28(吸血鬼の呪詛)
異教徒に投げられた呪いの言葉。『ヴァテック』からの引用少々と、吸血鬼になってしまえとの文言から成り、後者はポリドリ『吸血鬼』編注に引用された。やや唐突に見えるが、ギリシャに於ては、無法者や異教徒などまともなキリスト教徒でない者、ろくな死に方をしなかった者は、吸血鬼になると信じられたようである。
しかし汝、偽りの不信心者よ!悶え苦しめ、
ムンカル掲げし復讐の大鎌の下に。
して、その苦しみから一人逃れて
失われしイブリースの王座の周り彷徨うがいい。
But thou, false Infidel! shalt writhe
Beneath avenging Monkir's scythe;
And from its torment 'scape alone
To wander round lost Eblis' throne;
そして消えない火、消せない炎を、
心臓の周りに、その中に、宿らせてやろう。
耳は聞こえず、舌は語れず
その内なる地獄の拷問を!
And fire unquenched, unquenchable,
Around, within, thy heart shall dwell;
Nor ear can hear nor tongue can tell
The tortures of that inward hell!
だがその前に、吸血鬼として地上に過ごせ、
汝の死骸、墓から引き離してくれよう。
されば、汝の生まれ故郷に幽霊めいて出没し、
汝の一族全ての血を吸うがいい。
But first, on earth as vampire sent,
Thy corse shall from its tomb be rent:
Then ghastly haunt thy native place,
And suck the blood of all thy race;
娘から姉妹から妻から真夜中に、
命の流れを吸い込むがいい。
その饗宴を嫌おうがどうしようが、
なくてはならぬ、汝が動く屍養うには。
There from thy daughter, sister, wife,
At midnight drain the stream of life;
Yet loathe the banquet which perforce
Must feed thy livid living corse:
犠牲者たち未だ畢らざるに
悪魔を父と知らしめん、
汝呪われてある如く、汝に皆呪われて在らん、
汝が花という花、茎から枯らさるに。
Thy victims ere they yet expire
Shall know the demon for their sire,
As cursing thee, thou cursing them,
Thy flowers are withered on the stem.
汝が咎に倒れてしまうばかりの者こそ、
分けても若く、誰にも勝り最愛なる娘こそ、
父の名をもて汝を祝福せん
その言葉こそ汝が心臓、炎に包まん!
But one that for thy crime must fall,
The youngest, most beloved of all,
Shall bless thee with a father's name -
That word shall wrap thy heart in flame!
それでも汝は為すべきを為し、焼付けなければならぬ
末期の娘の頬の色、最後の目の輝きを、
そして末期のガラスのような視線を見なければならぬ、
生気なくして青く凍れる目玉を。
Yet must thou end thy task, and mark
Her cheek's last tinge, her eye's last spark,
And the last glassy glance must view
Which freezes o'er its lifeless blue;
して穢れた手に引き千切るがいい、
その娘の髪の房は黄色い、
生前に刈ったときには最愛の
誓い交わしたその一房を、
Then with unhallowed hand shalt tear
The tresses of her yellow hair,
Of which in life a lock when shorn
Affection's fondest pledge was worn,
しかし今、汝持ち去るは
汝が苦痛の記念とは!
血塗れの汝から最愛の血滴り落ちよう
剥き出す歯牙から、荒げる唇から。
But now is borne away by thee,
Memorial of thine agony!
Wet with thine own best blood shall drip
Thy gnashing tooth and haggard lip;
然る後、陰鬱なる墓場彷徨い居るがいい、
グールだのイフリートだの引き連れ行くがいい。
そいつらでさえ恐怖に縮み上がろう
自分よりも呪われた亡霊と来ては!
Then stalking to thy sullen grave,
Go - and with Gouls and Afrits rave;
Till these in horror shrink away
From spectre more accursed than they!
Monkir:ムンカルとナキール(Munkar wa Nakīr) 荒くれで乱暴な天使であり、主と預言者に代わり墓で全ての人間に質問する。アナス ・ ブヌ ・ マーリクによれば、 「僕は墓に横たえられると、草履の足音を聞き、二人の天使が訪れて死者 の横に座り、この男、すなわち、預言者ムハンマドに何を告げるかと聞く。敬虔な者は、この 方は神の使徒であると証言しますと言う。すると天使は、そなたの火の椅子を見よ。すでに天 国の椅子に置き換えたぞ、と告げる。他方、不信心者や背教徒は、この人については皆が言う とおりです。だが私には分かりません、と言う。すると彼らは鉄槌で一撃され、その叫び声は 人間とジン以外(thaqlayn)で近くにいる者の耳に届く」 。――岡崎桂二「カズウィーニー『被造物の驚異と万物の珍奇』における天使論」より
バイロン卿の描写になるMonkirは、これよりも死神として知られるグリム・リーパーに似る。
『ヴァテック』にも出てくる。“...do you not see those spectres that are stirring the burning coals? Are they the Monker and Nakir, come to throw us into them?”
Eblis:堕天使にして悪魔の王イブリース Iblīs。イスラム教ではシャイターン(キリスト教ではサタン)と呼ばれる。『ヴァテック』では財宝を求めるヴァテック王が、異教徒 Giaour の手引きで魔王イブリースの都イスタフル Istakhr を訪ね、永遠に心臓が燃え続ける劫罰を受けその地に彷徨う。
Vampire:これは『ヴァテック』には見当たらない。訳者は John Stagg "The Vampyre"(1810) の影響かと考える。対して全集版のコールリッジ注釈では、 Bayle の情報に依る(Bayle, Dictionary, 1724, i. 508, art. "Arsenius")と確言されている。Peter Bayle: An Historical and Critical DICTIONARY の事だと思うが、該当箇所が見つからない
Gouls:屍食鬼。イスラム教の伝説で、墓を発き屍肉を喰らう
Afrit:Ifrit 綴り違い。精霊の一種




