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異教徒、トルコ説話の一片 The Giaour, A Fragment of a Turkish Tale. (1813)  作者: バイロン卿ジョージ・ゴードン George Gordon, Lord Byron/萩原 學(訳)
僧院にて
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35 懺悔「神父様におかれては、

以下、異教徒が神父に語るのは、臨終の告悔と見るべきであろう。ハムレット父は、これができずに亡霊となったのに対し、この異教徒が吸血鬼になる事はない。『ヴァテック』の異教徒には似ず、その態度雰囲気はコールリッジ『クリスタベル姫』やボードレール『吸血鬼』を思わせる。

「神父様におかれては、日々平穏に過ごして見えよう、

 ロザリオの数珠数えては、はや数知れぬ祈りを。

 人には罪を犯すなと説く

 あなた自身は罪も心配もなく、

 但し誰もが罹る一過性の病を除く。

挿絵(By みてみん)

 'Father! thy days have passed in peace,

 'Mid counted beads, and countless prayer;

 To bid the sins of others cease

 Thyself without a crime or care,

 Save transient ills that all must bear,

 その来し方よ、年老いるまで若い時から、

 我と我が身を浄めて在らん、憤怒から、

 抑えられず荒れ狂う情熱から沸く、

 懺悔者たちが繰り広げて止まぬ、

 納まるはその秘密の罪と悲しみ

 純粋で憐れみ深いあなたの胸の中に。

 Has been thy lot from youth to age;

 And thou wilt bless thee from the rage

 Of passions fierce and uncontrolled,

 Such as thy penitents unfold,

 Whose secret sins and sorrows rest

 Within thy pure and pitying breast.

 残り少ない日々は、過ぎていった。

 喜びに満ちながら、憂いの方が多かった。

 愛の時間争いの時間ですら、

 退屈な人生からの逃避でしか。

 友と結ばれて、敵に囲まれて、

 安息の気怠さにうんざりして。

 My days, though few, have passed below

 In much of joy, but more of woe;

 Yet still in hours of love or strife,

 I've 'scaped the weariness of life:

 Now leagued with friends, now girt by foes,

 I loathed the languor of repose.

 もう愛も憎しみもない、

 もう希望も誇りもない、

 むしろ這うものになりたい

 地下牢の壁を這う害虫になりたい。

 代わり映えしない日々を過ごすくらいなら

 断罪され瞑想と観照ばかりを命じられたなら。

 Now nothing left to love or hate,

 No more with hope or pride elate,

 I'd rather be the thing that crawls

 Most noxious o'er a dungeon's walls,

 Than pass my dull, unvarying days,

 Condemned to meditate and gaze.

 なおも胸の中に潜む願い

 安らぎを…しかし安らぎを感じない。

 我が運命は直に、その願いを叶えるだろう。

 眠ろう、何も夢にも見ずに、私が

 何であったか、何でありたいかなどとは

 あなたには暗く見える事だろう、私の行いは。

 Yet, lurks a wish within my breast

 For rest - but not to feel 'tis rest

 Soon shall my fate that wish fulfil;

 And I shall sleep without the dream

 Of what I was, and would be still,

 Dark as to thee my deeds may seem:

 我が思い出は、もはや儚くなる事も

 久しき死人。願わくは、その墓なくなる事を。

 そいつら共々死んだ方がマシだが

 人生の苦悩引き摺り耐えるよりは。

 My memory now is but the tomb

 Of joys long dead; my hope, their doom:

 Though better to have died with those

 Than bear a life of lingering woes.

 我が精神は堪えようと身を竦めるでもなし、

 絶え間ない苦痛の身に沁みる激痛に。

 わざわざ己が墓穴を掘るまでもなし

 古代の愚者や現代の悪党のように。

 My spirit shrunk not to sustain

 The searching throes of ceaseless pain;

 Nor sought the self-accorded grave

 Of ancient fool and modern knave:

 死と出会うことを恐れるでもないし、

 戦場に出るのは甘美だったし、

 危険が私を誘惑していたというならば

 愛ではなく、栄光の奴隷という所だ。

 Yet death I have not feared to meet;

 And the field it had been sweet,

 Had danger wooed me on to move

 The slave of glory, not of love.

 勇敢に振る舞ってはきた…売名の為ならず。

 月桂冠には賞賛を、勝っても負けても。

 やりたい者にはやらせよう、

 求めるものが名声であろうと、報酬であろうと。

 I've braved it - not for honour's boast;

 I smile at laurels won or lost;

 To such let others carve their way,

 For high renown, or hireling pay:

 ただ眼前にあらまほしきは

 得るべきものと見なせるものを

 愛する乙女と憎むべき男を

 運命の足跡を追跡しよう、

 救うも殺すも、お求め次第、

 引き裂く鋼と廻る火をもて。

 But place again before my eyes

 Aught that I deem a worthy prize

 The maid I love, the man I hate,

 And I will hunt the steps of fate,

 To save or slay, as these require,

 Through rending steel, and rolling fire:

 この語りかけ、お疑いにも及ぶまい

 誰がやるというのか… 彼の成した事を。

 死は傲岸不遜のものならず、

 弱者忍ぶべし、恥知らずに有れかし。

 Nor needest thou doubt this speech from one

 Who would but do __ what he hath done.

 Death is but what the haughty brave,

 The weak must bear, the wretch must crave;

 されば命は、与え給いし方の元へ行かせよう。

 危機の崖っぷちにも怯まなかったのは

 幸せ得意の絶頂だった… だからどうした?

 Then let life go to him who gave:

 I have not quailed to danger's brow

 When high and happy - need I now?

'Father!:ギリシャ正教会の聖職者は、ローマ・カトリックのものとはやや異なるが、新教の「牧師」とは違うから、「神父」としておく。

'Mid counted beads:『クリスタベル姫』でも取り上げられたロザリオの祈りは、決められた祈りを決められた数だけ繰り返す聖職者の仕事で、ロザリオの玉はそのカウンタとして手繰る。

lot:「籤」「運命」というより「人生」というように感じて、このように訳してみた。

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