三話5
振り替え休日を終え、いつも通りの毎日が戻ってくる。
「おはよう、藤谷」
「…………ん……ああ」
なんだかいつもより頭が重い、意識もはっきりしない。時計に目をやる。
やっぱりだ、いつもより三十分も早い。
「やっぱりお泊まりするとドキドキして寝れないね。昨日一杯寝てなかったら寝坊してたよ」
全く持っていつも通りに笑うエプロン姿の寄生人、昨日帰ったら部屋の片付け完了してやがるし、父親は一体なにを考えているのか全くわからなかった。
「ああ、なら朝の用意はまだか? 手伝うぞ」
まだしっかり働かない頭を必死に動かし、体を起こして無理矢理立ち上がる。
「あら、もう終わってるわ。後は藤谷が着替えるだけ」
ならもう少し寝かせてくれてもいいじゃないか。
と、言いたくなったが、朝を用意してもらってるのにそこまで強くは言えない。
なんでこの朝が当たり前になってるんだろ。次に父親が帰ってきたら、文句言ってやる。
「それじゃ下に行ってるから」
「ああ、すぐに行く」
いつもより三十分早いと言うことは、出るのも三十分早くなるわけで、学校に着くのも当然三十分早い。
「おはよう香里さん、藤谷君」
「おはようございます会ちょ……………え?」
靴を履き替え、階段を上がっている途中声をかけられ、上を見上げるとそこには会長がいた。
正確には、髪がショートカットになっていて、眼鏡がなくなり、見た目が大きく変わった会長だったが。
「やぁ、似合ってるかな? 昨日あの後に切りに行って、コンタクトは前から用意してあったんだが」
いやに説明的だが、藤谷は驚いていてそれどころではない。
「藤谷、少しお手洗いに行ってくるわ。行きましょう会長」
驚いて固まっている藤谷を置いて二人は行ってしまった。
なんであんな大きく変わったのかな、夏が近いからか、受験が近いからか、全く藤谷にはわからなかった。
「いいんですか会長?」
「ん? うん、なんか今はスッキリしてるよ」
廊下、ちょっと早いため周りには人はいない。
「そうですか、私だって自信はありません。藤谷が受け入れてくれるかなんて…………」
「うん、でも人と人ってそういうものだよね。ボクはそれから逃げた臆病者、でも、藤谷君を幸せに出来ないならボクが取っちゃうから」
「はい、会長が悔しくて泣いちゃうくらい幸せになりますよ」
「うん、ボクと君は友達だよ。香里さん、いや、美々」
会長はそう言って人指し指を立てて眩しいくらいに笑った。
「はい………いや、うん、舞」
黒崎舞、香里美々にとって初めて心から友達と呼べる人である。
藤谷もちろん別、なんて誰にしてるかわからない言い訳を美々は心の中でしていた。