第3話 覚醒前(2)
◇第3話 覚醒前(2)
ユーキの脳に住み着いて2か月
まだユーキ本人に話せていない、話すのを躊躇っている。
調べた結果、脳内で互いに神経細胞の情報伝達を行える事が分かった。
脳が一つなのに細胞同士の伝達など骨董無碍に等しいが、そう表現しないと説明がつかないから笑うしかない。
互いの知識や情報を共有し使う事が出来るかもしれない。
俺はそれを『超感覚』と呼び、成った状態を『覚醒』すると定義した。
超感覚・覚醒など勝手に想像したらスゴイことが出来そうでワクワクする。
仮にだ『超感覚』を使えれば、2人で見たり聞いたりした事を共有すれば2倍の情報になる。うまく補完・補正すれば3倍だって行ける可能性だってある。
ものスゴイ能力になりそうだ、あくまで俺の勝手な想像だけどな!
『覚醒』、それは摩訶不思議な世界に違いない。おぉSF映画やアニメに出てくるセリフや題名だよな・・・・実は使えない能力とか落ちがないようにしたいもんだ。
孤児院の方は日課じたい変化はない。
まず武術教練だが、3人編成は同じだけど武器が両手剣から自由選択に変わった。
槍や斧・短剣など好きな武器にしてもいい。こちらは適正(体躯)に合わせた格好になった。
ただ、戦闘系を志望する者以外は弓が必修科目になっている。
この世界で遠距離攻撃をする武器は弓しかないのが理由だ、普通は短・中距離は錬気を使うのが一般的になっている。錬気のできない人は弓の科目を取りなさいとなる。
剣を剣で受けたりすれば刃こぼれや折れたりする、なので前世の剣術はかわしたり、受け流したり、一撃で倒すなどが基本だと聞いたことがある。そうなら、ここでは前世の剣術は余り役に立たない。
剣装すれば刃こぼれも少なくなるし剣装壁なら無傷だ、達人なら剣を破壊することも可能だろうけど、そんなことする前に倒されている。
ここでは剣で切るんじゃなく打撃を与えることの方が重要になる。『気』をまとえば剣で身体を切ることはできなくなる。
防御のために気装と気装壁はある、ただし打撃の衝撃を全て防げる訳じゃない。そこで剣装・壁を使い打撃を受ければ身体の方へ衝撃は伝わらない。少し語弊はあるか、剣を持つ手に衝撃は伝わるが、身体で受けるより数段ましだ、完璧にいかないのは世の常だろう。
ユーキは槍、カレンは短剣、ゴーキは盾と片手剣をすることになった、まぁ妥当な線だな。
訓練は本格的な教練だ、将来は兵士・剣士・騎士など目指しているなら普通なのか・・・。
こんな小さな子供の頃から訓練する世界は、きっと厳しい世界なのだろう。
錬気授業 第2区教練場
タイラン教官から、
「今日は『錬気の気衝・治癒』をする。ただし治癒はヒマリ教官へ行ってくれ」
「ヤッター!!」
周りから歓声が上がった、地味だった『気装壁』から開放されたのだからだ。
タイラン教官から剣士・武闘系を希望している者は、『気装』を寝ているときも発動しているようにとキツイお達しを下された。
一部の者は笑みが消えうな垂れてしまった。
『気装』は7歳児から訓練して全員が発動できる。ただ一日中となれば難易度は何倍も難しくなる。
『気』は運動と同じで、常時発動すれば疲れるし体力の消耗も激しくなる、やれと言われて簡単にできるものでない。
例えば7,8歳の子供に常時マラソンしてなさいと言っているのだ、体力のない子供は無理に決まってる。(ここの7,8歳児はちっとも子供に見えない、みなデカいのだ)
前世の世界の成人男性でも出来ないことが、このではは不可能ではない。
更に意識のない寝てる時となれば出来るのか疑わしい。
『気装』については子供たちの受難がまだまだ続くのであった。
《合掌》
攻撃・索敵の班と治療系に分けてする。
孤児院は5歳から14歳で300名ほどいる。一部に孤児でない教官や職員の子供も交じっている。人員は常に変動している、ここの成人は12,3歳だから、いい就職先が見つかれば順次卒院していく14歳まで孤児院にいなくても良い。
ここは学舎ではない、ちゃんとした教室もなければ教材も揃ってない、また教育を受けた専門の教師・教官もいない。
教官は元兵士・元行商人・元執事等々という人が大半だ、また職員も教師を代行する。
元が付いてる事は専門の教員の教育を受けていない人達を意味する、この国で武術系の教官を養成する機関はないらしい。自己流の教え方をするため指導内容にバラツキがある、錬気のタイラン教官は特に下手クソなのはそのためだ。
面白いことに一部の人間を除いて、共通しているのは彼らも孤児院出身ということ。
児童は好きなように教練(武術)訓練・錬気・座学を選択し勉強している。
中には農場や厨房(食事)、保健師などを目指す者も出てきて全員参加にはならない。
年少組は教練や錬気は人気で花形だから受ける者は多い、しかし年長者に行くほど段々少なくなる。
悲しいけど年齢が上がるほど自分の力量は分かり見えてくる、いつまでも夢を追えないのが現実。
ここの孤児院は好きなように自分で科目を選ぶ、学校なら自由を尊び学ぶ校風と言った所だろう。文化・文明も未発達の世界だと思っていたが、前世の世界と比較しても劣らない。
俺の知ってる中世は身分制度の厳しく差別のあるクソみたいな世界だと思ったけど、この世界はどうやら違うみたいだ。
武術訓練・錬気は屋外でする、雨は中止しない実戦に向いていると言って歓迎される。
座学は食堂、イスとテーブルがあるので用意する必要がないからだ、実に合理的で納得する。
タイラン教官は班に必要な事を説明し教えたら次班に行ってしまう、結果的に授業の大半は自習になる。
なかには面倒見のいい年長者が年少組を教えて補助する仕組みだ。
やっぱり教官は教えるのが超下手クソだ。
元兵士とか傭兵・薬の行商人なので教師でないから当然といえば当然か。
でも何というか?、型にはまらない教え方で大らかな教育に想わず微笑んでしまう。
ユーキ達、仲良し3人組はいつも一緒だ。
ここの施設に入所してから寝る以外はずっと一緒にいるらしい。
タイラン教官は、
「『気』の攻撃は波だと思え、全身気装しないと気衝は出来ません」
正拳の構えで拳を突きだし風を起こした。
「拳の動きを気装の膜で行えば『気衝』という技になる、人も飛ばせるぞー」
「拳や足で打撃に『気衝』を加えるのが『気衝撃』ってやつだ」
「手と手と間に気をボール状に気装を集め気衝で一気に放出するのが『気弾』」
「あと気弾は高等技術に入る、気衝撃は超高等技術で幻の技と言われている」
と言い残しタイラン教官は他へ行ってしまった。
《おい、またそれだけかよ。しっかし語尾がぞんざいだったり丁寧だったり困ったもんだな》
手を突き出し教官の真ねしたゴーキが聞いてきた
「ところでさー、気装どれくらい出来るんだ」
ユーキが、
「いいとこ半日、9時間かな」
「すげー」
カレンが、
「私は武術訓練と同じ4、5時間ってとこかな。結構やるでしょ」
「なかなか、いい線いってるぜー」
「聞いてるアンタはどうなのよ」
ゴーキは頭を掻きながら、
「30分くらいかな~ へへへ」
二人は驚いて顔を見合わせた。
「教練の練習は1時間単位よ、普通なら気装もたないでしょ。アンタ訓練中いつも強化した気装で防御してたよ。30分は有り得ないわよ! 絶対嘘ね・・・」
「そーなんだよ30分じゃ足りない。そこで俺は考えた! 当たる瞬間に気装すれば防げるとね。ハッハッハー」
「何それ脳筋バカもここまでくると表彰ものだわ、生身で攻撃受けたら大怪我どころか死ぬこともあるのにあきれ返る」
「なあにー、ちゃんと気装は継続出来るようにするさ、みてろよ!」
この行為が上位の『気装壁』を強化する要因になったのは知る由もない。
「出来た!」
ユーキの右手から息で吹くほどの風が出た。
この程度の威力は何の役にも立たないが、嬉しそうに喜んだ。
何事も初めの一歩が無ければ前に進まない。
「やったじゃん」
「俺も負けられねーぜ」
二人とも真剣に訓練しだした。
ゲームや漫画にある、波動・かめかめ・通背などの後ろに拳や波をつけるやつ、出来たらマジ超カッコいい。俺もやりたい。
座学は一般教養を終え薬学になった、担当は菜園長に替わった。
菜園や農場にいるためか菜園長の顔は浅黒く日焼けしている。
眼差しは優しく、柔和でニコニコ顔の菜園長は子供達の人気者だ、そして子供好きなのだろう。
薬学は修めれば将来に役立つし、仕事に就きやすいから真剣に覚えるよう釘をさされた。
半端な技量で兵士や傭兵になって死んでしまうくらいなら、薬師や薬の行商人なり堅実な生きた方で長生きしろって事だろうな。
授業で生薬を作ること教えてくれる。
材料は菜園で栽培している、足りない素材は裏山へ取りに行くことになる。
出来た生薬は街の薬屋に売るのだそうだ、そのお金を孤児院の運営に充てている。
一石二鳥じゃないか、素晴らしい。
稀にあの技師Bが講義することもあった。
麻痺や毒の効能や生成の仕方を、ニヤニヤしながら嬉しそうな姿を見た時は精神が病んだかと心配した。
《いや、してねーけど》
まじ下手くそな説明で理解できない、当人は悦に入り嬉々としてやるため勘弁して欲しい。
《まじ死ねと思う》
この座学の毒や麻痺を覚えてどうするつもりだ、暗殺者に育てるつもりなのか疑問になる授業だ。
院長担当の貴族の礼儀作法もある。
孤児で平民に教育する必要性があるのか疑問だ。
そして授業は最悪、ただ自分の容姿端麗を自慢し誇示したいだけの話しで終始おわる。
《受けなきゃよかった》
院長一派の座学は怪しさ満載である。
菜園長の薬学は有益で将来に役に立つものだ、教え方も素晴らしい。
半面、院長や技師の座学はクソだ、そして人に教える資格すらない教官だった。
授業は自由参加なので困らないけど、このちぐはぐさは何だろうと悩んでしまう。
まだ孤児院の謎は続くのであった。