拝啓あなたへ
拝啓あなたへ。堅苦しい挨拶でごめんなさい。ずっと会わないと、かしこまってしまうのが、人間の性でしょうか。
生理が来ません。唐突で申し訳ないのだけれど。病院に通うことにします。お金のことは、まだ、分かりません。働いて蓄えた分を切り崩せばどうにか。
初めてのデートです。映画館で、覚えてますか。私は悲しくて泣いているのに、あなたは仮面をつけていたでしょうか、あまりに静かでしたね。
「心が表に出ないんだなあ」
歩道を手を繋いでいるときに言ったのよ。正直あなたが理想の顔かどうかなんて、どうでもよかったから、話し半分に聴いてたわ。
側にいて、ひどく安らかになるし。声のトーンが澄んでいるし。たくましい体つきと、浅黒い肌に合うピンクの時計。刈り上げた首回り。夢中になるには十分で。
顔なんて、もう誰だって整形してるもの。
匂いとか、色とか。考え方で全部決まるから。あなたが一番好きなのよ。
孔雀じゃあるまいし、所詮見た目なんて。笑っちゃうわよね。
話が脱線しちゃった。
いいのよ、知らなくても。お腹がはってきて、皮膚や肉が割れても。それを分かっているのが自分だけだとしても。
こうやって書いている。手紙なのか、それとも日記なのか。決めたわ。私は産む。
さっきまで、神社にお参りに。階段が凍っていて、危なかった。もしも足を滑らせたら、どうなるかな。
一歩ずつ慎重に、息が上がってしまって。
祈るつもり。お賽銭を。鐘を。手のひらを合わせて。靴下が濡れて冷たくて、しもやけになるはずで。冷たいはずなのに、立ちぼうけで、次第に温かくなってきたから。
吐く息は白いのに透明に変わっていく。私はもう一人じゃないんだと悟る。嘘だけど。人間みんな一人なんだけど。
誰かとくっついている間は、脳が痺れて、麻薬の常習犯みたいに、笑いがこみ上げてくる。
これ、私の妄想よ。
心配しないで、生理は来てるから。ちょっと構って欲しかっただけ。気持ち悪いでしょう。読み返しているうちに、あなたが私を避けている理由が納得できるから。
「さよなら」
忘れないでね。あなたにとっては最後でも、私にとっては最初の人。
花火の映画でしたね。線香花火。大きくなっていく火花が、涙の形になって、地面にぽとりと落ちたのよね。