一話6
俺は生徒指導室に来ていた。
品行方正な人間ばかりが集う進学校だ。友達同士のじゃれあいとして片付けてくれればとも思ったが、上手くはいかないもんだ。
部屋の真ん中で正座させられて、例の地理教師の説教を受けている。
態々自習にしてまで説教とはご苦労なこった。
「藤宮! お前は分かっているのか? 暴力はな、下等な人間が取る行為だ。お前はそんな下等な人間だったのか?」
「いえ、感情的に成過ぎました。すみません」
「じゃあ、放課後までここにいて、これを仕上げろ。先生は後でまた来る」
そう言って地理教師は退室した。残されたのは、俺と反省文の用紙と鉛筆と消ゴム、それと虚しさだった。
間違った事をしたとは思わない。しかし、正解ではないだろう。でも、皆は香里を誤解している。
いや、俺の行為のせいで余計に皆との溝が深まったな。俺は香里も皆の輪に入ってほしいのか?うん、そうだな、あいつは悪い人間じゃない、皆もそれが分かればきっと、
「とりあえず反省文仕上げなきゃな」
ただでさえ成績よくなかったのに、更に悪くなりそうだな。
そんな時、一つしかない生徒指導室の扉が開いた。
「藤宮藤谷、やってるかな?」
凛とした空気、長くもなく短くもなく肩で整えられた髪の毛、背はあまり高くないが雰囲気と眼鏡が少し大人びて見せる女性が入ってくる。女性と言ってもこの学校の一生徒なのだが。
「生徒会長?」
そう、生徒会長である。三年生で、今は………授業中の筈だが。
「ううん、選択してなくてね。今日はもう帰りなんだよ」
「あの、俺は口に出してましたか?」
「表情見れば解ります。なんたって生徒会長ですからね」
特に隠す事もないのだが、木だらけ曰く『人助け癖』というやつで、よく生徒会の仕事を手伝っていたりする。頼まれると断れない性分のためよく良いように使われる。
「それで? 会長は何しに? 笑いにですか?」
「う~ん、褒めてやりにかな。女の子の為に悪名を被ったみたいだからね。でも、詰めが甘すぎる。ちゃんと作戦立てなきゃ」
会長はそう言ってピッと右手の人指し指を立てた。これは会長の癖だ。何かを教えたり、お願いしたり、本音で喋るときは必ずやる癖だ。
「ええ、失敗したと思います。無茶もしました。でも、あのままが良かったとは思えません」
「うん、ボクもそう思う。君は優しいからね」
会長は優しく笑った。