二話6
電車に揺られている。休日でも比較的空いてる時間だ、二人ならんで座っても周りは空いてるぐらいだし。
そして、さっきから藤谷は愕然としていた。言うまでもなく、隣の少女の格好である。
これで、実は珍妙珍奇な格好をしていて、それで愕然としている。だったら笑えるのだが、そうではない、全くない。
服の事なんてこれっぽっちも知識がないので分からないのだが、香里の黒を基調とした服、語彙が乏しくて申し訳なくなるぐらいに似合っている。遠目でドレスに見えた位、ああ冗談で言えたら良かった位に綺麗で悔しい。
夏も近い事からか、胸元も結構出ていて少し目のやり場に困る。何時もより露出が多いせいか、寧ろ多い成果スタイルの良さが一層際立っている。
「…………ねぇ藤谷」
「なんだ?」
珍しく遠慮がちに聞いてくる香里、なんだかそれがしおらしく見えてしまって不覚にもちょっと心を揺さぶられた。
「…………その、格好なんだけど……どうかな?」
いつもだったら皮肉やら何やらで受け流せるんだが、藤谷も香里の変貌振りに少しやられていたようだ。
「その、似合っていると思うぞ。でも、その、えと、胸の所は……あんまり」
しどろもどろ。もうどろどろ。一ミリも上手く言葉が紡げない。
「に、似合ってるかな?」
なんで上目使いで不安気に聞いてくるんだ。
「似合ってるって、格好でここまで変わるなんてって驚いてんだよ」
勢いで言ったが言い終えて、耳の先まで熱くなった。絶対に顔も耳も真っ赤だ。
「……本当に?」
「しつこいぞ、お前の事を手放しで褒めるなんて早々ないんだから、素直に受け取れ」
「これ、ね。死んだお母さんのお気に入りなんだ。ちょっと胸がゆるいから少し出ちゃうんだけど、でも初めてのデートだから無理して着ちゃった」
右手で服をギュッと掴みながら、少し瞳に憂を乗せた香里の表情と仕草は本気で卑怯だと思った。
「ほれ、これ上から羽尾っておけよ。あんまし肌見せんな」
重ね着してたシャツを一枚渡す。大きなお世話だろうなぁと思いつつ、確信しつつ出した手は引っ込めなかった。
「うん、いつかもっと似合う女性になるね」
そう言って香里は藤谷のシャツを受け取り上に羽尾った。前のボタンを留めて、優しく笑った。
綺麗な奴は何を着ても、どんな着こなししても似合うから嫌だ。
「えへ、藤谷の匂いがする」
変態チックなセリフだが、可愛く見えてしまった。