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その1占い師とテディベア(前編)

午前9時、アンナは目を覚ました。いや、正確には9時ぴったりに目を覚ましたとは言えないかもしれない。なぜなら、彼女はいつも目覚まし代わりに使っている教会の鐘の音で目を覚ましただけだからだ。

アンナは軽く伸びをしながらベットから起き上がった。窓の外から、太陽の光が燦燦と彼女の顔に降り注いでいた。アンナは窓の外をちらりと見た。どこかへせわしなく歩いていく人たちが、彼女の家を通り過ぎた。いつも通り、通りは町の人々で活気にあふれていた。町の人々は、彼女が起きる2時間前にはもう起きていて、新鮮な魚の仕入れやら、店で出すシチューの仕込みやらで忙しくしている。こんなに朝早くから何をそんなにやることがあるのだろう、と彼女は寝ぼけた頭で考えた。




彼女が自分の仕事場に向かうと、今日一番目の客はもう来ていた。まだ若い男で、下を向いて机の下で何やらもじもじ手を動かしていた。

「あの~、ここに来れば自分の将来を占ってもらえると聞いてきたんですが・・・」

「あっ、お客さんですか?」

アンナはあくびを嚙み殺して、慌てて男の前に座った。

「いかにも。私がこの町で一番の占い師アンナです。今後ともどうぞお見知りおきを・・・」

「どっ、どうも・・・」

アンナが男を見ると、男は居心地悪そうに目線をそらした。

「ここはあなたが探したいものや、見つけたい人、あなたの恋愛・金運・将来のことなどなんでもピタリと当てて見せる占いの館…今日ここに足を運んでくれたアナタはとても幸運ですよ?なにしろワタシの占いはほぼ100%当たるとこの町でも有名なんですから・・・」

「はっ、はあ・・・」

男は曖昧な返事をした。彼の目は落ち着きなさげに部屋の中をぐるぐると見まわしていた。

「本当ならばここで占いをなさる方には一回50ゴールドのご料金を取らせていただいてます・・・ただ」

慌てて財布を取り出そうとする男を止めてアンナは言った。

「アナタは初めてここにいらしたということで特別に今回はタダで占って差し上げます…さあアナタが占ってほしいことをおっしゃてみて?」

「はい…」

男は相変わらず目線を合わせようとはしなかったが、料金を払う必要がないといわれたことで少しホッとしているように見えた。

「ボクが占ってほしいのは、ボクの将来のことについてなんです・・・ボクは小さなころからいつもこんな感じで自分に自信がなくて…この先の人生上手くやっていけるか・・・自分でもわからなくて…」

「ふんふん」

アンナは話を聞きながら男を観察していた。髪は伸びすぎていてボサボサになっており、服は暗いベージュの地味なもので、おしゃれしようという意欲はみじんも感じられない。普段からあまり自分の外見に気を使っていないんだな、きっと自分の部屋なんかも掃除せずぐっちゃぐちゃになっているに違いない、とアンナは心の中で思った。しかし、外見を全く意識していないような風貌である一方で、顔はそこまで悪くない、と彼女は思った。

「これまでいろんな仕事を探してきましたが、どれも長続きしないんです・・・仕事先の店長はお前は悪い奴じゃない、ただ人より少し要領が悪いだけだ、だから自信を持てなんて言ってましたけど…きっとすぐにクビになるのはボクの見た目と性格のせいなんでしょうね・・・」

男は下を向きながら、自分にしか聞けないような小さな声でしゃべり続けた。

「こんなボクだから今まで女性とお付き合いしたこともなくて…よく母に説教されるんです、お前ももう22歳なんだからしっかりして自信を持ちなさいって…でもボクのこれまでの人生を振り返って自信なんか持ちようがないですよね・・・それに」

「はい、ストップ、ストップ!あなたの言いたいことは大体わかったわ」

黙っていたら永遠に続きそうな男の身の上話を遮って、アンナは言った。

「つまり、自分に自信がなくて将来が不安だから占ってくれっていうのね?」

「あっ、はい、ボクの将来がどうなってるか占ってほしいんです。」

「わかったわ。この水晶玉でアナタの未来を見通してみせましょう・・・」

そういうとアンナは机の下から水晶玉を取り出した。水晶玉は薄暗い部屋の中で光を反射し、妖しく光っていた。

「むっ、むううううん・・・」

アンナは妙なうめき声をあげながら、水晶玉に手をかざした。水晶玉にかざした手が小刻みに震えていた。その目は大きく見開かれていて、何か知らないものを必死に見ようと努力しているようだった。眉が顔の中央に寄ってしわを作り、額にはうっすら汗がにじんでいた。男はその様子をかたずをのんで見守っていた。

そのまま一分経ち、二分経ち、そして・・・アンナはようやく顔を上げた。

「見えたわ・・・アナタの未来が・・・」

アンナはまっすぐ男の方を見た。

「アナタは自分に臆病になってるでしょう・・・本当は何か新しいことに挑戦したい、自分を変えたいと思っているのに、失敗したときのことを考えて一歩を踏み出すことができない、そしてそのことを自分のせいにしてますます自己嫌悪してしまう・・・」

男は黙って話を聞いていた。

「でも本当のアナタは臆病なんかじゃない、素敵な人よ。そんなに将来を悲観することはないわ。ほら!」

アンナは手鏡を取り出して彼の顔を映した。

「これが本当のアナタよ。よく見て。素敵な顔をしてるじゃない!」

男は、口を半開きにしたまま食い入るように鏡を見つめた。まるで目のウロコが落ちたかのような驚きの表情で。

「だからもっと自分に自信を持って。アナタの将来はきっと大丈夫よ!」

男は顔をまっすぐアンナのほうに向けた。

「本当に大丈夫なんですか・・・?」

「ええ、アナタならちゃんといい仕事に就けて、彼女だってできるわ!。もし彼女を探したいのなら、その髪はもっと切ってきれいにした方がいいけど。」

その言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、男は両手で顔をうずめて泣き出した。

「ちょっ、あなた、泣いてるの?」

「そっ、そんな優しい言葉、お母さんにしか言われたことなかったから・・・うう・・・うう・・・」

その後10分間、アンナは泣いている男を慰めることに終始した。男は嗚咽を漏らしながら、子供のように泣いていた。それでも、泣き終わって帰るときには、男の顔つきは入った時とは違いさっぱりしているように見えた。

「アンナさん、今日は本当にありがとうございます。あなたのおかげで僕はまた自分に自信が持てた・・・もうちょっと頑張ってみようという気持ちになれたんです。」

「あなたがそう思ってくれたなら本当によかったわ。」

アンナは男に向けて微笑んだ。

「アナタ、帰る前にちょっと待って。」

「はい?」

アンナは、奥の戸棚からさっき占いで使ったものより一回り小さい水晶玉を取り出した。

「これは・・・水晶玉?」

男は怪訝そうに小さな水晶玉を見つめた。

「アナタ・・・お母さんの未来が心配じゃない?」

「僕の母ですか?大丈夫ですよ。もし本当に占いが必要になったらここに来ればいいだけのことですし。」

「ノンノンノンノンノン」

アンナは指を振って男を見つめた。

「そんなことをする必要はないわ。だって、この『ミニ水晶玉』があればいつでもどこでも未来が見通せるんですもの!」

「『ミニ水晶玉』・・・?」

「ええそうよ。この水晶玉があれば、私のところに来なくても未来が手に取るようにまるわかりよ。使い方は簡単!さっき私がやったように手をかざせば、水晶玉の中にあなたの知りたいことが見えてくるわ!普通の水晶玉と比べて小さいからどこでも持ち運び可能よ。」

男は、なめ回すように彼女の持つ水晶玉を様々な角度から見た。

「さらに今なら・・・」

「今なら?」

アンナはおもむろに後ろから木彫りの棒を取り出した。その棒にはよく見ると先端部分に四角の形をしたでっぱりが付いており、彼女はその先端のでっぱりを水晶玉の底のくぼみにはめた。すると、棒の先端に水晶玉がぴったりとはまった。

「このように孫の手としても、使えるのよ!」

アンナは棒の先についた水晶玉で自分の肩を叩いてみせた。

「この『ミニ水晶玉』、今なら孫の手ステッキ付きで65ゴールド!ぜひ、おひとつ買っておくことをお勧めするわ!」

アンナは水晶玉を持ち、にっこり笑いながらそう言った。




男が帰った後、アンナは袋に入った金貨を数えていた。

「65ゴールド・・・これだけあれば先月の溜まった家賃も返せて、少しの間まともな食事も食べられる・・・」

アンナは、最近町でオープンした高級レストランのことを思い出した・・・が、想像していると余計にお腹が減るような気がしてやめた。

(それにしても、さっきの水晶玉を買ってくれたお客さんは久々だった・・・)

アンナは『ミニ水晶玉』をもてあそびながら考えた。

(きっとこの新機能のおかげだな。孫の手にもなる多機能水晶玉なんてみんな欲しがるに決まってる。)

(これで今日はパンの耳じゃなくてパンが食べれる…)

「うへ、うへへへへへ」

アンナは、思わず口から出る変な笑い声が止められなかった。

と、そのとき、玄関から突然彼女を呼ぶ声が聞こえた。

「おい!占い師のアンナはいるか!」

若い男の声だった。

「はっ、はい~!・・・じゃなくてどうぞお入りなさってくださいませ」

入ってきたのは金髪の男だった。さっきの男と比べると、体つきががっしりとしていて身長も高い。肩と腿にがっしりとした甲冑を付けていて、見たところ傷一つなく鈍い輝きを放っていた。胸には金の糸で刺しゅうされた紋章が付けられていたが、アンナはその紋章をどこかで見た覚えがあった。

男は薄暗い室内を見まわして開口一番、こう言った。

「なにやらさっきこの部屋の中から妙な笑い声が聞こえたようだが・・・あれはお前のか?」

「なっ、何を言うんですか、アナタ。アナタの聞き間違いじゃないんですか?」

「聞き間違いねえ・・・」

男は疑わしげな眼でアンナを見つめた。その目は、お前以外にこの部屋に誰がいるんだ、と言っていた。

「そっ、それで今日は何を占ってほしいんですか」

アンナは恥ずかしさを隠すように咳ばらいをしながら言った。

「あいにく、俺は今日占いをしてほしくてここに来たんじゃない。」

男はアンナのほうに向かって一歩踏み出した。近くから見ると、男の体は非常に圧迫感があった。アンナは思わず身構えた。

「俺は王立騎士団第3部隊に所属している、リュウという者だ。国王の命によってーーー」

男はアンナの手を取って、手錠をかけた。

「ーーーお前を逮捕する。」

「・・・・・・えっ?」




「ーーー国王の命に従ってお前を逮捕する。さっさと来るんだ、犯罪者め。」

リュウは手錠を引っ張って、アンナを無理やり外に連れ出そうとした。

「ちょっと待ってください。何ですかアナタは、いきなり人を犯罪者呼ばわりして逮捕しようだなんて。第一、私がどんな罪を犯したっていうんですか」

「王立騎士団はこういう平和な世の中では、お前のような犯罪者を牢獄にぶち込むのが仕事なんでな。それに、お前の罪ならもうはっきりしている。」

「へー、そうですか。なら、私がどんなことで逮捕されるのか教えてくださいよ。」

アンナがリュウをにらむと、リュウも負けじとアンナをにらみ返した。互いににらみ合ったまま数秒経ち、リュウが口を開いた。

「でたらめな占いをして人々をダマした罪だ。」

「なっ!私の占いがインチキだっていうんですか?」

「町では有名な話だぞ、お前が知らないだけでな。」

そう言うと、リュウは手元からいくつかの書類を取り出した。

「この町に住む20代の女性、お前が1か月前、彼女の恋愛相談に乗ってあげたんだよな?」

「恋愛相談じゃなくて、彼女の恋愛を占ったんです。」

「占いでも相談でもどっちでもいい。とにかく、お前は最終的に彼女にこう言った。ー今からきっかり一週間後の今日に、アナタは白馬に乗った彼と運命的な出会いをするだろうー」

「はい、確かにそう言ったのは覚えています。私は彼女にそんなに悩まなくても運命の出会いはきっと来る、一週間後には白馬に乗った素敵な男性があなたを迎えに来るだろう、って言ったんです。」

アンナは渋々それを認めた。

「ところが、今からきっかり一週間後の今日に占われた彼女はどうなったのか、知りたいか?。白馬に乗った運命の相手どころか、馬に乗った盗賊に遭って、身ぐるみ全部はがされたそうだ。」

リュウは、手に持った書類をアンナに突き付けて言った。

「これがその女性が出した訴え状だ。ちなみに、同じような訴えが俺の知る限り少なくともあと5件はある。こんなに訴えが来てるのに、なんでお前が今まで逮捕されなかったのか不思議なくらいだぜ。フン!」

「違いますよ!きっと何かの間違いです。」

「間違いなもんか。それからお前、でたらめな占いで人をダマすのに飽き足らず、何か妙なものを売りさばいたりもしているらしいな。」

リュウはそう言うと、部屋の隅にあった棒付きの『ミニ水晶玉』を手に取った。

「例えば、こんなもんとかな。おい、この棒の先に水晶玉がくっついたような妙なシロモノは何なんだ?」

「それは・・・『ミニ水晶玉』です。」

「『ミニ水晶玉』?なんだそれ?」

「これがあるだけでいつでもどこでも未来が視れるんです。」

「へえ・・・なんで水晶玉にこんな妙ちくりんな棒が付いてるんだ。」

「占いをしないとき孫の手としても使えるからです。」

「お前、まさか本気で言ってるのか?」

リュウは呆れたような表情を浮かべた。

「信じてないですね・・・おい!その水晶玉を貸してみろ。」

そう言うとアンナは水晶玉をリュウから奪い取った。

「今からこの水晶玉でリュウ、お前のことを占ってやる。」

「どうでもいいけどお前、手錠をしたままじゃやりにくくないか?」

「うるさい!黙って見ていろ」

アンナはステッキが付いたままの水晶玉をテーブルの上に置き、そっと手をかざした。

「むっ、むううううん・・・」

先ほどの占いと同じように、アンナは手をかざしたまま目を大きく見開き、水晶玉を凝視した。

「むう、むううううん・・・」

必死に水晶玉を見つめるアンナを、リュウは黙って見守っていた。

「むう、むう、むううん・・・」

そのまま数分間経っただろうか、アンナは水晶玉から顔を上げた。

「視えた・・・視えたぞ・・・!お前の秘密にしていた過去が・・・」

リュウは半信半疑といったような目で彼女を見ていた。

「お前には生まれたときから父と母がいなかった。お前は物ごころついた頃から孤児院で暮らしていた。生まれたときから両親の顔を知らず、親戚に引き取り手もいない、天涯孤独の身。お前はひたすら剣の修練に打ち込むことで、そんな自分の境遇を忘れようとした…」

狭い室内ではアンナの声だけが響いていた。外では、人々の声があちらこちらから聞こえてくるのとは対照的に、この部屋は静寂で支配されていた。

「そんなお前は18歳のとき、剣の才能が認められ、王立騎士団に入ることとなった。王立騎士団に入ってもひたすら剣の修練に打ち込む日々・・・ただ・・・本当はお前も気づいているんじゃないのか?お前が剣をふるうとき、お前は何もかもを忘れることができた・・・天涯孤独な身の寂しさも、両親に会いたかったという心の奥の感情も・・・」

「・・・驚いたな・・・」

これまで黙ってアンナの占いを聞いていたリュウが、口を開いた。その顔には少し圧倒され、驚いたような表情が浮かんでいた。

「これがお前の身の上・・・今まで誰にも秘密にしてきた話だ・・・どうだ、すべて当たっているだろう?」

「・・・すべて当たっているどころか」

リュウはアンナをまっすぐ見た。

「・・・すべて身に覚えのない話だ。」

「・・・へ?」

外ではちょうど12時を告げる鐘が鳴っていた。




「アンナの占いの館・・・探し物、探し人、アナタの将来・金運・恋愛運までなんでも占います・・・お問い合わせは旅人亭の角を曲がってすぐ・・・ここかしら」

ジェリーが手元のチラシのようなものを見ながら、旅人亭の角を曲がると、そのすぐ近くで知らない男女二人がもみ合いになっていた。

「だーかーらー!私の占いは本物だって言ってるだろ!さっさとその手を放せ!」

「うるせえ!さっきあんなでたらめな占いをしておいてよくそんなことが言えたな!」

「でたらめじゃない!ホントのことを言え!お前の両親はもう死んでるだろ!」

「ピンピンしてるわ!勝手に死んだことにするな!わかったらおとなしく連行されろ!」

「いーやーだ!」

「あの~ここがアンナさんの占いの館ですか?」

ジェリーは遠慮気味に二人に話しかけた。




「・・・実は、私の娘のテディベアが今朝からなくなってしまったんです・・・家中探したのですがどこにもなくて・・・あのテディベアは娘の9歳の誕生日に買ってあげたもので、娘は大層大事にしていたんですがそれが今朝どこかに消えてしまって・・・娘はひどく落ち込んでいるんです・・・」

アンナは、テーブルの反対側に座ってジェリー夫人の話を聞いていた。その横では、リュウがアンナを横目でにらみ、腕を組みながら立っていた。

「ここに来れば、探しているものを占いでたちどころに当ててくれると聞いてきたのですが・・・ところでそこでさっきから怖い顔をしてらっしゃる男性のかたは・・・?」

アンナは不機嫌そうな顔をしているリュウを無視し、笑顔で言った。

「これはリュウといってね、私の助手をしています。ご覧の通り、まだまだ占い師として未熟ですから私の手伝いをしているんですよ。」

「じょ・・・!」

驚いた顔で口を挟もうとするリュウを遮って、アンナは言った。

「なるほど。あなたの状況はよくわかりました。もちろん今から私が占えば、すぐにでもなくなったぬいぐるみの場所を言い当てることができますよ。」

「えっ?ほ、本当ですか?」

横から「ケッ!!」と毒づく声が聞こえたが、アンナは無視した。

「ただし、今のままではテディベアの場所を完璧に絞り込むことができません。そこで、あなたに二つお願いがあります。」

「はい・・・何でしょう?」

「一つはテディベアがなくなったときの状況を詳しく教えていただくことです・・・あなたが最後にそのぬいぐるみを見たのはいつですか?」

「そっ、そうですね・・・」

夫人は少し考え込むようなしぐさを見せた。

「あのテディベアは普段から娘の部屋に置いていたので、詳しいことは私もわかりませんが・・・わたしが最後に見たのは、昨日の昼頃、娘がテディベアで遊んでいたところです。」

「昨日の昼・・・あなたが最後に見たときから今日にかけて、何か特別なことはありませんでしたか?」

「特別なことといっても・・・昨日は家族で夕食を食べて、少し早く寝ましたけど・・・あと今日の午前中は教会に礼拝に行っていたくらいで・・・」

「教会?今日の午前中は、教会で礼拝があったんですか?」

「お前、知らないのか?今日土曜日は、みんなが教会に礼拝に行く日だろ。」

と、腕組みをしたまま立っていたリュウが言った。

「この町の真ん中にある教会は毎日朝9時と昼の12時、夕方4時に鐘を鳴らす。この町に住んでる人たちは鐘の音で今が大体何時なのかわかるんだ。それで、毎週土曜日は朝9時に礼拝があって、この町に住んでる人たちの大部分が礼拝に行ってるんだ・・・ってお前ここで暮らしてるのにそんなことも知らなかったのか?」

「知らなかった・・・私はあんまりそういうの行かないし・・・」

「まったく・・・」

リュウは呆れたように首を振った。

「それでジェリーさん、あなたは今朝9時に教会に行ったんですね?」

「はい、私と夫、娘の3人で。」

「あなたは3人家族ですか?」

「はい。」

「ふーむ・・・」

アンナは目の前の水晶玉を見つめながら、なにやら考えているようであった。

「あの~今の話で何かわかったのでしょうか・・・?」

「もちろん、わかったことがあります。しかし、まだ場所を完璧に絞るには足りない・・・」

アンナは突然立ち上がって、部屋の中をゆっくりと歩き始めた。何かを考えるような姿勢をしたまま、彼女は水晶玉の前を何往復もした。

「あなたにもうひとつお願いです。」

と、突然、アンナはジェリー夫人の方を見て言った。

「あなたの家を詳しく見させてもらえませんか?」

夫人は少し驚いた表情をしたが、やがてしっかりと頷いた。




「おい、どういうつもりだよ。俺がお前の助手だなんて。」

夫人の家はアンナの住処から少し歩いたところにあった。きれいに舗装された石畳の道を歩いていくと、遠くのほうに立派な教会が姿を現してきていた。そのまた遠くに、町のシンボルである王城が鮮やかに浮かび上がっていた。夫人の家へと向かう道すがら、二人は夫人に聞こえないように小さな声でしゃべった。

「いいだろう?あのご婦人は依頼人なんだから。今日の間はうまく話を合わせてくれ。」

「なんで俺がお前なんかに・・・」

リュウは誰が見ても分かるように露骨にため息をついたが、幸い、夫人はそれに気づいていないようだった。

「そんなことよりお前、もし占いが外れて、娘さんのテディベアが見つかりませんなんてことになったらどうなるかわかるだろうな?今度こそ俺がお前を詐欺で逮捕してやるからな。」

「テディベアが見つからなかったら、捕まる覚悟はできているよ・・・ただ」

アンナはリュウに指を突き付けた。

「私の方からも条件がある。もし、無事テディベアが見つかったら・・・」

「見つかったら・・・?」

「まず、私を本物の占い師だと認め、逮捕しないこと。そして・・・」

夫人の家が間近に見えてきていた。何の変哲もない一軒家で、周りにも同じような家がいくつも軒を連ねていた。

「今日の晩メシはお前のおごりだぞ、わかったな、リュウ」

正午も過ぎたのに、相変わらず町は人でにぎわっていた。

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