本当に死んだのか
目が覚めると見覚えがある天井があった。
線香くさい葬儀用スーツを着たまま寝てしまったようだ。起き上がれば、目ヤニが溜まり、涙の筋がある頰はヒリヒリした。
袖で顔を擦る。
「本当に......死んだのか。父さん......」
上京して料理学校で勉強していたヒロキ。卒業したら父の下で修行して跡を継ぐ気だった。だが、卒業も間近に迫った冬に、先生から電話があると呼び出された。父が脳卒中で倒れたと。
慌てて乗った新幹線で、無事でいてくれ!と何度も願った祈りも、病室で横たわる父の脈拍数が0になっているのを見て、通じなかった絶望感に泣き崩れた。
思考が停止した状態で部屋を見渡すと、父の骨壷が机に置かれていた。ああ、現実なんだ。これは......
涙が出ない。受け入れるにはまだ自分に時間が足らなかった。夢であって欲しいと、未だに思っている。
グゥ.......
「はっ......嫌になるな。こんな時でも腹が減るなんて......」
部屋を出て、上京して以来の懐かしの厨房に降りる。
冷蔵庫を開ければ簡単なスープが作れる食材があった。
父さんが作ってくれたスープも、作れると思った。
父さんからは、腕は1日でもサボると落ちると言われていたな。思い出した教訓に従うため、研がれた包丁で食材を切り、鍋に鳥肉を入れてダシを取る。
作り始めてから2時間。
煮込んだスープから食欲をそそる香りが上る。
「俺も少しは成長したかな......」
従業員が賄いを食べるテーブルに料理を並べる。席について、いない人に問うような独り言を呟く。
そしてスプーンを取って口に運ぶ。舌の上にスープが流れ着いた時、ヒロキは衝撃でスプーンの手を止めた。
「これは......店の味じゃない......」