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桜花白夜  作者: 藤泉留亜都
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依代の巫

なにやら急にオリジナルが書きたくなりまして、挑戦してみようかと思い立った次第です。

タイトルとか考えるのが苦手で、随分悩みました。

内容含め、暖かい目で見守って下さると幸いです…

――それは、空想上の御伽噺。


むかしむかし、封印されていた魔王が復活したという。


天には厚い雲が立ち込めて日の光は閉ざされ、土地は荒れて水は濁り、草木は枯れ、人々が死の病に侵される。正に地獄のような日々が続いた。


ある時。魔王を再び封じようとする救世主が現れた。


それが西の巫と東の巫である――


子供の時に聞かされる御伽噺であり、誰もが知っている話だ。

封印が弱まるのが百年に一度。

その時に再び封印を施さなければ、魔王は復活してしまうのだそうだ。

この平和な世に魔王なんてものは存在しないし、巫という存在だって空想のもの――と、誰もが思っていた。


***


東の都にある寺院に、二人の男性の姿があった。

片方は天色の着物を着ており、長い黒髪を後ろで一つに束ねている。きちんとした身なりで、歳は二十五、六といったところか。スラリとした長身の男性だ。

もう片方は、薄萌葱色の着物を着ていて、人外を思わせる金の瞳に紺色短髪の男性である。やはりきちんとした身なりで、男性にしては低い身長を底の厚い下駄で補っている。

二人共に帯刀しており、侍だというのが一目で分かる。

境内へ入り、中央にある建物の前まで来ると、二人は刀を外して片膝をつき、深く頭を下げた。

目の前には住職と、この東の都を収めている御上。そして、その御上の御身を守る侍が座していた。

住職が小さく頷き、御上が口を開く。

「海璃、宵ノ月。面を上げるが良い」

名を呼ばれ、二人揃って顔を上げた。

「ここへ呼ばれた理由は、もう分かるな」

「はい。巫が、決まったのでしょう」

そう言ったのは、海璃と呼ばれた天色の着物を着た男性だ。

「そうして、その巫の供として、私共が呼ばれたのだと推測しておりますが…」

次いで口を開いたのは、宵ノ月と呼ばれた方だ。

「巷じゃ酷い噂になってるぜ?御上が御伽噺に夢中で頭がイカレちまったってよ」

途端、御上の脇に座している者が刀を手に声を張り上げた。

「貴様、御上の御前であるぞ!口を慎め!!」

「良い」

制する御上に、困惑の表情を浮かべる。

「しかし…!」

「良いのだ。宵ノ月は、我ら人間よりも遥かに長寿な種族と聞く。頭を下げるのは、寧ろこちらの方だ」

「御上…」

御上は小さく息を吐き、気を取り直して目の前に居る二人を見渡した。

「確かに、我は頭がイカレているやもしれん。御伽噺に付き合うなど、この都を治める者としては失格であろう。しかしな、近頃不穏な話も聞く。

東と西の間にある魔王の鳥居に罅が入り、封印の大岩が二つに割れたというではないか」

「…ああ、そうか、それで…」と、宵ノ月が思い出したかのように小さく呟いた。

「取り返しがつかなくなる前に、東の巫を探し出して魔王の鳥居へと向かって欲しいのだ」

「恐れながら。その巫は、どうやって探し出せばよろしいのでしょう」

海璃の言葉には、住職が答えてくれた。

「もう既に居場所の目星は付けてある。まずは、ここより北側にある佐為の国へ向かいなされ。そこの中央都市には、ここと同じ名の寺院がある。そこへ行けば大きなヒントを得られるであろう」


寺院を出た辺りで、宵ノ月は深く溜息を吐いてガシガシと後頭部を掻いた。

「まあ、これで硬っ苦しいお役目はやらんで良いっつー事だよな。旅は面倒だが…」

ちらりと脇を見遣る。と、海璃は感動に打ち震えていた。

「旅…旅か…!まさかこの俺が選ばれるとは…!」

「おい、お前さん…」

「巫と供に旅をするなんて、まるで姫を守る騎士じゃないか!」

「…きし?」

宵ノ月には、海璃が何を言っているのか良く分からなかったが、夢を見ているのは明らかだった。

やれやれと溜息を吐く。

「ええと、かいがら…とか言ったか?君…」

「海璃だ」

「そうそう、かりい!」

「かいり!供に旅をする者の名前くらい覚えてくれ」

「あー…すまんな。永く生きてると人なんて皆同じように見えて、名前なんてのは特に重要には思えんのだ」

「……そういうものか?」

「そういうものだ。少なくとも、俺はな」

ゴホンとひとつ咳をして、改めて口を開く。

「巫というものが何なのか、君はどのくらい知っている?」

「え。それ、は……勿論…」

とは言ったものの、海璃は御伽噺で得られる知識しか持ち合わせてはいなかった。

巫とは、魔王を封印する存在。故に、魔王の鳥居まで護衛するのが己の役目だと認識している。

「…お前は、何なのか知っているのか」

ちらりと見る。と、宵ノ月はフンと鼻を鳴らして腕を組んだ。

「当たり前だろ。この俺を誰だと思っているんだ。良いか、巫に対してあまり夢を持つもんじゃない。あれは依代として生を受ける。人間でありながら人間ではない。あれはーー生贄だ」

「生、贄…」


***


さて、次の日だ。

旅支度をして御上からの使いで来たと言う者から旅費を受け取り、東の都の玄関口とされる門の前に二人が揃ったのが、午後の一時を回った頃だ。

昨夜に降った雨が止み、未だ雲が空を覆ってはいるが、予報では次第に晴れ間が覗くという。

「佐為の国へ着く頃には、日が暮れてるな」

言いつつ、宵ノ月は携帯端末で調べた道順を再確認する。

「宿が見付かれば良いが…まあ、最悪の場合事情を説明して寺院に泊めて貰うのも有りか」

そこまで言って、海璃の表情が沈んでいる事に気付いた。

俯いて地面を見つめている。

「ほら、ちゃっちゃと行くぞ!」

「…そうだな」

「……」

昨日の元気はどこへ消えたのか。

携帯端末を懐へ仕舞い、溜息を吐く。

この辛気臭い者を丸一日引き連れて行くなど、宵ノ月には空気が重過ぎて耐えられる気がしなかった。

どうせ昨日の「生贄」について色々と考えているのだろう。

せめて気を紛らわすような話題でもあれば……と考えを巡らせてみたものの、特にこれといって面白い話は持ち合わせていなかった。

ひとつめの橋を越えた所で、先に口を開いたのは海璃だった。

「あんたは、人よりも永く生きているんだったな」

「ん?ああ」

「どれくらい、永く生きているんだ…?」

「さあなあ…」

考えるように顎に手を当てて少し間を置き、宵ノ月は苦笑いを浮かべて肩を竦めた。

「もう歳など数えてはいないから、分からん。が、巫と共に旅に出るのは、これが三回目だな」

「さん…っ!?て事は、少なくとも三百は越えてるって事か」

「一回目は、途中で降りた」

「え。何故…」

「ん?色々あったんだよ。あの時は…な」

懐かしむように目を細めたかと思うと、すぐに向き直って海璃へと人差し指を突きつける。

「良いか貝殻!」

「海璃だ!」

「巫はな、依代だから性別ってものが無い。でも生活するのに性別は必要だから、女のフリをしたり男のフリをしたりして生活してるんだ」

海璃の脳裏にクエスチョンマークが浮かんだ。

あまりにも現実味が無くて、それこそ御伽噺の延長線のような話だからだ。

「その巫は、見た目で分かるのか?」

「分からん。だから寺院に行くのさ」


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