序 章
◇序章
何処にでもある風景
「お父さん・・・」 呼び掛けていた女性は泣いていた。
横にいる30代の男女も泣いている、顔が似ているいるから恐らく兄妹だろう。
その対面に、小柄で白髪まじりの老齢な女性が寝ている病人の手を握り泣いていた。
それを天井から見ていた私は目を見開ぎ驚いてた。
驚くのも無理はない、ベットに横たわっていたのは、それは紛れもなく自分の姿だったからだ。
(あれは間違いなく自分だ!)
(天井から眺めている・・・ これは幽体離脱したってことなのか?)
それから間もなく視界は白くまどろんでいく。
これで今世とおそらばするのかーーー
▽とある場所
視界が開け意識が戻ってきた。
(先っきの何だったろうか~? あれは病院だ、 そうだ病気で入院中してたはずだ)
(でも、ここは何処だ! 確か幽体離脱してた。もしかして死後の世界になるのか・・・・・・)
分かるのは、ここが先ほどの病院でなく、見知らぬ場所で幻想的だということ。
建物は円形のドーム、高さは壁側で10m中央部は2倍はあろう、周囲は直径50mほどあるだろうか、中央に円錐形が上下逆さまにつながっている置物もある。
上下の円錐形を例えるなら、まさしく砂の入ってない《砂時計》の形だ。外側はガラス製だろう中身は無数の七色の光線が走っている。
虹色に輝く《砂時計》
天井、壁、床はすべて純白、材質は石材のようだが一切つなぎ目がない。
照明もないのに昼間のように明るい。純白だと眼が痛くなってもおかしくないけど眩しくはない。
「これは、すごいな~・・・・・・」
人生60年も生きてきたが見たことのない光景に感嘆の声が漏れでる。
「やっぱり死んだのか、幽体離脱してどこかへ飛んだのだろうか?」
「もしかしたら、天国かな、いや地獄の入り口なのか?」
次々に疑問は湧き、頭の中は疑問符だらけになる、見慣れない景色に理解が追いついてない。
ただ病院の出来事はわかった。
私はきっと死んだのだ。それもガンで・・・
医者から余命3か月といわれ病院で治療入院していたはずだ。
私の名前は山田太郎 歳は60歳
この年代だと病気になるのは珍しくもない。最近は60歳でも元気な人の方が多く、昔ほど老人扱いされるほどの年齢でもないが。
60歳以上になると病気はある程度覚悟しなきゃいけない。
例えガンを罹ったとしても、流石に死ぬには少々早すぎと思う。
末っ子のせいもあるが、祖父母は学校に上がる前になくなっている。なので記憶はない、ただお盆のお墓参りに行き墓石の裏をみて驚いたものだ。祖父母の大半が60才代で亡くなっている、早い人は50才代後半の人もいた。
なら60歳で亡くなってもおかしくないか・・・いや、いや、今は昭和30年代じゃない。
(体調崩して入院し、いきなり余命3か月の宣告、そして死はないわー)
思い返せば人生『可も不可』もない生き方だった。
学生時代も普通に過ごし!(恋人はできた)、会社で普通に働き、恋愛し、結婚し、子供もでき、マイホームも建てた。
そして60歳で会社を退職、少々早すぎる死だが『可も不可』もない在りきたりの人生だった。
私は学校、会社、社会でどこにでもいる普通の人だった、いや学校では成績は並以下だから劣等生だったかも知れない。
運動も並、これだと言うほどの優れた科目は一つもない生徒。落ちこぼれではないけど、クラスで目立たない生徒、その他大勢の中にいる人間だ。
そんな人間が一流の会社に入れるはずもない、勤めたのは中小企業の零細企業に落ちつく。それなりに頑張って課長の職についた、肩書はそれなりだが実態は作業員兼管理職なので偉ばれるほどじゃない。
若い時はもっといい会社に転職したい気持ちはあったけど、行動に移すほど勇気もなくズルズルと定年退職するまで会社に勤めた。
小さな会社だったが、何度かある不況でも潰れない会社に感謝したものだ。何故って! 転職しようとした羽振りのいい会社が、その後不況で潰れてしまったからだ。一寸先は闇ってあるんだな~
(想えば、代り映えりばえのない、冴えない『人生』だったな~)
何故か、愚痴ばっかしになってしまった。トホホ・・・
「もしもし!」
走馬灯のように60年間の記憶に浸っていると、背後から若い女性に声をかけられた。
誰もいないと思っていたのでビックっと体が反応する。
髪はショートカット、身長160cm位の女性で歳は二十歳くらいか、髪も瞳も黒いから日本人だろうか。
後ろに私より背の高い180cm位ある男性が立っていた。
金髪でブルーの瞳、きっと外人さんだな?
女性が問いかけてきた。
「あのー もしもし! どちら様でしょうか?」
「ここは、何処でしょうか? もしかしたら天国か地獄ですか?」
「ここには、どうやって来られたのでしょうか?」
「この建物は変わってますよね。こんな奇妙な建物、生まれて初めて観ました」
全く会話がかみ合っていなかった。
目鼻立ちのしっかりした顔の女性が眉間に皺を寄せる。
「人の話を聞いてます・・・」
「あっ、はい すみません。山田と申します、えーと日本人です。恐らく死んだみたいです」
習慣か身体を斜め45度に屈め挨拶をする。
女性の名前はカミーラさんといった、男性の方はヘルマンさんという。
私が『神様』なんですかと聞いてみたら違うという、時空の番人なんだという事だ。
ここは時空の集束所らしい、聞いも言葉の意味も理解できず良く分からんかった。
しつこく尋ねたから本人方も詳しく理解はしていないらしく困っておった。凡夫の私に難しいこと理解不能なことは良く解った。
ただ番人といっても指示や命令があってやってる訳でもないらしい。
何でも、私のように気づいたらここに来ていたらしく、前任者に習って仕事?、番人をしてるとも言っていた。
意味不明なんだが、何でも無数にある世界線が絡んだり、ほぐれたりすると修復する仕事らしい。
聞いても分からないんだけど聞く、無駄だと分かっても聞くから始末が悪いな。
説明を受けても全く理解できない、だから『らしい』とか表現できない。
頭の中、脳みそが爆発しそうになった。何って言ったかな埒外だったかな、そんなとこだ。
「ここでは何ですから別の部屋でお話ししましょうか?」
ヘルマンさんが手招きした先にドアがあった。
(あれ、ここにドアは無かったハズ、一面壁になってたと思ったが・・・)
「太郎さんの記憶間違いじゃありませんよ。今、私が作ったのです」
(えっ! 作った???)
(言葉に出さないのに相手に伝わった・・・頭の中を読めるのかな?)
ヘルマンさんは頷き、ドアを開け部屋に入ると手を差出した。何もなかったその先にテーブルやイスが現れた。ポット・コーヒーカップ次々と現れる。これは、きっと魔法だ。
太郎は口をあんぐり開け、理解するとかの範疇じゃない出来事に呆然としていた。
「おかけください。太郎さんの記憶から作ってみましたが、気に入って貰えましたでしょうか?」
「あっ、はい」
(こんな芸当出来るのは神様じゃないですか・・・)
「何度も言いますが、私達は神様ではありませんよ」
言葉にしても想っても相手に伝わっているみたいだった。
私はコーヒーを飲みながら色々教えてもらった、哀しいかな聞いても全く分からなかったのはご愛嬌だ。凡夫とはバカなのか、いや、いや、私だけのくくりだろう。《合掌》
そして肝心な事を聞いてみた。
「私は何故ここに来たのでしょうか」
カミーラは顔を横に振った。
「それは私達にも判りません」
「私は元の世界でヘルマンさんの能力はありません、ごく平凡な人間なんです。特別な力もない私が来ても意味ないように思うのです」
「ハハハ、大丈夫です。そのうち太郎さんも使えるようになりますから・・・」
何だと!、私も使えるようになる。それは素晴らしい、実に素晴らしい事ではないか。
しばらく『ここ』にいる事になった。まぁ何処も行けないからいるだけ。
『ここ』は時が無かった、空間も無い。けど時も空間も有るようで無い、無いよう有る。実でもあり虚でもある、凡人にも分かるように説明してくれ聞いてて頭が痛くなってくる。
もっと驚いだのはカミーラさんとヘルマンさんは人間で無いらしい。宇宙人か!
元の姿は長い時間経って忘れてしまったと言っていた。人に見えるのは、私の記憶を使って勝手に『ここ』がしているからだと言われた。
いったい『ここ』って何だよ~
その後は管理人の仕事を見学したり、手伝いをして過ごすようになった。
ヘルマンさんのいう通り、いつしか自分も思い浮べれば物を出せれるようになった。
試しに時が無いのか時計を出してみた、秒針は動くけど短長針は動かない。
いろんな種類の時計出したけど同じ現象になる。これは『ここ』が時は無いよとの意思だろう。
ヘルマンさんに確かめたら秒針が動くのは壊れていないと意味らしい。
ここは摩訶不思議の世界だ。
ある時、耳よりな情報を聞けた、なんでも『転生』する事ができるらしい。
ヘルマンさんの前任者がその方法を教えて去っていった。中央に円錐形が上下逆さまにつながっている《砂時計》の場所、その彼は実際に一つ世界線を取り、中に入って消えてしまったと言っていた。
これを聞いた時、小躍りしたいくらい喜んだ。私も転生したい、時の番人って柄じゃないしね。
気分は。
(なんなら異世界転生してみるかー、ワハハハ!です)
この決断がトンデモナイ事になるとは全く知る由もなかった。
転生できるなら何故、ヘルマンさんとカミーラさんはしないのかと尋ねた。判らないと答えが返ってきた、長い時の流れに忘却してしまったと言う。番人の仕事はと聞けば『何となく』やってるだけとしか答えてくれない。
使命がある訳でもなく、誰から命令された訳でもないのに『ここ』に留まっている。私に理解しにく心境や境地だ。目的も意味もなく生きる、更に喜び・悲しみ・苦しみさえない世界の生活など想像を絶する生き方だ。
何ていったかな・・・そう《無我の境地》だっけ? 自分て言って何だが確信持てません!
《合掌》
▽旅立ち
「この世界線でよろしいのでしょうか?」
聞いてきたのは白いローブをまとったヘルマンさんだった、横にカミーラさんもいる。
彼は理知的で分別のある紳士風の風貌がカッケー 人であった。私もこんな風に成りたかった(泣)
「時間を掛けて色んな世界線を見ましたが、この世界線ならやって行けそうな気がします」
そう世界線は見られるのだ。それは地球だけじゃなく、あらゆる場所、あらゆる時間が違う世界を観察でき、その世界へ行ける。
覚悟を決めたのを判ってくれたのか、ヘルマンさんは頷いたてくれた。
「新たなる旅立ちに祝福を・・・」
とヘルマンさんとカミーラさんは微笑んでくれた。
「行ってきます、大変お世話になりました」
私はお辞儀して、『ある世界線』を握っていた。
急に視界は白くまどろんでいく・・・・・・
未知なる世界へ旅立ち