二話1
濃密な時間を過ごしていたと自分でも思う。夏も着実に近付いているのだが、それでもまだ梅雨に入ったばかり。
「こら藤宮藤谷、ボーッとしてるのは感心しないな。ボクのお願い、聞いてくれたんじゃないのかな?」
「あっ、すいません。ちょっと耽っちゃって」
今日は生徒会長に頼まれて、週末にある体育祭の実行委員の手伝いをしている。
力作業位なら文字通り力になれると思って、生徒会長の頼みを聞く事にした。
「はぁ、人手が足りないから助かってるのに、やる気がないんなら止めてもらっちゃおうかなぁ」
「いや、すいません本当に。会長にはお礼をしようと思ってましたし、ちゃんとやりますよ」
何故二人きりで委員会を開いてるのかよく分からないのだが、『人手がないから』でさっき片づけられてしまったし。
なんか知らんが会長が頬を膨らましてるし、怒ってるんだよな?なんか可愛くてそういう仕草に見えてきた。
「お礼の為だって言うんならもういいよ。準備の時に少し人手が借りたいだけなんだし」
「…………じゃあ、なんで態々お昼休みに生徒会室に集まったんです?」
あっ、今度は仕草じゃなくて本当に怒ってる。ってそれはまずいな。
「もう出ていけ! 馬鹿!」
顔を真っ赤にした会長にそのまま押しきられて、生徒会室をつまみ出されてしまった。
振り返ると勢いよく扉が閉まる。本当に怒ってるし、なんかしたか俺?
「まぁ、昼食いに戻るか」
「馬鹿………馬鹿馬鹿、ボクの馬鹿」
ボクは自分でも気付かないうちに自分の鞄の端を握りしめていた。中には二つ、いつも使ってる弁当箱と少し大きめの弁当箱が入っていた。
「あら、会長の話はもういいの?」
教室に戻ると冷ややかなお言葉を頂いた。またなんでこいつも怒ってるのだろうか。厄日だよ、今日は。
香里の周りには女子が二人と、後ついでに上林が座っていた。席をくっつけて、皆でお弁当をひろげている。俺もそのくっつけられた席の一つに座り、香里からいつものように弁当を受け取る。
最近は香里に弁当を作って貰うのと、このメンバーで食事するのはいつもの事になっていた。
少しずつ香里も周りと馴染んでいってるようでとてもいい兆候だった。まさかこんな簡単に上手くいくとは、まぁ、香里の人間性も大きく影響してるのだが。