四話3
「ね、ねぇ藤谷………なにもそこまでしなくてもいいんじゃないかしら…………」
香里が言い辛そうに困った声をあげる。藤谷は一睨みし、半目で教科書に目を戻す。
『藤谷の夏休みを救う会』と名前が決まってから三日経った。もうテストまで日がない。一刻の猶予もなかった。
そう、それはお昼を食べているときだって例外ではない。戦場では気を抜いたやつから死んでいく。
「……………ここは戦場じゃないよ?」
いつもより香里が優しく声をかけてくるが、それに惑わされ、油断すれば、協力してくれている二人に申し訳が立たん。
口に出してないのに返答されるのはきっと俺の知力が低いからだ、そうに違いない。もっと知識を深め知力を上げねば。
それから授業は人一倍取り組み、いや、一倍では足りんと判断して、さらに三倍頑張る。もちろん鉢巻きは赤だ、赤の鉢巻きだ。
藤谷が図書室で勉強を進めてる頃、生徒会室、またの名を『ラブラブ大作戦緊急会議室』では、
「藤谷が冷たくなっちゃった………」
香里美々はだれていた。大昔に流行った力の抜けたパンダくらいだれていた。
「藤谷君はたしかにのめり込むタイプだったけど、まさかあそこまでとは」
『うーん』とか言いながら、人指し指を立てて困った顔をする舞。
「側にいても全然こっち見てくれないし、多分横に水着で立ってたって気付かないよ。あれじゃ」
「まぁでも、きっと美々にのめり込んだら、あんな感じでラブラブだよ? 楽しそうじゃない?」
舞はそう言いながら、生徒会の仕事としてプリントに何か書き込んでいる。なんだか適当に流されてる気分だ。
「そうなったら嬉しいけどさぁ…………」
適当な誰かの机に顎を乗せ、目を瞑っていた。
「しょうがない、なら作戦プランAで行きましょうか」
「作戦? なに」
大した事はないだろうと思い、適当に返事をする。
「夜這いとか、お風呂に乱入するとか、後は……………」
「なっ!!」
驚いた拍子に思い切り顎を打った。涙目で爆弾発言を平然と言った人間を睨みつける。
「うふふ、美々って意外と純情だよね。洗濯の時藤谷君のシャツを抱き締めちゃう位だもんね」
「見てたの!?」
舞は驚いた表情で口に手を当てた。どうやら鎌をかけられたらしい。
洗濯もやろうとするのだが、大体藤谷止められるから、したことはないとほぼ同義なのだが、一度だけあったりする。