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異教徒、トルコ説話の一片 The Giaour, A Fragment of a Turkish Tale. (1813)  作者: バイロン卿ジョージ・ゴードン George Gordon, Lord Byron/萩原 學(訳)
ギリシャ
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1 テミストクレスの墓

副題に「トルコ」と書きながらギリシャの話を始めるのは、当時ギリシャがオスマン・トルコ支配下にあった歴史的事情による。Wikisourceにある1813年版を基に翻訳を始めたところ、誤植があるようで、後にコールリッジ他が編集した全集版を参照し校正しているとお断りしておく。

風も吹かずに波は止まらず

アテナイ人の墓に打ち寄す、

その墓ちらちら断崖の上

先頭に立ち迎えるは帰郷の舟

報われざる地に高く立っては

かくなる英雄またとあったか?

No breath of air to break the wave

That rolls below the Athenian's grave,

That tomb which, gleaming o'er the cliff

First greets the homeward-veering skiff

High o'er the land he saved in vain;

When shall such Hero live again?


麗しき郷よ、巡る季節が微笑む

あの島々の上に恵み垂れ給う、

眺望はるかにコロンナの丘より

見た者ふかく感激のあまり

孤独も歓喜に圧倒されて有り。

Fair clime! where every season smiles

Benignant o'er those blesséd isles,

Which, seen from far Colonna's height,

Make glad the heart that hails the sight,

And lend to lonliness delight.

(さざなみ)立てば海にも笑窪(えくぼ)、その頬を

染めるは数ある山の峯の色

捉えてさざめく(うしお)の洗うは、

これら揺蕩(たゆた)う東のエデン、よしや

There mildly dimpling, Ocean's cheek

Reflects the tints of many a peak

Caught by the laughing tides that lave

These Edens of the Eastern wave:

そのときに寄す微風(そよかぜ)つかのま

青水晶の水面(みなも)破るに、はたまた

木々咲かす花々落とすに、如何にか

優しからん此処に歓迎の空気

波立たす撒き散らすその香り!

And if at times a transient breeze

Break the blue crystal of the seas,

Or sweep one blossom from the trees,

How welcome is each gentle air

That waves and wafts the odours there!

岩山あるいは谷の上、そこに薔薇あり

即ち夜鶯(ナイチンゲール)皇后(スルタナ)にあり、

彼が旋律に仕えし乙女なり。

千の歌放つ声の高らかに響く

恋人の物語に顔赤らめて咲く。

For there the Rose, o'er crag or vale,

Sultana of the Nightingale,

The maid for whom his melody,

His thousand songs are heard on high,

Blooms blushing to her lover's tale:

彼の女王、庭の女王、彼のバラ。

風にも弛まず、雪にも凍らず

西のかたなる冬から遠く離れて

あらゆる風と季節に祝福されて

自然が与えてくれた甘味を天に

還すにやわらかな香を炊き。

His queen, the garden queen, his Rose,

Unbent by winds, unchilled by snows,

Far from winters of the west,

By every breeze and season blest,

Returns the sweets by Nature given

In soft incense back to Heaven;

笑み溢す彼の空に満腔の謝意を

示すは最上の色合いと芳しき溜息の。

夏の花数多(あまた)そこにあり、

愛を囁ける蔭も数多あり、

数多ある洞穴、休み場所となろうものが

喚びもせぬ海賊を抱え込もうとは。

And grateful yields that smiling sky

Her fairest hue and fragrant sigh.

And many a summer flower is there,

And many a shade that Love might share,

And many a grotto, meant by rest,

That holds the pirate for a guest;

そ奴らの小艇(こぶね)、下の入江に隠される

呑気にも通り過ぎる船を待ち伏せる

陽気なギターが聞こえるまで

夕暮れの星が見えてくるまで。

Whose bark in sheltering cove below

Lurks for the passing peaceful prow,

Till the gay mariner's guitar

Is heard, and seen the Evening Star;

即ち音も立てずに漕ぎ忍び寄っては、

岸壁岩場のはるかな陰に隠れては、

夜盗どもは獲物へ襲いかかる、

繰り返す歌をうめき声に変える。

Then stealing with the muffled oar,

Far shaded by the rocky shore,

Rush the night-prowlers on the prey,

And turns to groan his roundelay.

奇妙にも、自然の手が慈しんだ場所を

さながら神々へと捧げた住所を、

あらゆる魅力と気品が混ざり合わされ

天国に在れとばかりに仕上げられ、

Strange—that where Nature loved to trace,

As if for Gods, a dwelling place,

And every charm and grace hath mixed

Within the Paradise she fixed,

それを何と、苦痛に魅入られた人間などが

天国を荒野に変えてしまうというのか

一輪の花すらも踏みにじる様子は

一時間も面倒見てはいられないというような

There man, enamoured of distress,

Should mar it into wilderness,

And trample, brute-like, o'er each flower

That tasks not one laborious hour;

彼が手に慎みを求めるでもないか

妖精の地に経験を積ませるまでか

それでいて人の扶けは弾き出し要らぬと

それでいて甘美にせがむは手出しするなと

Nor claims the culture of his hand

To blood along the fairy land,

But springs as to preclude his care,

And sweetly woos him—but to spare!

奇妙にも、なべて平和に付いて回る、

情熱が誇りに満ちて暴れまわる、

欲望と暴虐が支配に至り

麗しき領土を暗く染め上げ。

Strange—that where all is Peace beside,

There Passion riots in her pride,

And Lust and Rapine wildly reign

To darken o'er the fair domain.

まるで魔物が打ち勝ったかのよう

天使の軍勢を打ち破ったかのよう。

天の玉座に据えられ、住まうのか

地獄から放たれた亡者たちが

It is as though the Fiends prevailed

Against the Seraphs they assailed,

And, fixed on heavenly thrones, should dwell

The freed inheritors of Hell;

至って和やかな光景、喜びのために形造られたものが、

もはや呪わしき暴君の乱暴狼藉に仕えるのか!

So soft the scene, so formed for joy,

So curst the tyrants that destroy!

Athenian's grave:原註) 岬の岩に立つ墓、テミストクレスのものとする説あり。(カンバーランドは『オブザーバー』に述べる、

「テミストクレスの墓に刻まれたプラトンの詩は、優雅にして哀傷に満ちた簡潔なもので、私の翻訳能力では手に余るのだが…

『浪打ち寄せる海の縁、

  テミストクレスよ、

  汝の碑まさに立つべし。

 生まれ故郷の海岸に向け、

 商人積荷を運び来らん。

 戦に艦隊召されし折には、

 アテネの子等撃ちてし止まん

 汝の墓が眼前に。』)―1832年版への注釈

 テミストクレスの墓と伝わるものは、「海の縁にある岩を削った墓で、ほぼ水面下」とされ、港の入り口から4分の3マイル、ピレウス川の西端の岬に立つ灯台に隣接している。プルタークは『テミストクレス』(第32巻)の中で、この「祭壇のような墓」の正確な位置を説明し、カンバーランドが言い換えたプラトン(詩人、紀元前428-389年)の一節を引用している。バイロンとホブハウスは「ムニキア半島を完全に一周した」(1810年1月18日)『アルバニア旅行記』

Colonna's height:アッティカ半島南端のスニオン岬Cape Sounionは、アポロン神殿が在ったためCapo Colonneと呼ばれた

dimpling:「笑窪」「漣が立つ」何れとも読める。

the Nightingale:原註)ナイチンゲールがバラに執着するのは、ペルシャの有名な寓話である。私の見間違いでなければ、「千の物語のバルバル」とも呼ばれている。

[メシヒ歌うは、ウィリアム・ジョーンズ殿の翻訳によれば:

「おいで、麗しき乙女よ!

詩人の捧ぐ歌ここに聞きとり。

あなたはバラの花、彼は春の鳥。

愛こそ彼に歌うを命ず、

愛ゆえ彼に従わんとす。

精一杯、春の花散るは直ぐよ。」

「ペルシャのナイチンゲール(Pycnonotus hæmorrhous)」の完全なタイトルは「Bulbul-i-hazár-dástán(千の物語の鳥)」、通常は「Hazar(千)」に短縮され、一般には「Andalib」と呼ばれている。」(リチャード・F・バートン著『アラビアンナイト』1887年、『補足夜』iii.506参照)

ナイチンゲールのバラへの愛着については、ムーア『ララ・ルーク』:「ああ!早々に五月のバラがやらかしそうだ

自分の好きなナイチンゲールを間違えるなど」云々と、フィッツジェラルドによるオマル・ハイヤーム『ルバイヤート』訳(第六段)-を比較検討されたい。

 さて、ダビデも口閉じ、神々しきに

「酒!酒!」と囀るペレヴィ高らかに

 赤ぶどう酒!」ナイチンゲール薔薇に呼びかけ。

 浅黒い頬も紅く染めるがよいと。

Rubáiyát, etc., 1899, p. 29, and note, p. 62.

バイロンは、『ヴァテック』の一節に挿入されたS.ヘンリーによる註釈を借用している。

(Vathek, 1893, p. 217).]

Sultana:回教国における首長の妻

The guitar:原註)ギターはギリシャの船乗りが夜な夜な楽しむもので、風向きが変わらないときや凪のときには、常に歌と、しばしば踊りを伴う。

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