一話2
「もう、藤谷が二度寝なんかするからギリギリじゃない」
本当にいい加減にしてほしいくらい態とらしくプリプリと怒る香里、ふざけた擬音つけても美人がやると絵になるから嫌だ。
あれは夢だと思い込んだ俺は、そのまま自分を自分の都合の良いように気絶させた。言うまでもなく現実で並んで登校という形になっているのが、なんとも嘆かわしいことか。
香里の顔をもう一度ちゃんと見てみる。横顔でもやはり整っている、俺の主観も入るがやはり美形だよな。美形は何やっても、何を着ても得だな。なんて思ってみた。
「でも、藤谷は顔は良いと思うよ? クラスの女子からの人気も高いし、ツンデレ属性、クラスお人好しだし」
意味の分からない分類をされたがそれは無視しよう。
なぜ学校に俺はチャリを忘れてしまったのか、昨日の俺を殴りつけて職員室に行かないようにしたい。そんな事ばかりがカウボーイの投げ縄の様に頭の上をグルグル回っている。
「あら、なんか藤谷がよくないこと考えてる。それにさっきから黙りっぱなし」
頬を膨らませている女子生徒その一さん。
どうやらこの人は予測で俺の心を読めるようだ。ああ、泣きそうだ、黙ってるのに会話が成立するのだから。
「私、その………トイレ行くから」
そう言い残して上履きに履き替えて、スタスタと歩き去ってしまった。
俺達の教室は二階なわけで、態々一階のトイレになぜ向かうのか?とか考えていたが、考えても仕方ないので教室に向かうことにする。
「なぁなぁ、今日お前が氷の女王と登校したって聞いたが本当か?」
ドアを開けたら黒板消しのトラップの様にクラスメイトA(上林森次あだ名「木だらけ」が生えてきた。
「鞄くらい置かせろ」
と言って自分の席に向かう。後ろからついてくる男は『なぁなぁ、無視すんなよ~』とピーチクパーチク騒いでいる。
席に座って、机の横に鞄をかけると周りの雰囲気がおかしいことに気付いた。周囲の人間がこちらに意識を向けている。
予測するにあの氷の女王は親しい人間をつくらなかった、それに学校の中ではそれなりに有名人だ。その親しい人間が気になるのだろう、そして一年からの付き合いで俺と中の良い木だらけに白羽の矢がたったと。
「なぁ、フジフジぃどうなんだよ~?」
「ん? ああ、俺は」
そう言おうとして、低い透き通る氷の声に遮られた。