二話8
結局こうなる。
藤谷の前を行くのは買いたい物も買えて、満足そう歩いている香里、藤谷はと言えば荷物持ち、以上。
「茶碗と皿の代金後で言えよ払うから」
「良いわよ、お世話しながらお世話になってるんだからこれくらい」
そういや送る度に思っていたのだが、とても立派なマンションに住んでいるこの娘はもしかしなくてもお嬢様か?
まぁ、見た目だけ見れば小綺麗だしお嬢様には見える。
「そういうのはよくない。ちゃんと払うからな」
「あら、強情ね。でも私も譲らないわ、譲ってやらない」
香里はいつも通りの意地の悪い笑みを見せる。流石に藤谷も引き下がってはいられない。
「なら、茶碗だけでも、贈り物として」
「ひゃっ………うん」
少しからかったつもりだったが、相変わらずこう言った言葉には弱いらしい(人の事は言えないが)耳まで真っ赤にしている。
「んで、次はどこに行く?」
「特にない。だから、適当に見て回らない?」
「了解」
その後は茶碗の袋を持ちたいと言ってきた香里に茶碗の入った紙袋を渡し、百貨店をグルグルと回ってみた。
今更思った事だが、香里の趣味については何も知らないんだよな俺は。だから、音楽を聴いてみたり、アクセサリーショップを冷やかしたりで、香里美々に対する新発見は大分あった。
「さて、日も暮れたし、夕飯の材料買って帰りましょうか?」
「別に食事を取って帰ってもいいんだぞ?」
いつもの田舎町よりは少し都会に出てきたわけだ。食事処には困らない。
「貴方と外食も魅力的だけど、その、えと、お茶碗使いたいの」
愛しそうに茶碗の紙袋を抱き締める香里にこれ以上何も言えなかった藤谷だった。
それから来た道を逆戻して、途中のスーパーで買い物、あっという間に休日は終わろうとしていた。
鼻唄混じりで茶碗を開けて眺めている香里、この隙に藤谷は行動を起こす。
父親の部屋の押し入れの中、これまた紙袋を取り出した。態々父親の部屋に隠して良かった。俺のブツは簡単にバレてしまったしな。
台所に戻って、香里に向かって紙袋を差し出した。
「その、いつも世話んなってるから、贈り物だ」
キョトン、本当にそんな擬音が聞こえてくる表情をしている。静かに受け取って、その中身を取り出した。
綺麗に折り畳まれていた布が、展がっていき、姿を現す。香里は口を開いた。
「これって………」
そう、いつも香里が眺めていたエプロンだった。
「大した物じゃないが、良ければ使ってくれ」
「………ううん、ううん……」
香里は首を振った、長い黒髪が一緒になって揺れる。そこで藤谷は言葉を失った。
香里が泣いていた。
「な、なんで泣くんだよ!?」
いつもの香里なら………あれ?いつもの香里ってどんなんだっけ?
少しずつ香里は変わった。いや、多分仲良くなって素になってくれてるんだと思う。『いつもの』きっと俺の『いつもの』は香里の仮面、思ったより香里美々は女の子なんだなと俺も考えを改めるようになった。
「…………」
そっと、壊れ物を扱う様に香里の頭を撫でてやる。
「本当に、ツンデレなんだから」
そう言って涙を目尻に溜めたまま笑った香里は今日一番可愛かった。