
更に三十分が経過した。流石に気になって、腹も減ったので階下に降りる事にする。階段の途中、電気をつけずに降りたら何か黒い物体が転がってる事に気付いた。
最初は何か香里が置いたのかと思ったが、一段、二段と近付いて行くにつれてそれが何なのか見えてくる。三段目には駆け降りて、踏み外しそうになりながらも側に寄った。
「お、おい! 香里どうした!?」
「あら、えへへ、ごめんごめん。少しご飯遅くなっちゃって………」
目の焦点が確りと定まってない。少し頭が揺れている、息も荒い。
直ぐに手を額に当てる。
「………嘘だろ、凄い熱じゃないか」
「大した事ないよ。ちゃんとご飯は出来たし………問題ない問題ない、ご飯終わったら勉強しよ?」
喋るのも辛いのか、なんだかゆっくりだし、変な発音になってる。
とりあえず藤谷は冷静に香里を抱き上げ、部屋に運ぶ事にする。
香里が使ってる部屋、端に布団と香里の鞄二つしか香里が使ってる物がない部屋、鞄には着替とかその他が入ってるらしいが、着替は後だ。
香里をその辺に寝かして、布団を敷いてそこに寝かせる。
「ちょっと待ってろ、薬とか持ってくるから」
「藤谷のだっこ、嬉しくて何も言えなかっただけだから………大丈夫だから、ご飯にしよ?」
立ち上がる前に腕を掴まれ、泣きそうな顔でそんな事を言われる。
「……………駄目だ。少し待ってろ」
尚も香里は手を離してはくれない。いやいやと首を振った。
「お願い………だから、大丈夫だから………」
「何が大丈夫だよっ!! …………悪い、怒鳴って………いいから休んでろ」
驚いた香里は手を離して、藤谷から目を反らした。
部屋を出て、藤谷は自責で一杯だった。グルグル回るのは最近香里のだ。どこかにこの症状を表に出してる事はあったろうか?多分最近は調子が悪かったんだ、無理してたんだ。それであんなに酷くなったんだ。
どれもこれも憶測でしかないが、今は自分が情けなくて仕方ない。腹が立つ、自分の事ばかり考えて、香里をなんだと思ってるんだ。家事をやってくれるからってだらけて………
握る拳が痛かった。こんな痛みで香里が治るならいくらでも耐えてやれる。だが、そんなことをしても変わらない、だから今は香里の事だけを考えよう。