一話4
そんなこんなで昼休み。
俺と香里は学食に来ていた。教室じゃ香里が嫌だと言うので、弁当を食べるというに態々学食までやってきた。
いつも通りの香里ならそんな我儘聞いてやらないが、朝のあの一件の後からどうもしおらしいので調子が狂う。
「………ここで」
まだしおらしいのが継続してる香里さん、入口から入って右手の人があまり寄り付かない席を取った。
券売機は遠いし、カウンターも遠いし、日当たりも微妙に悪い。そりゃ夏場でもない限り人なんか寄り付かない。
「いつまでそのキャラのつもりだ? いい加減気色悪い」
俺はその隣へ腰掛ける。
「結構貴方は言いたい放題言うわね」
「いつものお返しだ」
………昨日会ったばかりな筈なのに、こいつのキャラが濃すぎて往年の付き合いのようになっている。『いつもの』って用法はおかしい筈なんだがな。まぁ、仕方ない、友達である以上は無理に突っぱねることもよくないし。
「私はマゾだからそこまで問題はないんだけどね………」
そう言っていつの間にやら購入したらしい、イチゴ牛乳のパックをストローで飲みだした。
「俺には飲み物ないのか?」
「私は気が利く彼女ですから」
カンと金属音ともに円柱型の何かが差し出された。どうやら缶の様だ。ラベルを見ると何だが…………………
「おしるこじゃないか!! しかも温かいの、つか、何がマゾだよ。立派なサドだよ貴様は!」
大声を出してしまって周囲の人間の視線がこっちに集まる。謝りながら、小さくなった。
「分かったわ、ならどうぞ………ちょっと恥ずかしいけど」
次は自分の飲みかけのイチゴ牛乳のパックを差し出してきた。『ちょっと恥ずかしいけど』の部分はご丁寧に頬を染めて上目使いで。
「茶でも買ってくる」
「嘘よ、はい、緑茶で良いわよね?」
鞄の中からスッとコンビニ何かでよく見掛ける緑茶のペットボトルが出てくる。それに続いて弁当が二つと箸が二本出てくる。
「…………本当に今までの問答はなんだったんだ?」
「…………デモンストレーション」
「なんのだなんの?」
「あら、時間が大分経ってしまったわね。さぁ、食べてくれるかしら」
誰のせいだ!?と叫びたかったが、これを言ってしまうとやっぱり時間が無駄に経過するので、俺は更に大人になる。
「頂きます」
俺は弁当を開いて手をあわせた。
「大人になったわね」