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異教徒、トルコ説話の一片 The Giaour, A Fragment of a Turkish Tale. (1813)  作者: バイロン卿ジョージ・ゴードン George Gordon, Lord Byron/萩原 學(訳)
異教徒 vs 太守ハッサン
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8 運命の長さ

 立ち尽くす顔に恐怖が浮かび

 そこに憎しみが取って代わり

 立ち所に顔面紅潮となることはなく

 途端に赤くなって怒るということもなく

 むしろ青白いこと墓を覆う大理石さながら

 そのおぞましい白さ、陰鬱まるで亡骸。

 He stood - some dread was on his face,

 Soon hatred settled in its place:

 It rose not with the reddening flush

 Of transient anger's hasty[69] blush,

 But pale as marble o'er the tomb,

 Whose ghastly whiteness aids its gloom.

 眉しかめ、目はギラつかせて。

 腕さし上げ、激しく振り上げ、

 手を振れること厳かに高々と、

 迷える様子は伸るか反るかと。

 His brow was bent, his eye was glazed;

 He raised his arm, and fiercely raised,

 And sternly shook his hand on high,

 As doubting to return or fly;

 行程遅れに気ばかり焦る、

 ここに大きく、濡羽色した馬(いなな)く…

 その手を下ろして剣を抜く。

 醒めたまま見た夢からも醒めたように

 船漕ぎ出して梟の叫び聞きつけたように。

 Impatient of his flight delayed,

 Here loud his raven charger neighed -

 Down glanced that hand and, and grasped his blade;

 That sound had burst his waking dream,

 As slumber starts at owlet's scream.

 拍車を駒の腹に刺し。

 征けや走れや生命を限り、

 高々抛った投げ槍さながら

 驚く駿馬が跳ね上がり。

 The spur hath lanced his courser's sides;

 Away, away, for life he rides:

 Swift as the hurled on high jerreed[70]

 Springs to the touch his startled steed;

 岩は廻られた、海岸はもうこれきり

 蹄鳴る音に掻き乱される事もあるまい。

 岩山に達し、これ以上は見えもせぬか

 キリスト教徒の紋章とか高慢な表情とか。

 The rock is doubled, and the shore

 Shakes with the clattering tramp no more;

 The crag is won, no more is seen

 His Christian crest and haughty mien.

 ほんの一瞬、手綱厳しく

 燃え上がるバルブ種の馬抑え。

 立っていたのは一瞬だった、

 死神に追われるように走り出した。

 'Twas but an instant he restrained

 That fiery barb so sternly reined;

 'Twas but a moment that he stood,

 Then sped as if by death pursued;

 しかし、その瞬間、魂全体

 記憶の冬がのたうつばかりに。

 そこに煮詰めた、時の雫を

 苦痛の人生、犯罪の時代を。

 But in that instant o'er his soul

 Winters of memory seemed to roll,

 And gather in that drop of time

 A life of pain, an age of crime.

 愛する者、憎む者、恐れる者の上に。

 幾歳の悲しみが押し寄せる、この瞬間に。

 その時、何を感じたか、一度に圧迫されて

 胸騒ぎを覚えるものにばかり遭って?

 O'er him who loves, or hates, or fears,

 Such moment pours the grief of years:

 What felt he then, at once opprest

 By all that most distracts the breast?

彼の運命に思いを馳せたその休止、

 誰ぞ知る、その無慙なる時間の永き!

時の記録では、ほとんど無に等しかったが

 思いなしたことは永遠だった!

 That pause, which pondered o'er his fate,

 Oh, who its dreary length shall date!

 Though in time's record nearly nought,

 It was eternity to thought![71]

 宇宙空間のような無限に於て

 良心というものが抱くべき思想は

 理解する事ができるそれ自体を

 名前も希望も終わりもない苦悩を。

 For infinite as boundless space

 The thought that conscience must embrace,

 Which in itself can comprehend

 Woe without name, or hope, or end.

Anger's hasty blush: 全註[69] 第12版までのすべての版では、"hasty "の部分は "darkening blush "となっている。 第11版の裏には、バイロン卿が「なぜ印刷工は、これほど繰り返しなされたたった一度の訂正に立ち会わなかったのか。 私はこの本を一冊も持っていないし、私の要求が聞き入れられるまでは一冊も持ちたくない」と書いていた。


全註[70] ジェリード、またはジェリド[Jarid]は、トルコの鈍い槍で、馬上から力強く正確に放たれる。回教徒が好んで行う武技だが、男らしいと言えるかどうか。何しろ、この技を最も得意とするのは、コンスタンティノープルの黒人宦官たちであるから。私が観察した中では、それに続く巧者が、スミルナのマムルークであった。


[71] 「バイロン卿がマレー氏に語ったところによれば、彼はこのアイデアをアラビア物語の一つから得たのだという。スルタンが頭を大樽の水に突っ込み、2、3分しかそこに留まらないにもかかわらず、その間何年も生きていると想像するという話である。 この話は、アディソンが『スペクテーター』誌で引用したものである。」

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