冒頭2
その日の授業は何事もなく全部終了した。
運命が動き出すのはほんのちょっと偶然、ほんのちょっとの好奇心から、それが俺を大きく変えた。
きっかけは先生からの呼び出しなんてとても色気のない事だった。
「藤宮、お前最近成績が下がり気味だぞ。課題を出してやるからやっておけ、お前の為になる」
頭部の黒が後退し始め、肌を見せ出し、尚且腹も出ている中年現国教師の言うことを流しながら、夕飯をどうするか考えていた。
「はぁ、ありがとうございます」
「お、おぉ、丁度いい。解けない問題があれば香里に聞くといい。いいか香里?」
中年教師の視線が俺の後ろに移り、振り返ると香里美々、彼女がいた。
つまんなそうに、人を確りと見る事はなく、自分も含めて全てを客観視したような目、本当に冷たい。
「はい、藤宮君さえよければ」
香里の声を聞いたのはこれが初めてだったかもしれない。低かったし、小さかったが思った他綺麗な声を聞いた。
「藤宮、よかったな。これでお前も安泰だ」
そう言って高笑いをする中年教師、そう、成績が教師の評価の基本だよな。
成績のあまり良くない俺は、真面目に授業を受けてない劣等生、点数を取っている香里は真面目な優等生、こんな構図なんだろう。
俺だって授業はちゃんと受けている。なんて主張した所で皆そうだし、結果を出せてない俺の主張は通らないだろう。
幾等か教師と話した後に職員室を後にした。
後は夕飯の献立を考えながらスーパーに寄って帰宅するだけ、
「藤宮君」
と言った所で名前を呼ばれた。
階段の前、一階の職員室からそのまま昇降口へ向かう途中で通った階段の前、そこで香里美々に声を掛けられた。
後で思えば運命の最終分岐点はここだったろう。
「少し話したいことがあります。時間、頂けないかな?」
この後に待ち構える運命なんて、これっぽっちも知らない俺は呑気にスーパーのタイムサービスについて考えて、
「まぁ、少しくらいなら、大丈夫」
重大な選択肢を何も考えず返答していた。