一話3
「昨日は先生からのお仕事手伝ってもらって悪いわね。お礼が言いたいからって態々君の通学路で待ち伏せるなんて真似してごめんなさい。改めてありがとう」
やけに説明的なセリフ、俺の思考は少しずつ違う方向へシフトしていた。
この人は誰だ?今背中を向けて自分の席に戻ろうとしている、あの綺麗な長い髪の後ろ姿は誰だ?
違っていた。仕草も、声も、表情も、雰囲気も全ておかしい。
「なぁんだ! いつものフジフジの人助け癖か」
声を態と張り上げる上林、それを受けて周りの緊張が緩和していく。つまり報告をしたってことだろう。
俺の読みは正しかったらしい、今の香里の発言と上林の発言で歯車が噛み合ったのだろう。全て昨日と一緒元通りと言うことだろう。
腹が立った。
とてもとても腹が立った。
天邪鬼なわけではないが、このまま香里を放っておけない、いや、放っておいてやらない。
いつもの意地悪な言動の仕返しだ。そうこれは受けた分をやり返すだけ、決して好意からではない、好意があったとしてもそれは友人への好意だ。
気付いたら香里へと歩を進めているこの体にはなんの罪もない。罪は香里美々、それにしかない。周りの連中なんて知ったことか、香里に歩いていく俺にまた視線が集まる。そんなことも知ったことか。
「おい美々、今日は起こしてくれてありがとう。今日の晩飯はお前の当番としよう腕が見たい。明日は俺が作る、だから帰りは買い物だ。いいな?」
言ってみると意外とスラスラ言えるものだ。
周囲の空気が氷りつくの感じる。香里なんて目を見開いて酷く間抜けな表情、隣のクラスだろうか、遠くの話声がよく聞こえるくらい教室が静まりかえっている。
「な、な、藤谷………………」
「異論は認めん。料理の腕に自信がないのなら手伝うが?」
なるほど、怒りすぎると逆に冷静になる。実践して解った、意外と本当の事らしい。
「………なんで?」
周りの空気がどうやら溶けたらしい、ざわざわと会話を始めた。端端に俺達の名前が聞こえる辺り予想は簡単だ。
「俺とお前は友達だ。友達にケンカもしてないのに他人行儀にされる趣味はない」
「お、お弁当、作って………きたからお昼に食べて……それで腕を見て」
うつ向きながら顔を真っ赤にさせている香里。これが見れただけ仕返しは十分かと思われたが、俺の心は満足しないらしい。
「なら、昼は一緒だな」
「ひゃっ……はい……」