第2話 ■ Do It Yourselfの秘密
高校デビューしそこねた「まじめ地味キャラ」ミフネは、学習委員というあつらえ向きの役職を任される。
クラス全員のノートを集めて職員室にとどけにいく途中、曲がり角で背の高い少女とぶつかる。
彼女も学習委員のようで、手にしていたキャリーにレジカゴを取り付けた道具にノートを入れて運ぶよう貸してくれた。
「お!フブキャリー。」
職員室にノートを届けると社会科のシムラは、ミフネの転がしてきたキャリーを指さした。
「フブキャリー?」
なんのことか分かいないミフネの視線が泳ぐ。
この若い男性教員は、なんにでも自分勝手なあだ名をつける。
先日は忘れ物の多いサユリに「忘れん坊将軍」というあだ名をつけていた。
「2組のフブキから借りたキャリーやろ?あいつんちは元もと工務店やけん、彼女自身も身の回りのモンをいろいろ工夫して作っとるらしいの。」
シムラは、ミフネと彼女が知り合い同士であるかのように話しているが、実はフブキという名前すら知らなかった。
「失礼しました。」
職員室を出たミフネはかがみこんで空になったフブキャリーの構造をまじまじと見る。
キャリー部分は、ホームセンターでも見たことがある金属のフレームでできたL字型の折りたたみ式キャリーカーだ。
そこにプラスチックのバンドやネジなどでレジカゴが固定されている。
2つの既製品を組み合わせただけだが、これを自作して学校に持ち込むなんて、ミフネは彼女の発想力に感心した。
これがあれば、重いノートの持ち運びも楽に行える。
下靴に履き替え外に出ると、日差しがもう夏の硬い日差しだった。
ミフネは、学校の隅にある倉庫小屋に向かって歩いていた。
あの後、2組にキャリーを返しにいき、フブキにお礼を言おうと思ったら、彼女は教室にはいなかった。
生徒会役員の子が、キャリーを預かってくれて、フブキが外の倉庫小屋にいることを教えてくれた。なんでまた、フブキはそんな場所に行っているのだろう。古めかしい倉庫小屋なんて、生徒はおろか教師ですら出入りしているところを見たことがない。
ふと見ると、倉庫小屋の扉は開いていて、中からキュイーンという大きな機械音が聞こえてきた。
おそるおそる中をのぞいてみると、たしかにフブキがそこにいた。
さらにその横には、ツナギの作業着を着た別の人物もいた。
二人は回転する円盤型ののこぎりで木材をカットしているようだ。
フブキはその木材の端を押さえて作業を手伝っていた。
機械が作動しキュイーンと大きな音が小屋中に響き渡る。
ミフネは、二人のあまりの熱心な雰囲気に声をかけそびれ、入り口のところでのぞき込むようにその様子を眺めていた。
次の瞬間、機械音が止まったかと思うと、長い木材が切り落とされた。
切り離されたことによって突然自由を得た木材は、活きのいい魚のようにフブキの手から飛び出ると床に大きな音を立てて落ちた。
その音の大きさに、ミフネは思わず「ひゃっ!」声を上げる。
その声にフブキが気づき目が合う。
「こら、フブキちゃん、なんしょんな!ちゃんと持っとらなイカンがー。」
作業着の人物が大きな声でフブキに言う・・・が、入り口に来客が来ていることに気付き語尾の勢いが失われた。
「なんや、友達かい・・・ちょっと休憩やな。」
ミフネはこの時初めて、この作業着の人物が女性だと気づいた。
ぶっきらぼうな物言いだが、柔和な表情のせいか、厳格な感じや嫌味な感じは一切ない。
「どうしたん?」
キャンバス地の作業用エプロンを着けたフブキが、ミフネに歩みよってくる。
「あ、あの・・・キャリーありがとう。教室に返しといた。」
「なんや、そんなんわざわざ言いに来てくれたん。
ご丁寧に、こちらこそありがとう。君、名前は?」
「え・・・あ、名前?ミフネ。」
ミフネの視線が不思議そうに小屋の中に並んだ木材や工具類、作業着の女性などあちこちに動き回っているのを察したフブキは、自ら語り始めた。
「うちは2組のフブキ。休み時間はいっつもここでDIYしよんよ。」
「DIYって?」
「Do It Youselfの頭文字。自分でいろんなもん作るってことや。」
「何を作ってるの?」
「この小屋の入り口、5cmほど段差があるけん、そこを台車が通れるようにスロープ台を作ってるんよ。」
ミフネはフブキの言っている内容は理解した。
しかし、そもそもなぜ生徒のフブキが、この小屋にスロープを作る必要があるのか、全く理解できなかった。
「ミフネってなんでも顔に出るのお。なんでそんな作業する必要があるんかって聞きたいんやろ。」
まさしくその通りだ。ミフネはこくりとうなずく。フブキは耳打ちするような仕草でミフネに近寄る。
「実はな、うちはこの小屋をカフェにしようと思っとる。みんなが集うカフェや。」
あまりに予想外の回答だった。
「えー?!学校の中にカフェ?そんなことしていいの?」
目を丸くしたミフネの反応を見てにやりとするフブキ。