二話5
「ね~、ね~ってばぁ~」
ゆさゆさと揺らされる。朝食後ベッドにリターンした藤谷は、ポニーテールの追撃を受けていた。
「疲れた眠い、休日くらい少し寝かせろ」
鉄の意思で寝ることにした藤谷は揺るがない。目を開かずともわかる、香里は態とらしく頬を膨らましてるだろう。
「そっちがその気なら」
その不機嫌そうな言葉を最後に香里が俺を起こそうとすることはなかった。
代わりに布団に潜り込んできた。いや、ここで慌てては思う壺だろう。だからここは冷静に、クールに無視だ。
「…………んふふ」
仰向けで寝ていた俺の肩を枕にして、覆い被さるように体重を預けてくる。思った三倍くらい軽い、女の子体重をこんな形で感じるなんて早々ないだろう。なんて余裕も束の間。
俺の上で香里が小さく、揺れるように動き出した。
「…………ふふ」
ちょうど藤谷の胸の上、柔らかくて、質量のある物体が香里の任意で形を変えている。
五秒後、
「…………ぐすん」
俺は部屋の片隅で泣いていた。体育座りをしながら自分の弱さにうちひしがれ泣いていた。
「やっぱり藤谷には有効ね」
「き、貴様……」
「本棚の本を全部取るとあら不思議、でっかい胸の女の子が出てきます」
瞬間、この部屋の空気が完璧に氷ついた。正確には部屋ではなく藤谷だが。香里美々の呟き、いや、藤谷に対する冷凍ビームのような言葉の力によって藤谷は動けなかった。
「再確認してみようかしら?」
口で半月を作る氷の女王様、冷や汗が止まらない藤宮藤谷、パワーバランスは決した。
「お出掛けですよね。どこへなりとも行きましょうとも!」
なかばヤケになりながらも、いくつかあるブツの引っ越しを心に決めた藤宮藤谷、高校二年の六月の出来事だった。
「いぇい」
対して勝利のブイサインがよく似合う香里さんであった。
「そして」
なぜ外で待ち合わせるんだ?一緒に出ればいいだろ、準備があると言って先に出ていきやが………って。
藤宮藤谷は止まった。
家から最寄りの駅前改札付近である一点を見つめ凍てついた。
「ごめんなさい、待たせてしまったわね」
そう言って柔らかく表情を崩す女性、藤谷は水飲み鳥の様に首を上下するしか出来なかった。
そこまで大袈裟に言うことでもないが香里美々は私服だった。準備と言うのも予測すれば簡単に分かることだったが、予想以上で言葉にならない。
「行きましょう」